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転生者は恐いです。

作者: 軋本 椛



 突然ではあるけれど、王道とかテンプレ、なんて言葉をご存知だろうか。


 王道、などとは言っても別に王として歩む軌跡ではないし、もちろん天ぷらでも本来の意味でのテンプレートでもない。

いわゆる、物語の中では“ありがち”な出来事のことだ。


 異世界に飛ばされて勇者になったり、聖女になって恋をしたり。

登校中に女の子とぶつかったら転校生として現れたり、実は幼い頃の知り合いだったりもする。


 最近ではまた少し変わって、脇役ものとされる分類の中にもテンプレがあったりするわけだが、僕が話したいのはそういう物語の筋ではなくて、物語が発生する根幹。

いわゆる、神様転生、などと呼ばれる出来事のことだ。


 主人公が、何らかの要因で死んでしまって、目を覚ますと現実ではありえない空間にいる。

自分が死んでいるのか生きているのかいまいち把握できない状況に現れ、自分を神様だと名乗る何かが、現状の説明と主人公が死んでしまった原因を話して、謝罪として転生を提案する。


 呆れるほどに、良くある話だ。

ありがちな、物語の生まれかた。けれどそれにも理由があったりして、それが本当の善意であったり、仕組まれたものであったり、ただの戯れ言であったりもする。

それに気づく転生者も、気づかない転生者もいて。

幸せにその生を終えたり、終えても続きがあったり。はたまた、そもそもが悪魔との取引を行ったようなものであったりもする。


 神様がミスして殺してしまった、という言葉に対しても、その通りなのだと言葉のまま受け入れる人間や、怒る人間、やや特殊で許してしまう人間がいる一方。

『神様がミスなんてするわけがない』と一刀両断、耳の痛い判断をする人間がいるのもまた事実であった。

けれど、実際は神様によって違う。

人それぞれ、ならぬ神それぞれ、というのが事実であったりもするのである。


 地球でも色々な神話があるように、全知全能の神様もいれば、人間くさい神様もいて。

中にはミス、だなんてわざと嘘をつく神様もいたりするのだから、神様達に振り回される僕達はいつだって静かに溜息を吐くほか無いのであった。


 閑話休題(話がそれたね)


 テンプレというものが解っていると仮定したうえで、僕がどうして長々とこんな話しをしているのかということを、そろそろ話そうと思う。


 僕たち天使という存在は、その名の通り“天の使い”と書くだけあって、つまりは神様の部下である。

会社に勤める人間はよく知っている通り、上司(神様)がとんでもない相手であれば、そのぶん苦労が一入と成って行く社会(天界)の歯車。

例え成り上がって中間管理職(大天使)に成ろうとも、上司の仕事が割り振られていく日々。


 さて、それではテンプレ通りに神様がミスして死んでしまった魂があったら、その仕事は何処へ任されるのでしょうか。


 答え。

神様が気まぐれを起こして自ら向かわない限りは、大抵僕たち天使に任されます。





 なんて、頭のなかで理解が追いつかず、誰にとも知れない説明をすることで処理をしていた僕に、僕の上司である神様は小さく首を傾げていた。

しかしそれも面倒になったのか、「アルルズくん、よろ」と軽く手を振りながら告げて、寝室に戻ることもなくそのまま椅子の上でうとうと船をこぎはじめるのを僕は無言で見つめる。


 どうにかこうにか、脳内の混乱を処理し終えて、それでも出来るならば他の誰かに任してしまいたいという思いを込めつつ振り返って顔を上げれば、野次馬のようにこちらを眺めていた目が、一斉に他所へと向いた。

どうやら僕に天使望(じんぼう)はないらしい、悲しいことである。


 ならば、と思い、何百年では片付かないほどの長い時を友として過ごしてきた同僚達に目を向ければ、同情の目があったり、頑張れとでも言いたいのかサムズアップしてきたり、にっこり笑って足早に去って行ったり。

どいつもこいつも何の役にも立ちやしない。

くそう、裏切り者どもめ。なんて内心毒づいてはみるが、逆の立場だったら同じことをする自信はあるので何も言いはしなかった。


 そもそもは、こういうことは神様がすべきことなのである。社会(天界)的にも、テンプレ的にも。

けれど、他所はどうあれ昔はどうあれ、現在のこの職場に至ってはどうしようもなくこの現状は当たり前の事であって、何時ものことでもあった。


 何故ならば。

僕の上司である神様は、他のどの神様よりもとまでは言わないが、根っからの面倒くさがり。怠惰の神様、なんて言われることも有るほどなのだから。

世が世ならば、そのまま堕天して“怠惰の悪魔”というものに成っていたのでは無いだろうかと、内心思っていたりもする。


 深く深く、溜息を吐く。

こんなことならばいっそ、勇んで天使業に励まなければ良かった。そうすればきっと4大天使に引き上げられることも無かったであろうに。

ただの一天使でいられたかもしれないのに。


 この仕事(転生者案内)が終わったら、天使を辞職してやろうか。なんて考えながら神さまに渡された、担当する転生者の書類を眺めて、また溜息を吐く。


 実のところ、転生者の担当というのは天使からしてみれば重労働の一つであった。

永い永い世界の歴史からしてみればほんの些細な一欠片であって、幾度と無く繰り返されてきた作業でもあり、マニュアルもあってシステムの最良化だってされている。

だが、それでも神様自身が担当することを推進されるほどの重労働であることには変わりがない。


 僕がここまで、つらつらと思考を迷わせながら折り合いをつけることを拒否しているのは、推進されている神様であっても、転生者への対応を失敗するという話をよく聞いているからであった。


 とある神様は、ミスして殺してしまったと告げた途端、転生者にボコられたという。

人間は神様や天使には触れられない筈なのに、そんな理屈を知ったものかとばかりに捻じ曲げて、殴って、蹴って、混乱している神様の羽を毟ったとか。

なんとか転生はさせたものの、それ以来その神様はミスで転生者を呼ぶことを大層恐れているという。


 とある神様は、転生者に口で言い負かされ、泣かされたという。

決してその神様自身は全知全能とされる方ではなかったのだけれど、そこを追求されて、責められて、気の弱い性格を追いつめられ辱められたとか。

誠心誠意の謝罪をさせられて、それ以来その神様は部屋に閉じこもったまま未だ出てこないという。


 とある女神様は、担当した転生者に恋をしてしまった。

生前から人誑しと言われていたことを知ってはいたけれど、実際に会って話したことで、ほんの短い時間の中で彼の虜に成り下がってしまって、言われるがままに転生の決まりを破ってしまった。

罰を受け、正気に返った女神様は自分は何ということをしてしまったのかと後悔し、神格を捨てたのだという。


 とある神様は、部下の天使に担当を任せたらしい。

目を掛けていて、重労働だからとその天使にアドバイスをしたうえで送り出したそうなのだが、天使が転生の説明をして書類を制作しているうちに、担当していた転生者は勝手にシステムを起動してしまったのだという。

書類不十分で転生者の自分勝手に設定されてしまったために、仕事を失敗してしまったその天使は、もう昇進は望めないだろうと噂されている。


 とある邪神様は、その責務を全うしたが為に、転生者に滅ぼされたと聞く。

 転生者の恨みをその一身に集め、転生者を送り出す際に恨まれるよう上から目線で自分勝手な言動をしている内に、送り出してきた転生者の一人によって存在ごと抹消されてしまった。

 邪神という立場であるから仕方がないとはいえ、神に手が届く人間が居るという事実は、天界を大いに揺らがせたのである。


 そんな、歴代に語り継がれる数々の転生案内にまつわる失敗談。

話に聞くだけならば他天使事(たにんごと)で済むが、その失敗がもしかしたら自分に降りかかるかもしれないなんて考えてしまえば、僕が拒絶したがる理由もわかってもらえると思う。

出来るならば神様に担当して頂きたい所ではあるが、僕の上司では望めそうにない。


 こうして僕が嫌がって、うじうじとしている間にも担当の転生者が白の空間で待っていることは解っていた。

長時間放置してしまうと狂いかねないことも、知識として知っている。

けれど、やっぱりどうしても“もしも”のことを考えてしまうと、どうなるかわからなくて足がすくんでしまうのだ。


 重い足をのろのろと動かして、あの世とこの世の狭間にある白の空間へ。

先ずはどうやって説明しよう。何を話そう。

どうすれば余り怒らせずに説明できるだろうか。

恐怖が脳内を支配しないように、必死に思考を巡らせて、何も無いがらんどうな空間に足を踏み入れる。


 果たして、僕の担当する相手であろう転生者は、彼の常識では存在しないであろうこの空間にも関わらず、身体を横たえて眠っていた。

……眠っていた。


 自分の手を枕にして、自室で寝るのとそう変わらない様子でうっとりうっとりと静かな寝息を立てていた。


「…………あの、」


 何処かで見たことある既視感に悩まされながら、声をかける。

予想通り、というか。もちろん彼は起きなかった。

身じろぎさえしなかった。


 自分自身の上司(神様)が被って見えるその姿に、もしかして僕はこういうタイプに縁があるのだろうかと本気で悩んでしまう。


「すみません、起きて下さい」


 構わずに眠っていた彼を揺すって起こして、睡眠を邪魔されたことで少し不機嫌そうなところに「神様の使いで来ました」と声をかける。


「…………はよ」


「おはようございます」


 面倒くさそうに、けれどどうやら話を聞いてはくれるらしく、のっそりと上体を起こして座り込んだ彼の一言目に、僕も挨拶を返す。

不思議な事に、こういうタイプの人は挨拶を大切にしていたりする。

どうしてかは解らないが、神様もそうなのでそういうものなのだろう、たぶん。


 テンプレ通り、途中眠りこけそうになるのを起こしながら、どうにかこうにか説明を終えると、うつらうつら、首が不安定に動く彼は呟いた。


「え、やだ」


 沈黙。

一瞬何も言えなくなって、けれど何となくわかっていたような気がする答えに、根気よく僕は問い返す。


「……転生、しませんか?」


「めんどう」


 何度否定されても、肯定するまで繰り返す覚悟を決め込んで、また繰り返す。


「転生しましょうよ」


「眠たい」


 この仕事が終わらないと僕も帰れないんだぞ、なんて内心でぼやきながら、笑顔が引きつるのを感じつつ、傷ついていく自身の心を慰める。


「…………転生、してください」


 嗚呼、もうこれは提案でも案内でも何でもなく、懇願ではないだろうか。

なんて必死に考えながら頭を下げる。

取り敢えず了承さえしてくれたら、何度だって頭を下げる覚悟はあった。


 残業は勘弁して下さい、僕も帰りたいんです。

もしかして神様が僕にこれを任せたのは、担当の転生者がこうであると知っていたからではないだろうかと疑いながら、また言葉を繰り返した。


「やだよ、めんどくさい」





 神様、転生者って色々な意味で恐いです。

 開けたら何が出てくるかわからないびっくり箱、もう二度と開けたくないなんて経験者の言葉は本当だったんですね。


 …………ですから神様、少しでいいんです。


 働いて下さい。






 ここまで読んで下さった方、ありがとうございましたっ。

 突発的なネタではありましたが、意外と文字数が出来て自分で驚きました(*ノω・*)


 一応の登場人物(?)↓


◯アルルズ/怠惰な神様の部下、天使。苦労人(天使)。

◯神様(上司)/アルルズの上司である神様。面倒くさがり。世が世なら堕天して悪魔堕ちしているのではないかと思われている。直接の部下はアルルズも合わせた四大天使。

◯他の転生を担当した神様/色んな作品に出てくるようなちょっとアレな神様方。

◯担当した転生者/上司とどこか似ている面倒くさがり。布団が友達。

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