情報収集(1)
「先生っ! どういうことか、説明してくださいよ~!」
少し先を歩くマークスを小走りで追いかけながら、先程から同じ質問を繰り返すソフィ。
二人は繁華街を東の方角に向かって歩いていた。
ティータイムの時間とあって、通りのカフェではご婦人方がお茶やスイーツを楽しみながら話に花を咲かせている。
先程、謎の少女ーーフレアーーのなんちゃって捜索依頼を受けたマークスは、西の外れにある事務所をあとにして、天気がいい昼下がりの繁華街を足早に歩いていた。後ろには......ソフィ。
「待ってくださいよぉ~、先生っ! はぁはぁ。ちゃんと説明してくださいってば~!」
息があがったらしく、膝に手を置いて呼吸を整えるソフィ。
「さっき説明したじゃないの」
マークスは見向きもせずに答える。もちろん、足は止めずに。
「だから、......って先生! はぁ、もう!」
猛ダッシュしてマークスを追い抜くと、ソフィはそのまま手を広げて行く手を阻む。
はぁはぁ、息を切らしながら顔を真っ赤にしている。
「だ か ら! その本物の依頼人、ってどういうことですかって聞いてるんですよ!」
「そのまんまだよ」
「そのまんまって!? さっきの人が依頼人じゃないんですか?!」
「依頼人だよ~」
「だよ~って。 じゃあ、今から誰に会いにいくんですか?!」
「本物の依頼人?」
「......」
にやっと笑って、どや顔のマークス。もちろん、足は止めない。
事務所を出てから、何度もしている同じ問答。
手を広げたまま後ろ向きに小走りしながら大きくため息をつくソフィ。......なかなか器用な奴だ。
さっきから、行き交う人がこちらをチラチラ見ている。その視線に気づいてか、ソフィはあきらめたようすでマークスの隣に並ぶ。
繁華街も東の外れにさしかかり、人も疎らになってきた。
やっと少し落ち着いたようで、マークスの隣を歩きながらソフィは尋ねた。
「それにしても、先生。さっきの依頼、本当に受ける気なんですか?」
「うん」
「うんって......。だいたい、探すフリって、つまり......何もするなってことでしょ?」
「だろうね」
「つまり、何もしないのに100万ギルもくれるって......やっぱり、おかしいですよ」
顎に手をあてて、なにやらむずかしい顔をしているソフィ。
「まあ、あちらさんにも、いろいろあるんじゃないの」
「うぅ~ん」
お貴族様方が考えてることなんて、知ったこっちゃないし、興味もない。
「金をくれるっていうんだから、黙って貰っとけばいいんだよ」
無駄に首をつっこんでも、ろくなことはない。 本当に。
ソフィはまだ納得できないようすだったが、それ以上は何も言わなかった。
まもなく、繁華街の東の端に来ようとしている。
2人の視線の先に5階建ての立派な建物が見えてきた。
「ここって......、使用人協会......ですよね?」
入り口の横に掛けてある看板を見ながら、首を傾げているソフィ。
「ここで何するんですか?」
「まずは、情報収集」
そう言うと、マークスは建物の中に入っていった。
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