4.協力者
この頃から俺は、雄二を殺すためには手段は選んでいられないと感じるようになっていた。
魔王軍と協力したのは、あくまで俺と雄二の一対一を作るための駒にするためだ。そうではなく、雄二との戦闘についても、数の力に頼った方がいいかも知れない。
闇の軍勢の中での魔王軍の位置づけは、例えるなら新進気鋭のベンチャー企業みたいなものだ。勢いはあるが、自力や年季では少々劣る。闇の軍勢にも色々あって、老舗の大企業のような位置づけのものもある。
俺が訪ねたのは、古豪の一つ、黒い狼のような魔物たちの一族だった。
真っ暗な洞窟の入り口に立つと、奥に気配を感じた。
(なんの用だ、若造よ)
声は聞こえず、ただ言葉だけが俺の頭に響いた。少し戸惑っていると、狼たちの中でひときわ大きく、毛色が灰色がかった個体が前に出た。
(喉の造りが違うせいで我々は人語を話せん。だからこういう形式をとっている。こちらは人語を解する。気にせず話せ)
魔法でテレパシーのようなことをやっているようだ。そういうことなら、と俺は早速本題に入った。
「光の連中と戦争がしたい。力を貸してくれ」
狼たちの口角が上がった。
(つい最近、似たようなことを言う小童がおったわ。魔王などと名乗っておったが、あやつはどうなった?)
「……死んだよ」
狼たちは当然だとでもいうような態度だった。
(光と闇は表裏一体。均衡が保たれていなければならん。光が滅びそうになれば、闇もまた衰退するか、あるいは光の中でより強い力が生まれる。光と闇は相反するものではあるが、相手が存在しなければこちらも存在できん。滅ぼそうなどと考えるのは無駄だ)
長く栄えてきたからこその知見なのだろう。
均衡、秩序。敵でありながら、相手の生存を許容することで安定を保ってきたのだろう。しかし、これからはそうも言っていられない。
「それならこっちも忠告しておく。あいつらはここで止まりはしない。必ず闇を滅ぼしにかかる」
(逆も然りだ。光もまた闇を滅ぼすことはできん)
「闇全体としてならそうかもしれない。だが個体としては多くの犠牲を払うことになるだろう。あんたたちくらいの知能があれば、自分が死にたくないと思う感情もあるんじゃないか?」
狼たちの返事は無かったから、わずかなりとも動揺させることはできたと思われるが、狼たちを見渡してみても、表情は読み取れなかった。
「まあその時が来ればわかるさ。また来るよ」
俺は踵を返した。
帰ろうとして俺は闇を発動した。力の扱いにも慣れたもので、肉体を闇に融かしての移動は魔力の消費も少なく、走るより断然速く、移動できるようになっていた。
(待て)
狼が俺を呼び止めた。
(貴様、その力どこで手に入れた)
俺はかいつまんで説明をした。光の精霊を奪われたときに闇が俺の中に入ってきたことを。
(そうか。……気が変わった。貴様に手を貸そう。必要があれば呼ぶといい)
「どういう心境の変化だ?」
(その闇、巨大な力だが人を狂わす。どこまで行くのか興味が湧いた)
何か知っていそうだったが、今のところはここまでしか聞くことはできなかった。
こうして、俺は協力者を得たのだった。