5.力
俺が闇の勢力を作って行くのと同時に、雄二もまた、光の都での地位を築き上げていた。
俺がこの世界に来て5年が経った頃、雄二は姓をラインハルトに変えていた。
『家』の力が強い光の都で権力を手にいれるために、有力者の家に婿入りしたのだった。
その頃から、ルクセントは闇への反発を強め始めた。
狙われたのは、ルクセントに比較的近い場所を縄張りにしていた、弱い魔物の群れだった。それまでは取るに足らないと思われていたところを、無視できないと判断されたのだ。
ある時、そのような群れの一つ、ケットシーの一族が標的にされた。ユージ・ラインハルト率いる聖光騎士団が、わずか33人でこの群れを討伐しに行くという発表があった。
元々この世界に連れてこられたのが36人、俺が抜けて、俺が2人殺したから残りは33人。計算は合っていると思っていたのだが、実状は俺が考えていたのとは少々異なっていた。
狙われているケットシーとは協力関係を結んでいたため、騎士団の襲撃に対して俺は救援に向かった。
ケットシーの住処に到着したのは俺と騎士団でほぼ同時だった。
騎士団の隊列に見知らぬ顔があった。
団員は33人で変わっていない。脱退も人員の補充も公表されていない。
「なあ、誰が死んだ?」
俺は隊列の先頭にいた雄二に尋ねた。
聖光騎士団は平和の象徴。だから揺らいではいけない。無敵でなければならない。だから、死人を公表せず、こっそり補充して死人が出たことを隠していたのだろう。
「葛西だよ。魔物の奇襲にあってね。痛ましい出来事だった」
葛西は周りが見えなくなることの多いやつだった。混乱した戦場で不意打ちを食らっても不思議ではなさそうだった。
「出世するのは大変そうだな」
ルクセントでの地位を築くためには、無敵の騎士団の団長という立場は、どうしても手放せなかったのだろう。
「人々が安心して暮らすためだよ」
「ここを襲うのも、『人々が安心して暮らすため』か? 魔物が死ぬことよりも、人々の安心とやらが大事か?」
雄二は残念そうな顔でため息をついた。
「魔物の心配をするなんて、本当に魔物の側についてしまったんだな」
あたかも俺を連れ戻したいと思っていたかのような口調だった。
「お前のせいでそうなったんだ。……無駄話に付き合ってくれてありがとう。もう帰る時間だ」
辺りからケットシーの気配が消えた。戦闘にすらならずに目的を果たすことができたのは僥幸だった。
「逃がすとでも?」
雄二が剣を構えた。
「逃げるさ」
騎士団の足下に地割れが発生した。
俺は闇だけでなく、闇を纏った物体も自在に扱えるようになっていた。
雄二は地割れを回避したが、剣が俺に届くよりも先に、俺の肉体は闇に融けた。
この場合は俺が間に合ったから助かったものの、全体として闇の勢力は徐々に数を削られていった。
その一方で、光の驚異を重く見た闇の勢力は団結し、光に対抗する雰囲気が形成され始めた。