1.憎しみの源
事の発端は15年前に遡る。
西暦2017年、日本と呼ばれる島国で、俺は高校に通っていた。
36人まとめて一つの部屋に押し込められて授業を受けていたときに、俺たちは謎の光に包まれた。
次に目を開けたとき、俺たちは大広間にいた。当時教室にいた全員がそこにいた。その部屋は真ん中を赤いカーペットが縦断し、その先には玉座がある。
そこに座る人物が言うには、俺たちはこの国の危機を救うためにここに召喚され、そのための力は既に与えられているらしい。
配られた紙を手で撫でると、いくつか数字が並んでいるのと、その横に単語が書いてあった。俺の紙に書かれた単語は、『光の精霊』。どうやら俺は、この『光の精霊』とやらの力を使えるらしかった。
クラスメイトと紙を見せ合った。数字に大差は無かったが、単語の方は人それぞれ異なっていた。例えば、俺の幼馴染の日野雄二の紙にあったのは『剣術適正・S』。
この単語に合わせて、次の日から訓練が始まった。始めのうちは見ず知らずの国を救うとか、そのために戦うとかに対して不平を言う人も多かったが、待遇の良さと、人知を超えた力を使う快感に、そういった声は次第に小さくなっていった。
力自体が強力だったこともあって、俺は割りと優秀な方だったと思う。
手の平サイズの精霊を呼び出して、それから魔力を引き出して魔法を使う。これが俺の力だった。
問題が起きたのは初陣を明日に控えた夜のことだった。
「泰地、お前は不安じゃないのか?」
俺の寝室で雄二が問う。
「不安っちゃ不安だけどさ……、でも、俺らがやらなきゃいけないことなんだろ」
「いいよな、お前は強い力貰えたんだから」
「力が強いとかじゃなくて、気持ちの問題だろ。俺たちがやることだから、俺たちがやる」
雄二の口元が奇妙に歪んだ。
「力の問題じゃない……、じゃあその精霊、俺にくれよ」
「いやそんなことできるわけ……」
言い終わるより前に、雄二の剣が俺の腹を貫いた。
抵抗しようと俺は精霊を呼び出した。しかしそれがいけなかった。雄二は精霊を掴んで奪い取った。腹を貫かれている俺に精霊を俺の元に留めておく力は無かった。
俺の中から光が消えて行く。薄れていく意識の中、光が消えて出来た隙間に、何かが入り込んで来るのを感じた。
目が覚めたとき、腹の傷は治療されていたが、俺は牢屋の中にいた。
俺の目が覚めたことを知ると、まだろくに歩けもしないうちに、俺は王様に呼び出された。
広間には、王様とクラスメイトがいた。もちろん雄二もだ。
「さてタイチよ、お主がユージの剣を奪おうとしたというのは本当か?」
王様は口を開くなり、事実とは真逆のことを言い出した。
「間違いありません! 昨夜こいつは私を部屋に呼び出し、剣を寄越せと迫りました」
俺が弁明しようとするより先に、雄二がでたらめを語り始めた。
「光の精霊も見限って逃げ出しましたため、私が保護しました。その証拠に、こいつの内にあった光は見る影もなく、今では闇が満ちています。こいつが邪な事を企んでいたことは疑いようもありません」
なおも雄二は続ける。
光の代わりに俺を満たしたもの。黒く粘つく闇が手からにじみ出た。
「でたらめです! 雄二の方が俺から精霊を奪いました」
ようやく俺も発言できたが、王様の表情は変わらなかった。
「お互い真逆のことを言っておるが……、とにかく、闇に呑まれた者をここに置いておくわけにはいかん」
王様の言い方は、重要なことは事の真偽よりも、俺が既に闇に呑まれてしまったことのようだった。
「勿論です。……このことが外に知られる前に、今ここで粛清した方が良いかもしれません」
雄二の口ぶりにおれの感情は爆発した。
「……っけるなふざけるなふざけるなァ!」
傷の痛みも無視して雄二へと食ってかかった。
間に入ろうとした正義感を殴り飛ばして走る。
拳に闇を纏わせて雄二に殴りかかる。
しかしこの拳は雄二に届くどころか、俺の体から離れていった。
雄二は剣で俺の腕を一息に斬り落とした。雄二の横には、光の精霊がいた。
「お前だけは、必ず俺が殺す……!」
俺は自分の体を闇に融かして逃げた。
俺はこのときに斬られた腕だけは治さなかった。色んなもので代用したりはしたが、腕そのものを再生したり、復元はしなかった。
雄二への怒りを忘れないため。いつか復讐を果たすという自分への誓いとして。