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こちら、マークス探偵事務所!

「いや~、こんなに速く解決されるとは」


はははっと笑いながら、エリオットは言った。

マークス探偵事務所の来客用スペース。

ソファーに座るエマの向かいには、マークスとソフィ。



エマの家を訪ねて、肖像画の少女ーーフレアーーの話しを聞いたのは、ほんの数日前のこと。


「まさか、このメンデルに居たとは。 隣国をいくら探してもいなかったはずだと、エマも驚いていましたよ。 はははっ。 灯台もと暗しですなぁ」


先程から実に楽しそうに話している、エリオット。

ソフィは、なぜか恐縮したように下を向いている。


エマが探していた、先代リュシドール伯爵の孫であるフレアは、このメンデルのパン屋で働いていた。

しかも、ソフィの行きつけのパン屋である。......世間とは、実に狭いものである。


「ほんと、私もビックリです! まさか、パン屋さんのフレアが、あの・・フレアだったとは......ははっ」


顔をあげて、ソフィは照れくさそうに頭をかく。


「ご両親が生まれ育った街で暮らしたかったとは。 なんとも......」


エリオットが目頭を押さえている。


両親を亡くしたフレアは、懇意にしていた出入り業者の女の協力もあって、両親が残してくれた蓄えとお店を売ったお金で、ここメンデルの全寮制の専門学校に入学した。

協力してくれた女は、その後亡くなったのだという。エマが探せなかったわけである。


居場所を知ったエマは、マークスが訪ねた次の日、フレアに会いに行った。


「私も見たかったなぁ。 感動のご対面っ! ううぅ」

「私もでございます。 ううぅ」


ソフィとエリオットが、頷きながら涙ぐんでいる。


「エマは受け入れられないのではないかと、覚悟していたようでございましたが。 本当によかった」


リュシドール家のことや、祖父である先代のことを聞いたフレアは、始めこそ驚いて戸惑ったようだが、真摯に話しをするエマを見て、受け入れたのだという。


「あれから、リュシドール家からは連絡もないと言っておりましたので、私もホッといたしましたよ」


エリオットがポケットからハンカチを取り出しながら言った。


一昨日、モーリスが報告書を取りに来た。フレアは居なかった、と書いたものだ。

内容だけ確認すると、残りのお金を置いてさっさと帰って行った。

何も言ってこないということは、これ以上は何もする気はないということだろう。

フレアは、自分がリュシドール伯爵家の血を引く者と知った上で、家に行く気はないと静かに言ったという。

「今が楽しくて、幸せなんです」と笑って言ったらしいから、きっとエマも救われたはずだ。


「フレアったら、おじいちゃんが2人もできたって、喜んでましたよぉ!」

「おかげでエマのやつなんか、いい歳してデレデレしてるんですから。 まったく、けしからんですな!」

「エリオットさん、うらやましいんでしょ~~。 フフッ」

「私には、お坊ちゃんがおりますから。 さあ、お坊ちゃん、私をおじいちゃんと呼んでも構いませんよ」

「......」


エリオットが満面の笑みで両手を広げている。......はやく帰ってくれないか。

ソフィは、うんざりしているマークスを見て一頻り笑ったあと、思い出したように言った。


「そう言えば、フレア、前から自分でお店を出したいって言ってましたから、エマさんが側に居てくれるなら、心強いですね!」

「どうですかなぁ。 一緒に働くんだとか言って、あいつは勉強までしているようですよ」

「ははっ!」


何はともあれ、フレアはこれで安心だろう。

エマが側にいるのだから。 一人ではないのだから。





窓から見える街が、夕日で赤く染まっている。


静かな事務所のいつもの席で、マークスは静かにコーヒーを啜りながら、机に置かれた一枚の紙を手に取った。

ソフィが書いたビラである。



『人探し、ペット探しに物探し。浮気調査にお片づけ。

 お困りでしたら、どうぞお気軽にご相談ください!』


 『こちら、マークス探偵事務所でございます!』



......いや、『お片づけ』は、おかしいでしょ。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。


また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。

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