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第十八話 討伐隊の内情

 

「これは……!これは一体どういうことなんですか!総司令官!!」


 ベルドルムは声明の書かれた紙を机に激しく叩きつけて、正面にいる男……王国討伐隊総司令官であるスティクス=フラッシュを睨みつけた。

 スティクスは軍人らしく短く切り揃えられた白髪を撫でながら、鋭い碧眼をちらりと机の上の紙に向けた。

 余程力を込めて握り締めていたのだろう、紙はクシャクシャになり、印刷された字は滲んでいた。


「……いきなり司令官室に入ってきて何を言うかと思ったら、その事か」


「今回の作戦において、作戦立案から隊の指揮において私一人で行ったものではありません!山田太郎という男の活躍が極めて大きいと説明したではありませんか!他人の活躍を自分の物にして、私の名前だけが出るなどと、そんな恥知らずな真似は出来ないっ!そう申し上げたはずです!」


 興奮し、声を荒らげるベルドルム。

 しかし、スティクスは表情をピクリとも動かさず、冷酷な光を含む碧眼でベルドルムを睨む。


「私達が戦うのは魔王軍だけだ。こっちはそれだけでも手一杯なのに、お前はこれに世論までも敵に回す気なのか?」


 スティクスはため息混じりにそう答えた。


「……ッ!で、ですが……!」


「お前なら分かるだろう?この事実を公表した際に起こりうる事態を。仮に発表したとして、その情報が魔王軍にまで届いてみろ。王国の討伐隊は民間人に頼らざるを得ないほど弱体化していると思われて、奴らは一気に攻めてくるぞ。だが……最も恐ろしいのはそこではない。魔法が使えない者が関わっていたと知られた場合、内側でどのような事が起こるか考えてみろ」


 スティクスは厳しい口調を変えずに、ベルドルムに訊いた。


「……その民間人が魔法も、特殊能力も持っていないと民衆に知れれば、我々討伐隊だけでなく王国全体への信頼も失墜する……と、考えられます」


 ベルドルムは、やや俯き加減で呟く。


「そうだ。今の世の中、魔法が使えない者に対する嫌悪感は、お前が考えている以上に大きく、そして根深い。下手に名前を出せば、その民間人の生命が危険に晒されるかもしれない」


「し、しかし……!」


 なおも食い下がろうとするベルドルム。

 しかし、それはスティクスが机を思い切り叩いた音と、それに続いて部屋に響き渡ったスティクスの怒号によって阻まれた。


「あくまでも!!討伐隊は、人類軍の一部隊に過ぎない!……一人の勝手な行動で、組織全体の秩序を乱す訳にはいかないのだ。もし、それ以上言うのなら私は、お前をこの場で粛清せねばならない。……戻って少し頭を冷やしてこい」


 ベルドルムはこれに沈黙して歯をギリッと噛み締める。そのままスティクスに一礼をし、足早に部屋を後にした。

 怒りが収まらないベルドルムは、廊下をそのまま早足で歩いていく。


「クソッタレ……ッ!」


 思わず口から零れた言葉は廊下に反響し、誰の耳にも届く事無く、そして消えていった。


 

 ―――こうして、今回の事件に関わり中心的役割を果たした『山田太郎』という人物の記録は、王国によって隠蔽、表の歴史上から抹消された。


 しかし、その現場に直接居合わせた者達の記憶から抹消された訳ではない。


 これから、ゆっくりと時間を掛けてではあるが徐々に山田太郎の活躍が人から人へと伝わっていく事になる。

 しかし、不特定多数の人間を中継して伝えられていくにつれて、少しずつではあるが話の内容はそのままに表現だけが歪んで伝えられていく。


 ――山田太郎という人物は、味方の感情を言葉巧みに操り、各々持っている怒りや憎しみを増大させて、兵士を思いのままに操った。

 そして、モンスターに対しては一切の慈悲もなく、奈落へ突き落とし、身動きが取れなくなったモンスターに超強力な魔法と大量の爆弾で攻撃して爆殺した、と。


 この敵味方を問わない情け容赦の無い所業から、


 『外道勇者、山田太郎』


 という不名誉極まりない形でその名が広まっていく。その事を、当の本人、そして王国側は現時点では当然ながら知る由もなかったのである。

 

これで第二章は終了になります。

次回からは第三章に入っていきます。

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