王道RPG
王城の豪華な廊下、そこをしばらく歩いた先にあった扉を、「色彩」が開ける。
扉の先は、結構広い応接室みたいなところ。部屋の真ん中にテーブルと長椅子。周りにある調度品とかも、地味だが細かい所に彫られた模様は、繊細で高級そうだ。
ここに来たのは勇者達のみ。俺はさっさと自由になりたいから話を聞く為、誰よりも早く椅子に座る。椅子のクッションがふかふかだな。落ち着かない。
…俺の右隣に「音」が座った所でまたしても失敗に気が付いた。
――長椅子の真ん中に座ってしまった…!
場所を変えようとしたが、時既に時間切れ。左に、尊敬の輝く眼差しで見てくる「剣」が座る。こっち見んな。
これで右左は人間、正面テーブル、背後は背もたれで囲まれた。
狼狽しているところを、テーブルの向こうに「獣」「色彩」「錬金」の順で座る。「文字」は空いた椅子が他にあるのに、なぜか「音」の横で立っている。
「皆さん、儀式お疲れ様でした。本来これから、町で買い物をしてから旅立つ予定でしたが、サアラさんの為に、ここでもう一度旅の目標を復習しましょう。」
「色彩」が話を始めたから、逃げるのは諦めて深く背もたれに体重を乗せる。もう頭が痛い。
「えっと…、瘴気から魔王が生まれたので、勇者を集めて魔王を退治する旅にでるのです?」
説明下手か。最後俺に聞いてくるんじゃねぇよ。知らないから。
「魔物と言われる化け物が集まる所には、瘴気が溜まります。魔物を散らせば消えるモノですが、溜まって澱んで何年も経てば、負の念を強く持つ新しい強力な魔物が生まれます。それを我々は「魔王」と呼び、生まれるたびにお伽噺の主人公と同じ境遇、力を持つ者が探され、勇者として魔王を討伐するよう依頼されるのです」
立ってる「文字」が分かりやすいあらすじを教えてくれる。
王道中の王道RPGかよ…。
「なんで勇者?」
「それほど魔王が強力だからですよ。勇者ですら、各地を回って戦いの経験を得てから、魔王の元へ行くよう推奨されているほどです。訓練を積んだ程度の騎士やギルドの人間では、敵わないでしょう」
「ふーん。「音」すら敵わないのか?」
「…魔王の強さにはばらつきがあり、生まれている事以外は未知なので」
あ、今こいつも「音」一人でいいかもって、絶対思ったな。
「どうあれ、俺はしきたりに従ってみるつもりだよ」
声色から察するに「音」は旅が楽しみっぽい。理解できないな。
「魔王の生まれた場所はおおよそで分かっていて、しばらくしたら城が建つと思うから、そこをしばらく避けて各地を廻るのよ。ふふっ、きっと魔王誕生で活性化した魔物があちこちにいるわ」
「俺の村…、その魔物にこの前荒らされたばっかなんだよな…」
勇者御一行は、村とか街を襲う魔王の手下を倒しつつレベルを上げて、苦労して魔王城に行くわけか。
テンプレかよ。と言うか「剣」、魔物に襲われた村出身の聖剣使いとか、主人公乙。
「だいたい解った。じゃあ行くか」
「えっ!?来てくれるのですか?あの…、乗り気では、なさそうだったのに……」
立ち上がった俺に「色彩」が驚きの声を上げる。なんで驚くのか、こっちが理解できない。
…だって。
「「魔王」が相手なんだろ?異世界だろうが、俺のやる事は神と魔王、その手下纏めて。 --殺すことだ」
俺の微笑に、部屋の温度が急激に下がる。「音」以外は顔を強張らせて固まる。
「俺一人で行くのもいいが、ここは異世界。俺の常識は通じない。だからお前等にはついて行ってやる。馴れ馴れしくしたら、殺すけどな」
だからさっさと出かけるぞと言うが、それぞれ顔を見合わせて誰も動かない。
「やる気があるのはとても嬉しいよ。だけど、まずは準備から始めようか」
「音」の微笑みと穏やかな声にやる気を削がれた。それと同時に俺が下げた空気が戻っていく感覚がする。
穏やかな、声、…音。「音の勇者」。はーん、なるほど。
「俺が来なかったらすぐ出掛ける手筈だったんだろ?」
「はぁ…。サアラと言いましたね。お前はまだここで、やるべき事があります。俺と一緒に来てください」
緊張から解かれた「文字」が、俺にそう言う。
「どこに行くんだ?」
「風呂です。…音!彼を逃がさないでください!!」
行き先を聞いた俺は、実戦仕込みの動きで部屋から逃げる。冗談じゃない。
―――風呂なんて、この上なく無防備になる場所、誰が行くか!
今のサアラ君の格好は乾いた血でぱりっぱり、更に落ちた時の土埃も合わさり割とやばい。