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エピソード3 「第一村人発見」

気が付いた時には太陽が昇りきっていた。


日本では聞いたことがないような鳥の鳴き声が森の中に反響している。


眠ってしまっていたみたいだ。

焚火も完全に消えていた。


あの少女はどこにいったんだ?


水を口に含んで辺りを見回すと少女の方も起きていたようでぶかぶかのコートを羽織ったままこっちを見ていた。


「おはよう。とりあえず聞きたいことがある」


「€çµ¦å¿…è¦ã§ã™、〯器ã®ä¿®æ¹ç†ãŒ」


「あぁ……申し訳ないが言葉が分からないんだ」


『失礼しました。おはようございます』

『あなたには助けられました。答えられることなら答えます』


「一つ、ここはどこだ。二つ、お前は何者だ。三つ、この森の出口は」


『ここは人族の国ウィンストンと魔族の国ベヴェルの境界線にあたるセーラムの森』

『私は……キメラというべきかしら』

『この森の出口は南に行けばウィンストン。北に行けばベヴェル。あなたは人族なのでウィンストンへ向かうべきですね』


「は?何を言ってるのか殆ど分からん。からかっているんじゃないだろうな?」


『恩人に嘘をつくほど落ちぶれてはいません』


「とりあえず、ウィンストンに向かって案内してくれないか」


『……分かりました』


「道中で色々聞かせてもらうよ」





しばらく少女と歩きながら話をした。

結論から言うと、この少女。何を言っているのかさっぱりわからんぞ。


少女曰く、この世界は剣と魔法が我が物顔で闊歩するようなファンタジーワールドらしい。

しかも、この世界には人族と魔族、そのほかにも獣人族、数は少ないがエルフやドワーフといった精霊族なんかも居るそうだ。

まるで俺が高校生の時にやってたゲームをそのまま現実化したような世界じゃないか。

少女曰く、だが。


自分のことをキメラと称した理由は、外見が人族で中身が魔族。内臓の手術で身体改造されたからだとオカルトチックなことを抜かす。

俺を銃で撃った人間たちは臓器移植でもやっていたのかもしれない。

外見からして16、7だろう。女子供見境なしか……

そのショックで少し気が動転しているんだろうと思うが、テレパシーのようなものを使うのは魔法の一環だという。

テレパシーを使える理由が魔法。というのは理屈としておかしくはないが地球で魔法を使えるなんてにわかには信じがたい。

一から十まで訳が分からなくて俺自身混乱気味だが、とりあえずこの少女と一緒にウィンストンに行かなければならない。そこで大人に話を聞けばわかるだろう。

メルヘン少女の言う通りにするほかないというのが不安だが……






しばらく歩いていると遠くに赤色の肌をした人間?がこちらに向かっているのが見える。

彼らの背丈は遠めに見ても2m近くありそうな筋骨隆々の大男たちばかりだ。

180㎝もないくらいの俺が対峙したら思わず震えてしまいそうだな。

森にすむ部族か何かか?肌はペイントでもしているのであろう。


『オークがきました!あなたは後ろに隠れていて!!』


オーク?

一瞬なんのことかと戸惑いながら近くにあった木に隠れる。


木に隠れながら様子を伺おうとした瞬間だった。


少女の周りが、いや少女の体が白く輝きだす。

俺の貸したモッズコートごしでも光が零れる。


≪ï¼™ã‚'‰æ§˜ã Œè¨å‚所¤§å®¶ï¼ˆå®¶ä!≫


何を言ったのかは分からなかったがその言葉を契機に白光は一気に強くなる。

視界一面が白で染められてしまいそうなほどの、一種の神々しさすら感じられる光。あまりの眩しさに目を細めた。


一瞬の出来事だったのだろうが、あまりにも印象が強く数分間経ってしまったかのように錯覚してしまいそうだった。


光が落ち着き、何事もなかったかのような静寂が訪れた。


『お怪我はありませんか?』


「あ、あぁ」

「ところで……さっきの人たちはどこへ?」


そう。「何事もなかった」のではおかしい。さっきまでの大男たちは?


『人……?オークのことでしたら消し去りましたが』


「……?消し去った?どういうことだ!?殺したのか?」

「それにさっきの強い光はなんだ!一体なにを……」


『あなた……本当に何も知らないみたいね。どうやって生きてきたのかしら』


なにを言ってやがるこのクソ……

言葉に出しかけてやめた。

代わりに出た言葉は、

「どうなってるんだその眼は……」


俺のことを見る少女の眼が、怒りを感じさせるような真紅に染まっていたからだ。


『魔法よ。この目はその代償とでもいうべきかしら』

『あなたに対する借りはこれで返したつもりだけど、ウィンストンまでは案内するわ』

『森に一番近い村はウィンストン・ロスマンズ。そこまでは質問にも答えるわ』


こいつ、敬語をやめやがった。

それにしてもいよいよ分からなくなってきたな。

さっきから常識外れのことばかりだ。どうなってやがる……

頭が痛くなってきた。

ていうかコート返せよこの女。


スーツのポケットから取り出した煙草に手慣れた手つきで火をつけた。癖のかかった前髪が口の下まで伸びていてうっとうしい。

煙草を吸う俺を女が見つめている。

眼は黒に戻っていた。


『その匂いだったのね……』


「あ?煙草、苦手な人間か?」


『……別に。それから人間じゃないから』


「そうかい」


気まずい沈黙。


「とりあえず、この世界のことをもう一度詳しく教えてくれ。赤ん坊に教えるようにな」






どうやら彼女の言っていたことは真実で残念なことに頭がおかしいのは俺らしい。いまだ半信半疑だが。

作り話にしてはやけに細かすぎる。

曰くこの世界には魔法が存在している。

基本属性である風、地、火、水、雷を五大魔法。

光属性は聖職者に類するものにのみ与えられ、闇属性は魔族にのみ与えられる。

これらの七種類が主に魔法と呼ばれるそうだ。


それからこの地には大陸が二つしか見つかっていないそうだ。

人族と魔族が奪い合う、俺が今いる大陸を「エヒト・オリエント」

獣人族、精霊族が生息する大陸を「スペリオル・バージニア」

この星全体のことは「ロメオ・イ・フリエタ」と呼ぶらしい。

言語自体は理解できないが呼称自体は理解できる思念伝達の魔法は概念を伝えるもので、ある程度の知能があるものならば意思疎通が可能らしい。

彼女が俺の言葉を理解できるのは言葉自体に乗せられた感情や魔素、息遣いや表情など多角的な面から判断しているそうで、普通はできない高等テクであると自慢げに伝えられた。

勇者だの魔王だの神話の話は三十路の俺には追い付けなかった。追々理解していけばいいだろう。


そして日本だのアメリカだのという国はやはり存在しないそうだ。

そうなるとここは、異世界だとかパラレルワールドとかともかくそういう類のところらしい。


異世界か……ファンタジーの世界は高校生で卒業したつもりだったんだがな。

俺の常識だとか知識はここではあまり役に立たないのだろう。ここでの俺は良くて小学生レベルだろうな。

まず言葉を理解するところから始めなければいけないのだ。


『異世界から来た人間なんて初めて聞いたわ』

『何かきっかけのようなものはなかったの?』


きっかけ……となるとやはり俺はあの時頭を撃ち抜かれていたのかもしれない。

夢とか妄想で片づけるにはあまりにもリアルな感触だった。




色々と話をしていると村明かりが見えてきた。なるほど木造の洋風住宅が並んでいる。

あまり規模は大きくないらしい。


「それで……俺はこの先どうすればいいんだ?」


『知らないわよ。ロスマンズの人間に話をしてみれば?』


「話って……言葉も通じないのにか?」


『なんとかなるわよ』


「ついてきてくれよ。頼む!」


『いや』


そういえばこいつ菓子パンを頬張ってたし、もしかしたら甘いものとか好きなのか?


「異世界のお菓子がある」


そう言って板チョコをひとかけ渡した。

恐る恐る口に運んだ彼女の目元が少し緩んだように見えた。


『……場つなぎだけよ』


「ありがとう!助かる」

「そういえば、あんた名前は?」


『……エレア。姓は無い』

『あなたは?』


「俺は……ベンリヤとでも呼んでくれ」


『ベンリヤ、ね』


「よし、それじゃあ行こう」


村に足を踏み入れた。その時、彼女はなぜか俺のコートのフードを被っていた。




フードを被った彼女がいかにも村人らしい、動物の毛皮を纏った人間と話している。


「¨è·¯ç•°åã —ã £…罦㠊り〠ç?」


「è®å›ž¸¸ã€ ã‚'è¡、支付比规则结算更高çš」


さっぱり何を言ってるかわからないが彼女の問いかけに村人は俺と彼女を一瞥して首を横に振った。


『言葉も通じない異国の人間を村でどうこうすることはできないそうよ』


うわぁ……最悪だ。詰んだといっても過言ではないかもしれない。

俺自身もボディーランゲージで頼み込んでみるがどうにもならないらしい。


「»“算更高çšé«˜çšé«˜çš」


『でも村の近くにいる分には構わないって』


頭を下げて一度退くことにした。


陽が沈みかけて三日月と満月が同時に上ってきていた。

あぁ、本当に異世界なんだと実感した瞬間であった。

煙草を吸っていないにもかかわらず吐く息は白い。

何はともあれ目先の問題は食と住だ。

食料はないに等しい上に住まいなんてもってのほかだ。さすがにテントまでは持ち歩いていない。

このままでは、雨が降ったりしたら死んでしまいかねないし、ただでさえ朝露だとかで体温が奪われる。

そのためには彼女の協力が前提になってくるが……

少女のほうをちらりと見ると、面倒ごとはごめんだと言わんばかりに顔を背けられた。

ため息しかでない。


とりあえず、一服するしかないか。

慣れ親しんだ煙草の味と異世界の冷えた空気の混ざった味は新鮮で悪くなかった。

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