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エピソード2 「少女との出会い」

日が昇る前に少しでも現状を確認しておこう。


ここは、樹海……?森の中みたいだな。


撃たれたのは勘違いだったかもしれないが強い衝撃を受けたのは確かだ。

記憶喪失になってたりなんかはしないよな……?

三十…何歳だっけかな。しばらく数えてないからしょうがない。まあとにかく三十路。


母親は俺を女手一つで貧乏ながらも食うに困らない生活をさせてくれていたが、半年ほど前に仏さまになっちまった。

親父は幼い時に俺を置いて出て行って兄弟はいないから天涯孤独。おまけに友達はいない。

自分で言ってて悲しくなるな。いや、行きつけのバーのマスターくらいは……覚えてないか。

客は少なかったが俺だけってわけでもないんだ。


まあとにかく、俺がいなくなったところで心配するようなやつは誰もいないってことだな。


そんなもんか?あとは……名前か。思い出すまでもないな。

俺の名前は……名前は?

嘘だろ?よりによって母親に貰った大事な名前を忘れちまったってのか?

クソがッ!


近くに落ちてたものを八つ当たりにぶん投げた。


忘れちまったものはしょうがない……しょうがないで済ませるようなものではないがどうしようもないのは事実だ。

まあ名乗ることなんてほとんどなかったし、別にこの後の生活にも問題なんかないんだがな……


なにはともあれ記憶については名前以外は大丈夫なはず。


次は持ち物でも確認するか

今回の依頼は準備をしておくに越したことがないと思って色々と持ってきていたはずだ。

ビジネスバッグはどこだ?

……ないか。そりゃそうだよな。今ここで身動きがとれているだけでも儲けものだ。


明らかに怪しい仕事だってわかっていたから俺だってできるだけ用心はしてきてたんだ。

ビジネスマンに成りすますために一張羅のスーツを着て、その下にはなんと通販で買った防刃チョッキまで着込んできたのだ!

防弾じゃないのは決して金がなかったからじゃない。そんなことはないのだ。

防弾チョッキを着ていたところで頭を撃たれたらなんの意味もないのだからな。そういうことだ。


で、所持品はっと。

メンソールの煙草とライター。買ったばかりだからまだ沢山入ってるな。

財布。中身は小銭と千円札が三枚。これでも多く入っているほうだ。

それからスマホか。バッテリーは十分あるが電波がはいってないな。

胸ポケットにはペン型ナイフが差してある。


ふむ。せっかく準備してきたのに殆どがバッグの中か。

バッグさえあればなぁ。あれ?そういえばさっき手元に落ちてたものをぶん投げたが……まさかな?

いや、そのまさかだな。ありゃ今思い出してみるとバッグだった。

あの中にはスタンガンと防犯ブザー、携帯バッテリー。

それから予備ライターに煙草が四箱とスキットルに入ったウイスキー。

依頼の前にスーパーで買った菓子パンと板チョコが5枚とペットボトルの水。あとは常備薬だとか細々したものだ。

煙草はカートンで買ったときの残りを全部持ってきていた。コンビニに行く暇もないかもしれないからな。

スキットルに入ったウイスキーはほら、あれだ。男の浪漫というほかない。かっこいいだろ?


取りに行かなくちゃあいけないんだが、暗くて前がよく見えない。

いや、スマホのライトで照らせばいいか。


結構遠くに投げてしまったみたいだな……


それにしても一体ここはどこなんだ?


ライトの光で照らされた植物は日本では見たことがないようなものばかりだ。

ラフレシア?のようなどこか異国のもののような大きさと形をしている。


それにさっきから動物のうめき声が聞こえてくるときがある。

もしかして俺、危ない状況なんじゃないか?

急いで取りに行こう。

……それにしてもなんだか身体が軽いような気がする





何事もなくビジネスバッグのもとにたどり着いた。

「おっ、あったあった」

一人暮らしが長くなると独りごとが増えてしまってしょうがない。物思いにふける癖もついてしまった。

バッグについた汚れを掃って中身を確認する。どうやら全部無事みたいだ。

ひとまずこの森から抜け出すとしよう。

とはいってもどっちに出ればいいのかわからないな。まあとりあえず歩き出すしかないか。

スタンガンを片手に用心しながら進む。

追手がくるような気配はないしもしかしたら俺は島流しかなにかか?

ここは異国かもしれないな。言葉が通じなかったらどうしよう。


しばらく歩いていると何か倒れているのが見えた。

あれは一体……?


少女が横たわっているようだ。

怪しい実験の実験体にでもなったのかな?

そして俺もその実験体の一人ということなのか??たまったもんじゃない。


近寄っても大丈夫なものだろうか……

ええい!


意を決して俺は少女のもとへ駆け寄る。


「おい!大丈夫か!」


少女は一応息をしているみたいだがとても苦しそうにしている。

髪の毛は白で肩までのミディアム。白い服を着て肌も真っ白。なんというか、雪の妖精みたいだな……

いや、そんなことを考えてる場合じゃない。


『助けて……』


!?

テレパシーか!?超能力の実験でもしていたのか?実在していたとは……

助けるとはいってもどうしたものかな

外傷はないみたいだし、水でも飲ませるか?やつれてるし飢餓寸前とか?俺と同じ遭難者か?


「ほら、これを飲め」


水を取り出して少女の口元に流し込む。


「それから、もし腹がすいているのなら……」


そう言って菓子パンを取り出して彼女に渡すと一瞬困惑した顔をしたが、すぐに食べ始めた。

丸々食べつくしたわりに一向に様子がよくならない。

常備薬の中に痛み止めがあったので飲ませてしまおう。


「よくなったか?一体何があった」


『ここにいて……』


薬を飲ませてしばらくすると落ち着いたのか、気絶したのか分からないがそれっきり反応がなくなった。


こんな森の中で朝を待つことになるとは災難だな……


その辺の木を集めて火事にならないよう気を付けながら焚火をして待つことにした。

生木が混じっているから煙が多い。

寒いな……そういえばこの女、病人が着るような服しか着てないじゃないか。

……仕方ない。俺の愛用モッズコートを羽織らせておくか。


別にこんな色気のないガキに下心なんかない。森から出るためにしょうがなく助けるだけだ。

俺は女の色香に惑わされたりはしないぜ。


そんなことを思いながらウイスキーを一口。

煙草に火をつけて一服。疲労感に耐えながらぱちぱちと音を立てる焚火を眺めていると意識が薄れていった。

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