2.光と闇、善と悪
都から離れら淀んだ沼のほとりで、俺はようやく人間の形を取り戻した。腕の傷は塞いだが、失った血と体力は戻らない。俺は横になったまま動けないでいた。
「あの……」
女の子の声だった。
ここで出会ったのがラウラだった。ぼろ布で全身を隠し、沼の側にあるあばら家に住んでいた彼女が、俺に食事と休む場所を与えてくれた。
ラウラがなぜこんなところに住んでいたかというと、彼女の内にも闇の力があったからだ。ルクセントは光の都であるから、闇を持つ者は住んではいけないそうだ。だから都から離れたこの場所で、最低限の衣食住を与えられながら生活しているのだそうだ。
ラウラの顔の左半分は火傷でひどく爛れている。全身を布で覆っているのはそのためだ。これもまた、ルクセントの人間にやられたそうだ。闇を封じる儀式だと言って。
ルクセントの人間が憎くはないのかと聞いたが、そんなことはないとラウラは答えた。自分が闇を持ってしまったのが悪いのだと。この世界がこういう価値観なのかもしれないが、それが正しいとは思えなかった。
体力もかなり回復してきた頃、なぜ俺を助けたのか、とラウラに聞いたことがある。
「なんでって、……倒れてたから」
少々戸惑いながらラウラは答えた。
つまり彼女は、倒れている人がいれば助ける程度の、良心と行動力は備えているのだ。
光は人の目をくらませてしまう。
眩しさはそれ以外を隠してしまい、清潔そうな印象があるせいでそれだけ見ていれば良いと錯覚させてしまう。
光と闇は正義と悪に大して相関なんてないのだろう。ラウラがこんな迫害を受ける程人として醜いなんて思えない。逆にラウラを迫害したルクセントの人間の方が本質の見えない、心の濁った人間のように感じてならない。
この出会いによって、俺にもう一つ目標が加わった。ラウラが堂々と生きていけるような場所を作ろう、と。