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9.闇の根源(2)

 元々ルクセントは、闇の根源を封じ込めるために作られたそうだ。

 王宮が闇の根源を封じる神殿であり、その周囲に街が出来たことで都が形作られたという。


 俺が闇の根源に行くためにわざわざ戦争を仕掛けるわけにはいかないので、今回の作戦は隠密に行うこととなった。

 少数の黒狼が城門の警備を引き付けて、その間に俺がルクセントに潜入する。後は俺一人での仕事だ。

 これだけ光に満ちた空間で、聖光騎士団相手に正面からやりあってはさすがに分が悪い。だから戦闘はなるべく避けなければならない。街中では人目を避けながら進んでいったが、王宮に入ってからはそうも言っていられない。速さ勝負になった。

 俺を止めようとする警備兵を、進路を塞ぐものだけ殴り飛ばして目的地へと急ぐ。

 目指すのは王宮の一階最奥、開かずの扉と呼ばれる場所だ。そこの更に奥に、闇の根源へと続く道がある。

 ただしこの扉、闇の根源を封じ込んでいるだけあって、かなりの強度を誇る。普通にやって破れるようなものではない。


 もたついているうちに、追っ手が迫ってきた。先頭にいるのはもちろん雄二だった。

 雄二を見るとどうにもいけない。斬られたはずの右腕が疼いてしまう。今すぐにでも殺したくなってしまうが、この時だけはそう思うだけにとどめておかなければならなかった。

 俺の感情が昂ると、闇の根源から俺に力が流れ込んでくる。それはつまり、どこかに闇が漏れ出る穴があるということだ。

 感情は熱く、しかし冷静に力の流れを探る。存在するはずの、その一点を。

「見つけた」

 穴があれば、俺一人入れるだけの隙間はこじ開けられる。扉の物質的な強度は関係ない。無理矢理ぶち破って奥に入り込んだ。


 扉を越えてすぐ、巨大な螺旋階段があった。底の見えない闇の奥へと限りなく沈んでいくようだった。

 俺は階段を律儀に降りはせず、螺旋の中心を飛び降りた。追っ手も迫っていたし、俺は闇に恐怖を抱く必要はない。


 降りきってから、闇の濃くなる方に進んでいくと、開けた場所に出た。

 石造りの壁に囲まれて、ガラス張りの天井がある。夢で見たのと同じ場所だ。

 闇の奥から、人影が現れた。それは、『人影』としか形容できないものだった。

 シルエットは人間のようであるが、具体的な容姿を読み取ることができないのだった。一見すると存在自体が曖昧なものなのかと思ったが、それは全く逆だった。

 これは、夥しい数の人間や魔物が集まったものだった。数が多すぎるせいで、一人一人を判別できていなかったのだ。


「はじめまして、でいいのか?」

(ずっと、待ってた……)

 声は聞こえず、ただ言葉だけが頭に響く。黒狼と同じやり方だったため、動揺はしなかった。


(君は、ここに来るはずだった)

 俺が闇を抱えたままどこかで死んでいたら、闇の力と一緒にここに来ていたのだろう。そして今俺が向かい合っているこの人影は、そのような、闇を抱えたまま死んでいった人々が集まって出来たものなのだ。


「俺に力をくれるってことでいいんだよな」

 俺は早速本題に入った。



(一緒にいこう)

 人影が手をさしのべると、俺はそれに触れた。

 その瞬間、俺の中に限りないと思えるほどの情報が流れ込んでくる。割れそうな程の頭の痛みの中で、いくつかの情景が浮かんだ。

 ある少年は、ただ闇を持っていたために、光の都の人間から生き埋めにされた。

 ある老女は、村に魔物の群れが迷い混んだのを助けたばっかりに、家ごと焼け死んだ。

 ある魔物は、醜いというただそれだけで、追い立てられ、剣を突き立てられた。


 そんな記憶が、苦しみが、憎しみが、哀しみが一拍の間に俺の頭に流れ込んできた。

 思わず膝をついた俺に、人影がまた話しかけてくる。

(みんな一緒だよ……)

「お前ら、俺を取り込む気か……!」

 人影の中に、俺も加えたいのだろうと思った。


(わたしたちの力は、わたしたちにしか使えない)

「……そういうことかよ。お前らと同化しないと、闇の根源の力は使えないってことか」


 であれば、俺に選択の余地は無い。頭の痛みもまだ引かないまま、俺はもう一度人影に触れた。


 今度は、痛みに声を抑えることが出来なかった。ただ痛いだけではない。その時の悲鳴を、絶叫を、慟哭を追体験しているのだ。


 途切れかけた意識の中で、たった今聞いた言葉が再び頭に浮かんだ。


 みんな一緒だよ。


 そう、俺も同じなんだ。辛くて、悔しいのに、力が無いためにどうすることも出来ない。そんな気持ちを抱えている人は俺一人じゃない。この人たちは無念のままここに来た。俺はまだ可能性を持ったままここにいる。ここにまだ来ていない人たちもきっと大勢いる。


 一緒に行こう。皆が思った通りにはならないだろうけど、少し溜飲を下げるくらいはできると思う。


 いつの間にか、痛みは消えていた。

 俺は一筋だけ、涙を流した。

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