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マークスとゆかいな仲間たち

ノルディア国の国都・メンデル。飲食店や商店が立ち並ぶ賑やかな繁華街のその一角に、一際古い煉瓦作りの建物があった。3階建ての建物の壁はまったく手入れがされていないらしく無造作に蔓がからまり、煉瓦の色も黒くくすんでいる。賑やかな街でもその建物だけはまるで時間がとまったようにひっそりと、だが堂々とたたずんでいた。その1階に、そこはあった。


      ~マークス探偵事務所~

 お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おかしい。」


机に向かって腕組みしたまま難しい顔をした女性。彼女の名前は、ソフィ。

肩までかかった赤い髪は熟れたリンゴのように赤く艶やかで、大きな黒い瞳と血色がいい健康的な肌は何とも気が強そ、いや利発そうな印象である。黒のワンピース姿はやや胸あたりが貧相、もといほっそりとしてはいるものの19歳ということを考えると、これから、であろう。多分。

彼女はマークス探偵事務所の助手である。

そんな彼女が先程からじっと見つめているものー


1000ギル札1枚と100ギル硬貨2枚、1ギル硬貨が5枚。


「絶対おかしいわ。」

「どうかしたのかい、ソフィちゃん。」


ソフィの向かい側の机のおっとりしたご婦人は、マークス探偵事務所の事務員、マーガレット女史である。

軽くウエーブがかかった金髪はきれいにセットされていて、無数にある顔の皺や落ち着いた色のロングワンピースにカーディガンという質素な出で立ちではあるが、何とも気品が漂っており家柄の良さがうかがえる。なんでも、元は名門貴族のご夫人で早くにご主人を亡くされ色々苦労されたそうだが、今は息子が家督を次いで悠々自適な隠居生活だという。60歳をこえたあたりから自分の年齢を数えられなくなり、6年程前からは永遠の70歳である。ボケ、てはいない。らしい。


「どうしたの、じゃないですよ!」


机をたたいて立ち上がりソフィの熱弁が始まった。実にめんどくさ、いやアツい女の子である。


「今月の事務所の残金、1205ギルですよ!1205ギル!

 ピザ1枚も買えないじゃないですか!そこらへんの子供だってまだ持ってます

 よ!

 マーガレットさんは給料はいらないっていうし、私は見習いだから給料はいりま

 せんけど、

 いや、ほしいですけど見習いですし、まあくれるっていうんでしたら・・・

 い、いや、そうじゃなくて。とにかく、依頼が少なすぎるんですよ!

 私がここにきてー」


「おまえ、誰と話してんの?」


いつの間にか奥の立派な椅子に腰掛けて新聞を読んでいる男。


「先生!!」


そう、「先生」と呼ばれるこの男がこの事務所のイケメン探偵、マークスである。

耳のあたりまで伸びた銀髪はノルディア王国では珍しく世の女性たちの注目の的であり、クセ毛ですら母性本能をくすぐるという。黒い瞳の切れ長の目は、見つめられると卒倒必至だとか。整った顔立ちは気品を漂わせ、さらりと着こなした紺色の高級スーツでも隠しきれないフェロモンが女性をー


「先生!

 さっきから変な紹介するのやめてください!

 ね、マーガレットさん。って、また寝てるーーーー!」


話の途中で眠るという特殊なスキルをもつ、さすがはマーガレット女史。ボケ、てはいない。はずだ。


「どうかしたのかい、ソフィちゃん」

「・・・いえ。」


諦めたな、あいつ。フッ。


「とにかく、先生!」


あっ、俺にくるの?!


「私が来てから1年。その間の依頼の数なんて、両手で足りるほどなんですよ!わ

 かってますっ!!」


そんな般若みたいな顔しなくても、わかってますよ。


「いや、わかってないです!」


おぅ、ついに心まで読めるようになったか。フッ、やるじゃないか。


「先月だって、スミス夫人のデニーちゃん捜索依頼だけですよ。先生は何もしなか

 ったですけどね!」


デニーちゃんって、犬でしょ。あれは、飼い主がイヤで逃げ出しただけでしょ。そっとしてあげようよ。依頼人に返した時、尋常じゃなく震えてたじゃないの。眼をウルウルさせて。まぁ、報酬はたっぷりもらったけどね。ごめんな、デニーちゃん。今度はうまくやれよ!


「それで、私は考えたんですよ。

 この国に一つしかないこの探偵事務所を、みんな知らないんじゃないかって。

 だから私、ビラを作ってみたんですよっ!!!ビ・ラ!!これ、今から配ってき

 ますねっ!!」


言いたいことをいって満足したのか、鼻息荒く外に出ようとするアホ、失礼、ソフィである。手には何やら怪しい紙の束をもっているが、よし見なかった事にしよう。俺にはもう彼女を止めることはできない。だがしかし、一つだけ言ってておかねばならない。オッホン。


「依頼人は女性限定と書いたのか?」


バタンッッッッ!!


なぜ睨む?!大事な事じゃないか。

まぁ、これでうるさいのもいなくなったし一件落着じゃないか。うん。


「マーガレット女史、コーヒーを頼みますね。うんっと甘いやつ。」


「どうかしたのかい、ソフィちゃん。」


ボケ、てるな。間違いなく。





お読みいただき、ありがとうございました!

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