第二十話 顔を上げると
木々が鬱蒼と生い茂っている森の中。
そこに真っ直ぐに続く1本の道を通り抜け、ゾムベル共同墓地に到着する。
周囲には霧が立ち込み、昼間なのに木々のせいでやたらと薄暗く、いかにも何か得体の知れないものが出そうな雰囲気がプンプンする。
明かりは火を使ったかなり古いタイプのランプだけであり、それが入り口の両側にある門の柱に1つずつ、計2つが取り付けられていた。
形状から見るに、恐らくはオイルなどの燃料を使用した物だと推測出来る。
「ここの防火対策はどうなってんだ……。素人が見ても分かるこのガバガバ安全管理は流石にまずいんじゃないですかねぇ……」
そのランプのすぐ近くまで枝を伸ばしている周囲の木々を眺めながら俺はそんな事を考えた。
……っとそうだ。
こんな所でいつまでも昭和チックなランプを眺めてもしょうがない。
早速、俺は門をくぐって一歩一歩慎重に共同墓地の奥へと向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
…………おかしい。
俺は眉間に皺を寄せ、腕を組んで歩き回りながらふとそう思う。
俺は確かアンデッドが大量発生だーと言う話を聞いてたんだが。
墓地に来てから墓地内を色々と見て回って結構な時間が経過したというのに、アンデッドモンスターどころか、血の通った生き物もいないんですけど。
これじゃあ、ただ墓参りに来ただけじゃん。
その後もブツブツ文句を言いながら探索を続けるが、やっぱりびっくりするくらい誰もいない。
アンデッド?何それおいしいの?状態だ。
……いや、絶対不味いわ。ていうか、そもそも食えねぇわ。むしろ喰われるわ。
そんな事を考えるのもいい加減虚しくなってきたので、そろそろ帰ろうかなーと考え始めた頃、あるものが俺の目に留まる。
「……ん?あれは……人か?」
前方の少し離れた場所に、人間の胸から上の上半身らしき物体が地面から出ているのが見えた。
見えにくかったので目視できる距離までもう少し近付くことにした。
そうしてようやく分かった。
あれは間違いなく人間だ。
顔は俯いているため、その表情までを見ることは出来ないが、全身をパッと見た感じだと男性のようだ。服装も緑色を基調とした物で特別変わったものでは無い。普通の村人って感じがする。
で、それ以外にもうひとつ気付いた事がある。
わざわざ地面を掘って作ったのだろうか、男は膝くらいまでの深さがある穴の中に入っており、上半身だけをひょっこりと出してその穴の壁にもたれかかっていた。
……温泉にでも浸かっているつもりにでもなっているのだろうか?そんなわけないですね、そうですね。
あぁ、なるほど。だから少し離れた所から見たら、胸から上が地面から生えてるように見えたんだな。なるほど納得納得。
……………………………。
この時点で色々とやばい。
明らかにやばい。
えっ?こんな場所にいるってだけでもクッソ怪しいのに、しかもなんで穴の中にいるの?
もしかしてそこに住んでるの?だってここ、墓地のド真ん中だよ?
まともな人間だったら出来る限り近付きたくない場所だよ?そんなところで……倒れてるのか?あれ。いや寝てるだろ。そんなの普通の”人間”じゃ考えられな……。
あっ……(察し)
……どうしよう。いざ見つけたら途端に帰りたくなってきたぞ。けど、ここまで来て声すら掛けずに帰るのはさすがになぁ……。
はぁと溜息をつき、意を決して話しかけてみる事にした。……ちなみに逃げる為の準備運動もバッチリである。
「あのー……すいません。大丈夫ですか?」
そう呼びかけながらトントンと男の肩を叩く。
「………ぇ。あ、あぁ、大丈夫だ。問題ない」
そうしてゆっくりと上げた男の顔は、血の気を完全に失った灰色の肌。少なくとも血の通った人間の肌の色ではない。
だがそれだけではなかった。
顔を上げた男の目元から何かがでろりと垂れたのだ。
それは男の眼球だった。
男の左の眼球はでろりと口元まで垂れ下がり、本来収まっていなければならない場所にはポッカリと空洞が生まれていた。
「んぎゃああああああああゾンビだあああああああああ!!!!!」
「え!?ちょっ、なにな……ゾンビ!?どこどこ!?ぎゃああああああああ!!!!」
絶叫した俺を見て絶叫するゾンビ。
いや、なんでお前まで叫んでんだよ。




