19.力と意思
塔を登っていくと、再び広い部屋に出た。
「ワンパターンじゃ面白くないぞ」
「まあそう言うなよ、楽しませてやるからさ」
待ち構えていたのはまた俺の元同級生、矢車栄吾だ。
「楽しむ気は無いんだけどな。後は何人いるんだ?」
「残ってるのは俺一人さ。この上に、光の頂がある」
「随分親切だな。そこまで教えてくれるのか」
「そっちの方が、目の前の敵に集中してくれるだろ?」
矢車は口角を上げた。
「おい、こいつは私にやらせろ」
魔王が割って入ってきた。どうした、と聞くと更に言葉を続けた。
「俺に止めを刺したのはこいつだ」
生前の魔王が光の都に戦争を仕掛けたとき、雄二は俺と戦っていた。だから魔王と戦っていたのはそれ以外のメンバーだったということになる。
「あいつ、そんなに強かったのか」
この世界に来てからの矢車は、訓練でもあまり目立っていた記憶は無い。
「いや、たまたまだ。止めがこいつだっただけさ」
「なーに無視してんだよ」
矢車が、俺たちの矢車を軽んじる態度に苛立ちを見せた。
矢車が攻撃を開始する。奴の周りに無数の氷が浮かんだ。
こいつが元々持っていた能力は、魔力を冷気や氷に変換するものだった。しかし、15年前はその力を戦闘に活かすことが上手く出来ないでいたようだった。
実際、今も氷を浮かべてはいるが、それがこちらに飛んでくる気配は無い。
警戒を続けていると、矢車の魔力が高まるのを感じた。光の精霊のものだ。
「防御!」
俺は魔王と黒狼に指示した。矢車が放った魔力は俺たちを狙わなかった。狙ったのは、奴が浮かべている氷だった。
氷に当たった光はランダムに屈折し、散弾のごとく俺たちを襲った。
「お前たち手も足も出ないなあ!」
光の散弾は絶え間なく俺たち向かってきて、動きを封じようとする。
「いやまあ……」
俺は一気に矢車との距離を詰めた。魔力を散らせば広範囲に攻撃が届くが、一つ一つが弱くなってしまう。俺にとっては、ちょっと我慢すれば無視できる程度の威力だった。
矢車は寸前で俺に気付いて飛び退いた。
「私がやると言っただろうが」
魔王の魔力が高まっていく。
「あんたの本気が見れるんだな」
俺は結局、生前の魔王の本気の戦闘を見ずじまいだった。だから、魔王に任せておくのも悪くはないかもしれないとも思った。しかしあまり非合理的なことも出来ないから、口には出さないでおいた。
魔王の周囲に拳大の球体が無数に浮かんだ。優に100個を越えるそれは魔力を固めたものだ。
球体は、矢車の周囲にある氷に向かった。驚くべきは、球体がそれぞれ独立した軌道で、別々の氷を狙って突撃したことだ。魔王は、この球体一つ一つを手足の如く操作しているのだった。ここまで器用な魔力の操作は俺にも出来ない。
矢車が氷を発生させたそばから、魔王の球体はそれを破壊していく。
「ここを物量で押しきれば、後はただの兵士と同じか?」
魔王は余裕を見せた。実際、今のところ氷を使った散弾以外、特別なものは見れていない。
「お前たち、あんまり舐めるなよ」
矢車の魔力が高まっていく。
光の精霊の魔力と他の魔力が合わさると、相乗効果でより強大な力になるのは雄二が実証済みだ。ひょっとしたら闇の根源の力と俺の力でも似たようなことが起きているかもしれない。
氷の散弾も、一発一発が一般兵の全力攻撃程度にまで威力が上がった。黒狼の耐久力ではこの攻撃は耐えられない。徐々に数が減らされていく。
俺は魔力の壁を作って黒狼を守った。
黒狼に動かないよう指示した瞬間、壁が破れた。
壁を破ったのは氷の槍だった。槍は黒狼の一体に刺さっている。矢車がもう一発を構える。
この槍は、光の魔力で推進力を得ているようだった。更に槍自体が光の魔力を纏っている。魔力で防御を崩した後で、氷がその奥の標的を貫くという仕掛けだ。
「防御なんて無駄だ!」
矢車は間断無く攻撃を続ける。散弾と槍が無数に俺たちに降り注いだ。
「ほう、では防御はやめよう」
魔王が勝負を決めに行った。小さな球体に分けていた魔力を一つにまとめた、直径5メートルを越える球体が矢車を襲う。
「こんなものでえ!」
矢車が槍を放つ。それは魔王の放った球体と、その奥の魔王を一気に貫いた。
矢車の腹に風穴が開いたのはそれと同時だった。魔王が気を引いた隙に俺の拳が矢車の腹を貫いた。
「どう、して……」
かすれた声で矢車が呟く。
「ここで理念とか正義とかを講釈する気は無いよ。お前はただ数の力に負けただけさ」
矢車は黙って目を閉じた。
「お前……」
俺は魔王の下に歩み寄った。胴が空になっている。
「あいつを殺せただけでも上々だった。なに、また気が向けば戻ってくるさ」
魔王は消えていった。




