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第六十三話 見慣れた鎧


 俺たちはこの騒動を引き起こした元凶を止めるべく、街の中心にあるアフエン広場へ向けて走り出した。

 

 当然、道中には大量のゾンビ達がうろついているが、ヒノキの棒を装備したデイモスが先頭を走り、邪魔するものはひたすらになぎ払っていく。

 その先頭を切る勇ましさ、そして何者もなぎ倒す力強さ、その姿はまさに……。

 

 ……ごめん、なんかカッコイイ感じの例を出そうとしたんだけど、ブルドーザーくらいしか思い浮かばんかった。

 

 そうして無理やりこじ開けられた道を、ヴェルデ、俺の並びで突っ走る。

 大抵の彼らの動きは鈍いため、反応される前に駆け抜ければまぁまぁなんとかなる。

 それに加えて、俺の前を走るヴェルデもひたすら何かの魔法を唱え続け、俺やデイモスの支援をしてくれてい――。

 

 ……ちょっと待って。

 今、ヴェルデからボソッと聞こえてきた『あれ、おかしいなぁ』とは一体どういうことなのだろう。

 すごく気になる。

 いや好奇心とかそういうものじゃなく。状況が状況なだけに割と切迫した感じの意味で。マジで。

 ……ヴェルデの一言で変な汗が全身の至る所から滲み出てきた。

 

 とは言っても、今の俺にしゃべりかける余裕はない。

 すると、さらにヴェルデの声が聞こえてきた。

 

 「『フリーズ』ッ!『フリーズ』ッ!……っあれー?なんで止まんないんだろー?」

 

 魔法のことかっ!と、ピンときた俺。

 もう気になってしょうがない俺は、なんとか肺から空気を絞り出し、必死に声帯を震わせる。

 

 「そ……それッ!……どん、どんな……魔法なのッ!?」

 

 「ん?あぁ、これはね人間の動きをちょっとだけ止める魔法!」

 

 それを聞いた瞬間、俺の中に蓄積されていた疲労は弾け飛んだ。

 

 「マジでぇ!!?すげぇ!!!すげぇよ!!めちゃくちゃ使える魔法じゃん!ヴェルデ、こんなすげぇ魔法隠してたのか!」

 

 目を見開いて、鼻息を荒げながら俺は叫ぶ。

 だって、その魔法があれば対人戦は俺たちの圧倒的に有利な状況とすることが出来るからね!!

『敵の動きを止める』

これだけ聞くと、地味でそこまで強くないと思う人もいるかもしれないが、ここまでなーーーんにも持たずにきた俺にとっちゃもうチートを手に入れたも同然!!!


 ……しかし、俺の脳裏をあるひとつの不安がよぎった。

 それは、ヴェルデの魔法というものは今までどこかしらに致命的な欠陥を抱えていた、ということだ。

 

 「……その魔法の効果、本当に動きを止めるだけ?」

 

 俺は思いきって聞いてみた。すると、平然とした顔でヴェルデは答える。

 

 「ん?いや、人間以外にかけると動きが通常の1.2倍になる効果も付いてるよ」

 

 ………………。

  

  なんというか、ヴェルデは本当に期待を裏切らないな。しかも、1.2倍とか地味だけど割とエグいレベルのバフってところがいやらしい。

 俺は真顔で、魔法をかけられたであろう周囲のゾンビをチラリと見る。

 

 ――うわぁ速い。

 明らかに速い、もうパッと見ただけでどいつが魔法かかってんのか分かるくらいには速さが違う。

 と、いうことはゾンビ化した人間はすでに人と見なされてないってわけか。

 

 「ヴェルデ、頼むからお前は逃げることに専念してくれ」

 

 俺は精一杯の優しい声でヴェルデに語りかけ、その後は前を見てひたすらに走り続けた――。

 


  

 ――しばらくの間、無我夢中で走り続け、気が付くと目的地であるアフエン広場の入口に到着した。

 しかし、ここで俺たちはある異変を感じ取った。

 

 「……ゾンビが一体もいない……!?」

 

 そうなのだ。ついさっきまでは周囲を覆い尽くす勢いで大量にいたゾンビたちが、今はどこを見ても影もかたちも見当たらない。

 

 ただ、ゾンビの代わりにあるものが俺たちの目の前に現れる。

 そいつらは、アフエン広場の奥からこれまでの旅の中で何度も出会ってきた者達と、同じ鎧を身につけていた。

  

 「討伐隊……」

 

 デイモスとヴェルデ、どちらが言ったのかは分からない。しかし、その呟きは確かに俺の耳と、道を塞ぐように立ちはだかった複数名の討伐隊の奴らに届いた。 

 

 「そうだよぉ!はじめましてぇ勇者御一行様〜!オレたち討伐隊がお出迎えで〜す」

 

 真ん中に立つ背の高い男が、人をおちょくるような喋り方でそういった。

 顔色は酷く悪く、体格も鎧を着けた上からでも分かるほど痩せている。まるで病人のようだ。

 さらに目の焦点は合っていない。周囲の討伐隊の隊員達も、彼と同じような目をしていた。

 

 ……取り締まる側がここまでクスリに侵食されちゃダメでしょ……。

 色々とまずい状況だと感じた俺は、彼らから目を離さないようにしながらデイモスとヴェルデに話しかける。

 

 「ヤバい、これはヤバイぞ。なんとか平和的な解決を――やめてデイモス、ヴェルデ。当然のように挑発しないで。立てた中指をこれみよがしに討伐隊に見せつけないで。……ねぇ、俺の話聞いてる?」 

 

 そんな2人をガン無視して、背の高い男は勝手に語り始めた。

 

 「オレは第六討伐隊の隊長、ステープだよ〜。それでこいつらは俺の部下!悪いけど、俺らにも立場ってもんがあってさァ?あんたらをこの先に通すわけにゃ行かないんだよね〜。このことが上にバレるとマジでヤバイし。そんなわけでさ、あんたらの冒険はここでおしまい!さ、思い残すこともないだろうし、分かったらさっさと――」

 

 そこまで言うとステープは手のひらをこちらに向け、魔法陣を展開した。思わず身構えた俺たちに、凄まじいまでの殺意の込めた目で見つめながらニヤリと笑い、先程より数段低い声のトーンで呟いた。

 

 「――くたばりやがれ、クソ野郎共」

 

 

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