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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あるいはこんな地獄

作者: うさぎバチ

 スプラッタ系のホラーです。


 残酷な表現、流血描写、身体欠損、などがありますので、苦手な方は読むことをお薦めしません。


 また、読んでいる途中で気分の悪くなった方も無理せず、読むことを止めることをお薦めします。


 作中で名前や性別、容姿に食事の内容など、細かい説明が無いところは特に決めていませんので自由に解釈して頂きたいです。

 廃れた廃村の廃屋の壁を背に、若い女性が両手でアサルトライフルを抱えて、息を潜めていた。


 彼女が壁の端から廃屋の先を覗くと、その先には二人の男女が瓦礫の陰に隠れながら、彼女を見ていた。


 それに気づいた二人は、持っていたアサルトライフルを彼女に向けて発砲した。


『いやあぁぁぁ!!!』


 彼女は叫び、頭を抱えて壁の裏に隠れる。


「…チームプレイは想定してないんですが…」


 喫茶店のような部屋の一つの席に座り、パソコンの画面越しに彼女達の銃撃戦を、テレビでも見るようにスーツ姿の男が一人、呟く。


 彼は少年のような体格の中性的な顔立ちをしていたが、右の眉の上辺りからくの字に真上に向けて角が一本、生やした鬼だった。


 そんな彼が見ていた画面では、先ほど撃たれていた女性が銃撃が起きていない方へと逃げる。


『なんでこんな目に遭わなきゃいけないの!?』


 彼女が叫ぶ、それを聞いた鬼の男は――


「それがあなたへの貴女の罰……そういえば、彼女の経歴は何でしたか?」


 そう言って、画面に映る女性を指でタップする。


 すると、画面にステータス欄が出て彼女の詳細や経歴が映る。


 (やはりタッチパネルは便利ですね)


 そんなことを考えながら、画面の【罪状】と書かれた欄の途中の文を読み上げる。


「……ネットに中傷の書き込みによる被害者数名を自殺に追い込んだ罪、同級生に対して、いじめを行い自殺に追い込むと……間接的ではありますが――、結構、殺してますね」


 鬼はそれを嘲笑った。


 さらに、その枠の下の【死亡理由】と書かれた欄を見る。そこには――


【いじめを受けていた被害者の遺族による復讐により死亡】


 ――と、書かれて、その下には【詳細】とあったが、


 (この下は、どうでもいいですね……)


 ――と、鬼は画面のステータス欄を閉じ、再び観戦し始める。


 するとそこには、彼女の先にもう一人、銃を構えた男性が銃撃をしていた二人と彼女を挟むように立っていた。


 そして、三人は彼女に向けて発砲した。


 一つの弾丸は、腹部に、もう一つは、頭の側面、腕、足、顔、また足。


 銃撃が続き、彼女の身体はさながら、狂った踊りをしているようだった。


「……やはり、チームを組めないよう、ルール作りを見直す必要がありますね」


 その光景を見ながら、鬼は考える。


 画面の中では銃撃が止み、見るも無残な姿になった女性が地面に崩れるように倒れた。


 そして、アサルトライフルだけを残して塵になっていった。


朱殷(しゅあん)さん、一人の亡者を集中してみてるなんて、珍しいっスね?」


 鬼の男の二倍近い程、ラフなTシャツを着た大きな身体の筋骨隆々の赤い肌をし、頭の天辺から二本の角を髪から覗かせた、男の赤鬼が


 朱殷(しゅあん)と呼ばれた、鬼の男に質問する。


「おや?紅鳶(べにとび)さん、貴方も休憩ですか、……興味深い組み合わせになったので見ていたんですよ。」


 朱殷(しゅあん)がモニター画面を触り、二人組を映す。


「……この男女、さっきの女性のいじめの被害者と、その遺族なんですよ」


 二人を指さす――、その先では二人組がすすり泣いているようだった。


「そりゃあ、珍しい組み合わせになりましたね」


 紅鳶(べにとび)が、うんうんと頷く。


 朱殷(しゅあん)が画面を操作すると場面が変わり、先ほどの廃村とは違い今度は、デパートの呉服店の中が移る。


 そこに塵になって消えたはずの女性が、仰向けで眠った様な状態で居た。


 女性が少しずつまぶたを開き始めるが、顔を抑え、目を見開き――


『ぎゃああああ!!!』


 絶叫した。


 さっきまで撃たれていた痛みが戻ってきたのだろう、苦痛で顔が歪んでいる。


 まさか、自身のいじめで自殺に至った人物、更にその遺族である復讐者が後追い自殺をして、目の前に現れるとは彼女も思いもよらなかっただろう。


 叫び疲れて、息が切れる。


 その声を聴いたのか、誰かがアサルトライフルを構えて、彼女がいる店のショーウインドウのガラスに映る。


 それに気づき、彼女は近くに置いてあった手りゅう弾の付いたベルトを手に取り試着室に隠れた。


 息を潜めて、その誰かが店の中に入ってきたのを見計らって手りゅう弾を一つ、ベルトから取り外して投げて、すぐに隠れる。


 それがその誰かの足元に転がり、その誰かは慌ててそこから離れようとしたが間に合わず、手りゅう弾が破裂し、爆発に巻き込まれた。


 爆発の衝撃が収まり、彼女は隠れていた試着室から出てきて、その誰かの死体を見る。


 片足は吹き飛び、もう片方は辛うじて身体に繋がっていたが、その身体からは内臓が飛び出して、両腕は蛇の様に曲がって、その顔は苦痛に歪んでいた。


 彼女は、それを見ると顔から血の気が引いて、胸のあたりを抑えて吐いた。


「おや、知った顔だったんでしょうか?」


「そりゃまた珍しい!」


 鬼の二人は談笑でもするかのように、朱殷(しゅあん)はいつの間にかテーブルに置かれていた緑茶を啜り、紅鳶(べにとび)は食事をしている。


『ゲホッゲホッ…うぇぇ…』


 何も入っていないはずの胃から一頻り吐しゃ物を吐く。


 彼女が、むせていると発砲音と共に、彼女の足元に弾が飛んでくる。


 彼女は、塵になって消えた死体が残したアサルトライフルを手に取ると、店の中に逃げて陣取る。


「……まあ、これで彼女もこの罰の仕組みを、ちゃんと理解したでしょう」


 パソコンを閉じ朱殷(しゅあん)は、お茶を飲み干すと――


「……さて、そろそろ戻りますか。紅鳶(べにとび)さん、お先に失礼します」


「あっ、どもっス」


 朱殷(しゅあん)は、席を立つ。


 白い壁で覆われた部屋のドアを開けて、朱殷(しゅあん)は中に入る。


 そこには数十人の男女が、幾つかの長い机の前で椅子に座っていた。


(……今回は若い人ばかりですね)


 そんな感想を考えながら、朱殷(しゅあん)は彼らの机の前の方に置いてあった教壇の前に立つ。


 ――なんだ、随分小さいな。

 ――角、生えてる。

 ――子供じゃないか。

 ――男の子?女の子?


 なんて声が聞こえてくる。確かに彼らに比べたら、彼は小柄だった。


 朱殷(しゅあん)はコホンと咳ばらいをすると――


「もうお判りでしょうが、あなた方は既に亡くなっています」


 にこやかに亡者達に、そう告げた。


 部屋の中が重い空気になる。さらに続けるようにして――


「それから、生前に行った悪行、善行によって罪状を決めて、それによって刑罰を受けてもらうために各部屋に送られます」


 彼らが少しざわつくが、さらに続けて――


「更に悪行、善行を数値化しポイントにしますので、それが無くなるように、罪状ごとに罰を受けてもらいます。それが無くなったら次の罪状の罰を、全ての罰を受けて全部なくなれば、晴れて転生できます」


 部屋の中が騒がしくなるが、それでもなお説明が続く。


「ちなみに、この部屋に送られてきたあなた方の罪状は、殺人罪です」


 部屋の中が、――シン、と静かになる。


「…では静かになったところで、これから行ってもらうことについて説明します」


 ここで部屋が薄暗くなり、彼の後ろにスクリーンが降りてきて彼の説明に合わせて、プロジェクターから映像が流れる。


「あなた方は、まず一定の範囲の土地に散り散りにランダムで転移させられます。そこには必ず殺傷力がある道具が一人につき一つ置かれていますので、それを使って殺しあって下さい」


 ここで朱殷が、にこやかに笑う。


「ちょっと待てやぁ!」


 一人の亡者の男が、拳を机に叩きつけながら立ち上がる。


「何が殺しあえだぁ!、ガキが調子こくんじゃねぇぞ!」


 怒号を吐き散らしながら、朱殷(しゅあん)の前に立つ。


「俺はなぁ…人を殺すなんて、屁でもねぇんだぞ!殺れってんなら、てめぇから殺してやろうか!?」


 男は朱殷(しゅあん)に対して、脅しをかけ胸倉を掴む。


「どうぞ?ご勝手に、直接的な殺人はしたことがないチンピラさん?」


 しかし冷淡とした顔で朱殷(しゅあん)は貶す様に、淡々と男を煽る。


「――ってめぇ!」


 朱殷(しゅあん)の言葉に、怒りが頂点に達した男が殴り掛かる。


 しかし、その腕は朱殷(しゅあん)に届く前に、肘のあたりから千切れてしまう。


 その千切れた腕は、朱殷(しゅあん)の片方の手に掴まれていた。


 朱殷(しゅあん)はゆっくりと手を放し、その腕が床に落ちる。


「あ……あ?」


 ――自分の腕。

 男がそれに気づき、叫ぶ前に、朱殷(しゅあん)は胸倉を掴んでいた腕も同じ様に肘から引きちぎる。


 更に、男の頭の後ろに回り、片方の手で男の顎を、もう片方の手で頭の上を掴み――。


「…えー、相手を殺す、又は殺されることで刑期が増減します、相手や死体から武器を奪っても構いません」


 薄暗い部屋の中で、朱殷(しゅあん)は笑顔で説明を続ける。


 その顔とスーツは、半分以上が血に染まっていた。


「死亡した場合、数秒後に消滅、別の場所に転移して復活します。もちろん武器も再配置されます」


 淡々と説明している彼の足元には、両腕と首から上を失った男の身体が転がっていて、教壇の上に男の首が置かれていた。


 (……なかなかいい映像が残りましたね)


 男の首をコロコロと左右に転がしながら、スクリーンの映像を見る。


 彼が説明している間、スクリーンに説明と一緒に、先ほど朱殷(しゅあん)が休憩中に眺めていた映像が、繰り返し流されていた。


「あぁ、それと肉体や服がバラバラになっても、ちゃんと元通りになって転移しますので、安心して死んでく下さい、……まぁ、あなた方、既に死んでるんですけどね」


 本人は笑いを取るつもりで、言ったようだったが――、誰一人、言葉を発せず、寧ろ空気が重くなっただけだった。


 少しの沈黙の後、朱殷(しゅあん)は照れ隠しの咳ばらいをする。


 スクリーンの映像が消えて、部屋の中が明るくなると――


「はい、では皆さん、これで説明は終わりです、何か質問があれば、どうぞ」


 朱殷(しゅあん)は亡者達を見渡すが、誰も何も言わなかったので軽く手を叩き――


「それでは、スタートです。頑張ってくださいね。」


 彼が邪悪な笑みを浮かべ、その場にいた亡者達は全員、刑場へと飛ばされる。


 部屋を後にしようとした彼の足にコツンと、亡者の男の死体が当たる。


「…おっと、ここではまだルール適応外でしたね」


 朱殷(しゅあん)は男の身体の上に、彼の両腕を重ねて、彼の首を手に取る。


「どうですか?苦しいですか?」


 朱殷(しゅあん)は首に語りかける、すると明らかに死んでいるであろう首が微かに動いている。


 微かに瞬きをして、息をしようと口を動かすが、千切れた首元から空気が漏れる、それでも彼は動いていた。


「大変でしょう?死にたいですか?」


 首は言葉を発しようとするも、喉が潰れているので空気の擦れる音が聞こえるだけだった。


「ここでは、本来どんな状態であっても死ぬことは出来ませんし、再生も出来ません。それができるのは、私を含めた鬼だけです。なので、このままにすることも、これ以上の事をすることもできます。どうですか?辛いですよね?刑場に行けば、そのままでもすぐに元通りになりますよ?行きたいですか?あぁ、瞬きで返事をしてくださいね」


 朱殷(しゅあん)は薄ら笑いを浮かべながら、一方的に交渉する。その言葉に首は、必死に瞬きを繰り返している。


「そんなに焦らないでも大丈夫ですよ、送るのは決定されていることですから。」


 瞬きに答えるように、首を男の身体の上に、じらす様にゆっくりと置く。


「では、いってらっしゃい」


 消えていく男に、朱殷(しゅあん)はそんな皮肉を掛ける。


「……さて何人、刑期を終わらせることができるんでしょうね」


 ――数百年前


「……子供が一人、混じったのだが」


 合戦場の様な荒野を、高台から眺める着物姿の大男が言う。


「はい、閻魔様。他の刑期は全て終わっています、後はこの殺人罪の刑期のみです」


 閻魔様と、呼ばれた大男。


 その隣に、筋肉質の身体に、緑色の肌に着物姿の、ウェーブのかかった長い髪から、二本の角の生えた女の緑鬼。

 

 その視線の先には、合戦場で折れた刀を手に持ったみすぼらしい浴衣姿の少年。


 それを、刀を持った一人の同じくみすぼらしい浴衣姿の大人の男に追われていた。


「……あの様子ならば、すぐに刑期も終わるだろう。織部(おりべ)、転生の時は頼んだ」


「はい、わかりました」


 織部(おりべ)と呼ばれた緑鬼が、返事をすると閻魔様は、その場を後にする。


 織部(おりべ)が再び、少年の方を見ると、背中を切られて倒れていた。


「……あと少しで終わります、なので……」


 耐えてください――、と口には出さず、織部(おりべ)は思った。


 (……おかしい)


 少年は再スタートすると、考え込む。


 (また、あの男に殺された、もう何回目だろうか)


 先ほど切り捨ててきた男に、もう五回ほどだろうか殺されている。


 (あれだけ殺しているのに未だに刑期が終わらない、むしろ何度も殺されたはずの老人や自分の様な子供の方が、もう見ていないような気がする)


 そんな事を考えていると、彼をにらんでいる男が一人、槍を構えている。


「きっ貴様!あの時、村の井戸に毒を撒きやがったな!」


 怒りの声に驚き、慌てて武器を探すが――


「うっ……」


 戸惑った一瞬の間に少年の胸に、槍の穂先が突き刺さる。


 咄嗟に槍の柄を掴むが、穂先は体の中に入っていく。


(あぁ――くそ……)


 体から槍が引き抜かれて、少年は地面に倒れる。


 少年と地面の間からは、血が滲み赤い池が出来た。


「……やった……ははっ、おっかぁ、仇はとったぞ……」


 男は少年の死にゆくさまを見て、悲痛と歓喜の混じって声をもらす。


 (……そうか……この人は……あの村の……)


 少年は死の痛みの中、走馬灯の様に思い出す。


 

 薄暗い森の中で、何かを殴った様な音が響く。


「――姉さん!」


 少年は、姉を呼ぶ。


「騒ぐんじゃねぇ!」


 小汚い姿の男が叫ぶ、その男の足元では、一人の女性が頬を腫らして倒れていた。


「……今、ここで殺してもいいだぞ?」


 男は鉈を手に、その刃を女性の首元に当てる。


「――っ!?」


 少年は男を睨む。


「…まぁ、ちょーっと、やってもらいたいことがあるだけだ」


 男はそう言って少年の前に、小さな袋を投げる。


「その袋の中身を、この先の村の井戸に入れるだけでいい。それまでお前の姉ちゃんは人質だ。……なあに終わったら返してやるよ」


 男は下衆な笑いをする。


 少年は、袋を手に取り――


「……本当だな?」


 男は笑った顔で、あぁ、と答える。


 少年の姉は悲しい顔をして首を横に振る。


 ――駄目、そんな事してはいけない。


 そう言っているようだった。


 少年の姉は、生まれた時から声が出せなかったが少年にはその言葉は伝わっていた。


 しかし、彼はそれを振り切る様にして村に向かってしまった。


 夜になり、隠れるようにして村の井戸の前に立つ。そして、男から渡された袋を投げ入れる。


「……おい、何してる」


 しかし、村の住人に見つかって、声を掛けられてしまう。


「あっ……」


 不意に話しかけられた少年は、驚き戸惑いながら逃げてしまった。


「あっ!おい!……ありゃあ、何だったんだ?」


 村人の男は、疑問に思いながら井戸の方を見るが、井戸の水でももらいに来たのだろうとら気にせずに帰ってしまった。


 少年は森の中を走る、姉の元へと急ぐ。


 姉と共に山菜取りをしていた場所へと――


「はぁ……はぁ……」


 朝になり、息を切らしながら少年は、そこにたどり着く。


 しかし、そこには誰もいなかった。


 (……くそ、どこに……)


 少年が焦っていると後ろから――


「よぉ、意外と速いな」


 後ろから声をかけられて、少年は後ろを振り向く。


 そこには、あの男が立っていたが姉の姿はなかった。


「――姉さんを何処にやった!?」


 少年は男に詰め寄るが、男は――


「ちゃあんと、撒いてきたか?」


 彼の言葉を無視するように、男は質問する。


「約束は果たしたぞ!姉さんは何処だ!」


「まぁ、待て待て、連れてってやるよ」


 少年の言葉に、男はヘラヘラと返す。森の中を少年は黙って、男についていく。


 森を抜けてると、その先は崖なっていた。男はその先を指を指す。


「ここから、あの村が見えるだろう?」


 少年はその先を見る、確かにあの村が見える。


「ひっ……!」


 少年は息を飲む――


 地獄だった。

 悶え苦しむ村人達、すでに動かない人達。


「……どうだい?すごいだろう」


 男の言葉に少年は反応、出来なかった。


「そうそう、あの姉ちゃんなら、もう居ない、人買いに売っぱらった」


 追い討ちをかけるように、男は続けた。


「うわぁぁぁぁ!!」


 少年は男に飛び掛かったが、避けられて地面に押さえられてしまった。


「色々ありがとうよ。お前らのお陰で、がっぽり儲かった」


 少年はもがくが、動かない。


「お前を殺して村に持っていけば、それで終わりだ」


 少年は更に激しくもがく。


 その時、地面が割れて崖の方へ少年と男は落ちる。


 ―――あの時、俺は死んだ。


 再復活した少年は、さっき死ぬ前に見た走馬灯を思い出す。


 崖から落ちて死んだ後、少年はこの地獄で幾つかの刑場で刑罰を受けて、今この殺人罪の刑場に送られた。


 (姉さんは、まだ生きているだろうか……)


 少なくとも、この地獄では見ていない。


 (ともかく、死んでいてほしくないな)


 思いながら少年は、近くにあった弓矢を手に取り、新たに送られた竹林の中を歩く。


 しばらく歩いた後、人の後ろ姿を見つけて体を屈ませて竹の影に隠れた。


 それなりに整った着物姿の女性に思える。


 息を潜めて様子を伺っていると、その人はこちらを振り向く。少年はその顔に見覚えがあった。


「……姉さん!」


 顔立ちは少し大人びていたが、少年の姉だった。少年は彼女の前に出た。


「姉さん……」


 彼女は驚いた後に、安堵と哀しみの表情をする。少年も、嬉しいやら悲しいやらで、心が一杯だった。


 彼女がここにいるということは、誰かを死なせたか、あるいは――。


「姉さん、どうしてここに?」


 少年の問いかけに彼女は悲しい顔でうつむく。


 そして、胸の前で両手で抱えていた綺麗な彩飾彫られた鞘に納められた小刀を自分の首の前にかざす。


「……まさか、自分で……?」


 少年の言葉に彼女は頷く。


 それ以上、少年は聞かなかった、代わりに彼女の背に両手を伸ばし優しく抱きしめる。


 彼女も答えるように彼の背に両手を伸ばす。


 地獄での再会ではあったものの、少年には喜ばしい出来事だった。


 互いに両手を離し、互いの顔を見る。 


「……姉さ――」


 しかし、少年の言葉を遮るように、彼女は少年を押し倒した。


「何を――!」


 急な行動にでた姉に驚く少年だったが、少年が見た姉の姿は、

 胸に一本の矢が刺さっていた。


 少年が戸惑っていると、再び矢が跳んできて彼女に刺さる。


 彼女が崩れる様に地面に倒れる。


「――っ!」


 少年は、矢が跳んできた方へと弓を構える。頭巾を被った男が、弓を構えて立っていた。


 少年と男が、矢を射るのは同時だった。少年の矢は男の喉元に、男の矢は少年の肩をかする。


 男が倒れるのを確認すると、少年はすぐに姉の元に駆け寄り、彼女の体を抱えた。


「そんな……姉さん……ごめん……また……」


 少年の目から涙がこぼれる。少年の姉は小さく首を横に振る。


 呼吸が乱れ、今にも死に絶えそうだった。


 しかし、それでも彼女は彼の方に、悲しくも優しい笑顔を向ける。

 その笑顔のまま、息を引き取った。

 少年は彼女をずっと抱えていた。

 小刀を残して消えるその時まで。


「……」


 少年は彼女が残した小刀を手に握りしめる。


「うぅ……」


 その時、何処からか少年の耳にうめき声が聞こえる。その声の主は、先ほど姉を射った男だった。 


 少年は近づき、頭巾を剥がし男の顔を見た。その顔には見覚えがあった。


 少年に毒を撒かせ、姉を売った男だった。


「――こいつ!」


 咄嗟に男が腰に差していた刀を奪い、喉に矢が刺さり死にかけている男の胸に刃先を突き刺した。


 男は口と喉元の穴から血を吹き出し悶えたが、すぐに動かなくなった。


 少年が刀を男の死体から引き抜くと死体が消え、男が持っていた幾つかの矢と弓が残った。


 それを拾いながら――


 (ここでは死んでも、また復活する。子供だろうと老人だろうと、刑期が終わるまで何度でも……)


 少年は、姉の残した小刀を握りしめる。もしかしたら、また会えるかも、そう思いながら。


 それは同時に、忌々しいあの男も同じということにも気づく。


 再会できる、その時までこの小刀を奪われぬように生き残らなければ…。


 少年は心に誓いを立てた。


 どれ程の時間が経ったのか、少年はそれまでずっと逃げ延びていた。


 幾人の亡者を討ち倒し、少年の服は血で染まっていた。


 しかし、その懐に小刀だけは、大事に仕舞われていた。


 少年が襲ってきた亡者を切り捨てると、不意に何かを感じて空を見上げた。


 普段、空を見ても、ただ雲と太陽あるいは月が赤い空にあるだけの筈だった。


 その赤い空に丘が見え、この上には緑色の肌をした女の鬼と、もう一人。


 (姉さん――!)

 彼を庇い、死に絶えて消えていった少年の姉だった。彼女は、辛く悲しい表情をして少年を見つめていた。


 姉に向けて声を掛けようとした時、緑鬼が彼女に対して何かを告げる。


 ――時間です。


 そう言った様に見えた。


 その言葉に、少年の姉は小さく頷き、再び少年を見ると目元に一筋の涙を流す。


 そして、少年に背を向けて鬼と共に霞の中にに消えていった。


「姉さん!姉さん!」


 少年が叫ぶが、全てが霞の中に消えて、赤い空だけが見えるだけだった。


 少年は項垂れる。


「……そうか、そう言うことか」


 何かを理解して、小さく呟く。その少年を隠れて見ていた亡者が一人、襲いかかった。


「――しまった!」


 少年が驚き、よろけた。――その時に、懐から小刀が落ちた。


 亡者がそれを拾い、少年の頭に斬りかかる。


 寸での所で少年の頭の右側に当たるが、少年は亡者の背中を刀で斬り裂いた。


 亡者は背中から、血飛沫を上げて倒れる。少年の頭から、血が流れる。


 その血で彼は、再び紅く染まる。紅くなった彼は、空を見上げて高笑いをする。


 更に時が経ち、少年は岩に腰掛け刀を支えにして休んでいた。


 彼はあれから、一度も死んではいなかった。それどころか、最近では他の亡者はほとんど見なくなった。


 彼の服は血が乾き、赤黒くなっていた。そんな少年の前に、近づいてくる誰かの足音。


 それに気づいて、少年はその人を見る。


「久しぶりに人がきたか……いや、あんたの顔とその髭には見覚えがある」


 彼の前にやって来たのは、少年の死後に地獄で罪状を述べた、閻魔様だった。


「……で、何?殺しにでも来たの?」


「違う」


 少年の質問に、閻魔様は即答する。


「キミは他の亡者達に、どう呼ばれているか知っているか?」


 今度は、閻魔様が質問する。


「……朱殷(しゅあん)だと思う」


 少年は、少し悩み答えた。


 幾度となく亡者を切り捨て、血を浴び、彼の体は常に紅く濡れて、笑っていた。


 そんな彼と再び出会った亡者達が、その血に濡れた狂気の姿にいつしか――


 朱殷(しゅあん)と、呼ばれていた。


「……出会ったら最後、必ず殺される。そう恐れられていた」


 朱殷(しゅあん)が、笑う。


「かなりの亡者を切り捨てていたな。実は今、ここの亡者はもうキミしかいない。次がやって来るのもだいぶ先だ」


 閻魔様が呆れるが、彼は鼻で笑う。


「そうか、じゃあそれまで休むとするよ」


 朱殷(しゅあん)は、伸びをするが――


「ここの刑罰の方法に、もう気づいていたんだろう?」


 閻魔様が聞くと、彼は辛く悲しい表情になる。


 この地獄で殺人を犯すか、意図的に死亡すると刑期が延びる。


 誰かに殺されるか、誰かを庇うと短くなる刑期が終わるまでずっと、それを繰り返す。


 それが、この地獄だった。彼はそれに、気づいてしまった。


「……そして、終わりがない者がいることも」


 閻魔様が彼を見る。この刑罰の方法では、必ず一人残る。


 殺人鬼が最後に残る。そして、最後に残ったのが――、朱殷(しゅあん)だった。


「……キミはこれからも、ずっとここで続けるかい?」


「……」


 彼は、無言のままだった。閻魔様は、一度ため息を吐くと――


「地獄では生前の全ての罪の罰を受ければ、現世に転生できる。転生後は、地獄での記憶は一切無くなる。但し、魂に恐怖が刷り込まれる」


 朱殷(しゅあん)は、黙って聞いていた。


「それでも転生後に再び罪を犯す。そして地獄に戻ってくる亡者も多い」


「……何が、言いたい。」


 黙っていた朱殷(しゅあん)が、口を挟む。


「やってくる亡者の中に、キミの姉の転生した亡者がここに来ないと言う保証はない」


 彼は目線を反らす。閻魔様は続ける。


「そしてその亡者を斬れるのかい?」


 沈黙が訪れる。暫くの後――


「……俺は目の前現れた亡者を倒すだけだ。例え、それが姉さんの転生した亡者だったとしても」


 彼の顔は決意に満ちていた。


「……そうか、わかった」


 閻魔様が言葉を返すが、続けて――


「……だが、キミにそれは出来ない」


 その言葉に、朱殷(しゅあん)は疑問の表情をする。


「どういう――!うぁっ!?」


 突如、彼は苦しみ出す、右側の頭を押さえて膝をつく。


 右側の頭の古傷、姉の小刀を亡者に奪われ、斬られた跡が疼く。


 彼はうめき声を上げる、古傷の皮膚の下から角が生えてくる。


「……なん……だ、これ……?」


 朱殷(しゅあん)は、頭に生えた角を触る。


 まるで、鬼のような角。


「……やはり、成ってしまったか」


 閻魔様はニヤリと、笑う。


「おめでとう、キミは鬼になった」


 未だに自分の状況に、声が出せない彼に対して――


「鬼の誕生の一つに、君の様な事例がある」


 少し、悲しい顔をして――


「キミはもう簡単には、現世に転生できなくなった」


 朱殷(しゅあん)は、黙って聞いていたが――


「……俺はどうなるんだ?」


 少し、不安になって聞いてみる。


 そんな彼に閻魔様は――


「それは、もちろん――」


 ――目覚まし時計がうるさく鳴り出した。


 朱殷(しゅあん)は手探りで、それを止めて寝床から起き出す


 身支度と食事を済まして、いつものスーツに着替えて、仕事場に向かう。


 今日も数人の殺人罪の亡者達に、説明会を開く。


「では、皆さん頑って下さい」


 ――と、皮肉混じりに刑場に送るのだった。


 鬼になる前の言葉づかいは落ち着き、地獄も時代に合わせた格好や設備に変わった。


 タッチパネル式のパソコンも、その一つで朱殷(しゅあん)はこれを特に気に入っていた。


 (さて……今日のお昼は何にしましょうか)


 お昼時になり、彼は食堂に向かう。


「あっ!居た!朱殷(しゅあん)さーん!」


 そこに、紅鳶(べにとび)がやって来る。


「おや、どうしましたか?」


 朱殷(しゅあん)紅鳶(べにとび)より後に地獄に生まれた鬼であり、そのためかよく頼られていた。


「それがですね、とにかく刑場の方を観てください」


 二人は食堂の席に座り、ノートパソコンを開き、紅鳶(べにとび)の指定した刑場の映像を開く。


「これは……大変ですね」


 映像を観ると、数十人の亡者達が運動場に集まっていた。


 その運動場の高台の上で一人の亡者が、他の亡者達に語りかけていた。


「あー、これは話の内容だと、殺しあわなくなりますね」


 映像の中で、もう少し達も一人の亡者に賛同しているようだった。


「……どうします?」


 朱殷(しゅあん)は少し、考えて――


「…そういえば、紅鳶(べにとび)さんは、こういった事態は初めてでしたね」


 現世では、人類が増えて更にネットや通信端末の普及により、誰でも安易に殺人や自殺に繋がるようになった。


 そのため、この刑場に堕ちる亡者も増えた為、亡者達の中にまとめ役の様な者が、昔よりも多くなった。


「……えぇ?……もしかして?」


 彼の言葉に、紅鳶(べにとび)は嬉々とした表情を見せる。


「そうです。ちょっと行って――、あぁ、先を越されましたね」


 指示をしようとした矢先に、亡者達の元に、レディーススーツ姿の緑色の肌をした女の鬼、織部(おりべ)が現れる。


「あっ!織部(おりべ)さん、いつの間に……」


 亡者達が警戒して武器を構える中で、織部(おりべ)は亡者達にお辞儀をする。


『えーっと、一応聞きますが、何をしているんですか?』


 亡者達の行動に対して彼女はわかっていたが、とりあえず聞いてみる。


『私たちで殺しあう必要はないのですよ、あなた方、鬼の言うようにはいきませんよ』


 リーダー格の亡者が答えると、織部(おりべ)は呆れたようにため息を吐き――


『……つまり、鬼と争うと言うことで宜しいですね?』


 亡者達の一番前で武器を構えていた亡者達が一歩前に出るが、リーダー格の亡者がそれを制する。


『えぇ、そうですね。こちらには沢山、武器がありますから』


 リーダー格の亡者が、一丁の銃を取り出す。


『……はぁ、では、どうぞ?銃でもライフルでもナイフでも斧でも、何でも良いですので攻撃してみて下さい、先手は譲りますよ?』


 しかし、彼女は彼らを貶すように、両手を広げて立つ。


 その時、乾いた破裂音が響く。煽られた一人の亡者が銃の引き金を引いたのだった。


 それが合図となり、亡者達が織部(おりべ)に一斉攻撃を仕掛ける。


 激しい銃撃音と共に、無数の銃弾やナイフなどの武器が、彼女に当たっていくが、微動だにしなかった。


 その攻撃の嵐の中で、織部(おりべ)は一つの銃弾を指で、弾く。


『ふげっ!』


 弾かれた銃弾は、一人の亡者の頭に当たり、吹き飛ぶ。


 それにより、亡者達の攻撃が止まる。亡者達がその光景に、阿鼻叫喚となる。


『……沢山、武器があるんですよね?』


 織部(おりべ)は、余裕綽々で聞いてくる。


 彼女の体には傷ひとつつかず衣服に無数の穴が空いただけだった。


 亡者達の群れを掻き分けるようにして、織部(おりべ)は亡者のリーダーの前に出る。


『この通り、私は無傷ですよ?』


 彼女は亡者達を煽るが、リーダー格の亡者は鼻で笑い――


『殺すなら殺すがいい、復活してからまた対策を練るだけだ』


 亡者が手榴弾を取り出す。それに合わせるように他の亡者達も習うように、様々な爆発物を手に取る。


 この事態を想定していた様だった。


『……復活しませんよ?』


 慌てる様子もなく、織部(おりべ)は、ツカツカと、先ほど頭を吹き飛ばした亡者の所に向かう。


 そして、軽々とその亡者を持ち上げる。


 彼女の手から、ブランと下がる亡者の頭からは、脳漿が溢れていた。


『……ぁ……ぁ……』


 その亡者から、声が漏れる。他の亡者達が、驚愕の声を上げる。


 明らかに死んでいる様子の亡者が、微かにもがいている。


『――そんな!?なぜ消えない、それに、なぜ、まだ息があるのか!?』


 ここでのルールでは死んだ場合、消えて別の場所に転移するはずと、リーダー格の亡者も驚きを隠せない。


『今は復活できませんし、死ぬこともできません。私の意思で操作させてもらっています』


 彼女が持っていた亡者の頭の穴が、少しずつ塞がっていく。


 それを地面に下ろし、彼女は亡者の腹を踏み抜く。


『!!!』


 腹が千切れた亡者が、言葉にならない声で、叫んだ。


 この時、何人かの亡者が吐いたようだった。


「――そういえば、以前ルールを変えようと思ったのですが、これがしたいと言う意見が多かったので、止めたんですよ」


 朱殷(しゅあん)は映像を眺めながら――、以前、行った鬼達の会議の話をする。


『……ふん、それならずっと攻撃し続けるだけだ』


 リーダー格の亡者が武器を構える、一部の血気盛んな亡者達がそれに続く。


『うわあぁあ!』


 しかし、一人の亡者が爆発物であろう、筒を腹に抱えて、織部(おりべ)目掛けて走り出した。


『――あっ……』


 爆発が起きる。他の火薬にも引火して爆発が連鎖していく。


「わあぁ!まずいですよ!」


「はい?」


 その様子を観ていた紅鳶(べにとび)が顔を押さえて、慌てている。


 彼の声に朱殷(しゅあん)は、何が?というような変な声が出る。


 ――映像の方では砂煙が収まり始め、一つの人影が立っていた。


『……まぁ、こんなものでしょうね』


 織部(おりべ)が亡者達の蠢く肉片が散らばる中で一人立っていた。


 肉片は少しずつ動いていき元の形、人の形に戻ろうとしていた。


「ほら、まずいことになった!」


 紅鳶(べにとび)顔を覆いながら、映像の中の織部(おりべ)を指差す。


「……そういうことですか、でも大事な所はちゃんと隠れていますよ」


 朱殷(しゅあん)は、やれやれといったポーズをとる。


 映像の中の彼女は、大事な所は謎の光で隠れていたが、服が吹き飛び全裸になっていた。


『――あっ』


 それに気づいた彼女は腕で体を隠しながら、手頃な布切れを探す。


『……よしっ、と』


 織部(おりべ)が腰と胸を布切れで覆い、手と手を叩き払う。


「……まるで、一昔前の鬼の格好ですね?」


「そうですね……」


 朱殷(しゅあん)は茶化すが、紅鳶(べにとび)は赤い顔を更に赤くしていた。


『……あ……あ……ぁ……』


 彼女が布切れを探している間に、亡者達が元に戻る。


 しかし、それは大きな肉の球体になっていた。


 球体の至るところから腕や足、頭が生えている。


 下敷きになっている者の一部なのか、痛みに必死に蠢いていた。


 いびつに、蠢く体のせいか、球体は左右前後に転がっていく。


 鬼の力で死ねなくなり、再生力を持った亡者達の体同士が異物として挟み合いながら融合した為である。


『結構、大きな塊になりましたねぇ』


 織部(おりべ)は、球体を見上げる。


 その球体を押さえて生えている腕や足、頭を引きちぎっていき、それを並べていく。


 千切る度に、亡者達が叫び声を上げ、並べられた頭がうめき声を上げる。


 こうして亡者達を元の形に戻していく行為を、彼女は楽しんでいた。


 その映像から突然、軽快な音楽と共に――


【さぁ、彼女はどれくらいの時間で亡者達を繋ぎ直すことができるのか!?】


 ――というテロップが流れる。


「さっきの光といい、誰ですか?!リアルタイムで編集してるのは?」


 そう言いながら、朱殷(しゅあん)は静かに笑っていた。


 紅鳶(べにとび)も、腹を抱えて笑ってた。遠くからも、幾つかの笑い声が聞こえていた。


 鬼達の間ではこのような事態に各々で刑罰の方法を試すのが流行っていた。


「ふー、良いところですが、そろそろ戻りますね」


 朱殷(しゅあん)は席を立ち、いつの間にか済ませた食事の食器を片す。


 紅鳶(べにとび)は気づいていたものの、笑いすぎて返事が出来なかった。



「これはどうも、お疲れさまです」


 朱殷(しゅあん)が思い出し笑いをこらえながら、仕事場に行く途中で閻魔様に会う。


「おっと、ご苦労様。……ちょっといいかな?」


 挨拶を返して、閻魔様は彼を呼び止める。


「キミは随分、変わったね、特に口調が」


 朱殷(しゅあん)は、一度お辞儀をして――


織部(おりべ)さんの、ご指導の賜物ですよ」


 織部(おりべ)は彼の教育係でもあった、その為か朱殷(しゅあん)は彼女に似てしまった。


「所でな……」


 閻魔様が、頭を掻きながら――


「キミは、あの時、他の亡者達を転生させるために一人で犠牲に成ろうとしたのか?」


 今の性格は織部(おりべ)の影響なのではと、閻魔様は考えていた。


 しかし、朱殷(しゅあん)は一度、目をつぶり考え込んでから――


「いいえ、私は楽しんでおりましたよ」


 邪悪に満ちた、満面の笑顔で答えた。


 そして、彼は今日も亡者を送るのだった。

『長くなりましたがこれで終わりです』


「鬼、強すぎるよー」


『一方的に、力で潰されるようなホラーを書きたかったので』


「所でさ、武器とかってどう決まるの?」


『亡者本人達の記憶から生成されます。なので、長くなれば、それほどスタート時に選択される武器の種類が増えるわけです。』

「再スタートで狙った武器が出にくくなると」


『はい、それとこの作品は最初、亡者同士が出会ったときに、相手が一番殺されたくない武器、されたくない行為ができる道具が自動生成され、伏せ字で表示するという設定でした』


「ふーん、何で止めたの?」


『複数人集まったとき、ややこしくなる事と、伏せ字だと表現が難しかったからですね。そこは

鬼の力が名残ですね』


「例えば、**は**で***された、が私は玉ねぎで泣かされた、みたいな」


『そういうことです。伏せ字の所で何を想像するかのホラーにしたかったです』



 ――以上です。

 最後まで、読んでいただきありがとうございます。

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