六話:働く体と興味の先走り。
ふおぉぉおほっほっほへぇえええい!
お気に入り登録されていて喜ぶ作者は、とりあえず部屋の中を走り出した。狭すぎて反復横跳び開始。餅部勿辺モチベーション(レボリューッションッ! なノリで)!
執筆頑張るお!
場面は替わり。暖色を基調とした明るい部屋。
背後に威嚇する猫の姿が見えるほどに毛を逆立たせて、フェリはティアナを睨みつけた。彼女はワッフルのようなお菓子を受け渡して機嫌をとろうとするものの、猫様の好みには合わなかったらしく、僕を盾にして引き隠ってしまう。
「ふっ、嫌われちゃいました……か」
「当たり前だろうが」
まるで「あの時の俺は世間知らずだったのさ」と過去を皮肉する年寄りのように、ニヒルに笑うYESロリータYESタッチのイエスマン。いや、フェリの見た目は十代前半の中の前半くらいだから……まぁ、ギリギリアウトかもしれない。
「はぁ、仕方ないです。一緒にお風呂に入ろうと思ったのですが」
「認めんよ」
彼女の発言にフェリが身を奮わしたのが分かった。そうだね、ビックリしちゃったよね。怖かったよね。僕も分かるよ、他人事だからそこまでじゃないけど。
背後でおびえる子猫ちゃんと、目と目で通じ合う。手ぇとぉ手ぇで通じ合おうにも腕の筋肉が無理をみせたので妥協した結果だ。
なになに?
「(あの人、怖い)」
「(そうだね、第一印象がぶっ壊れたね)」
「(大人しい、人だと思った)」
「(そうだね、第一印象がぶっ壊れたね)」
「(帰りたい、静紅の家に帰りたい)」
「(そうだね、自業自得だね)」
涙目の猫とアイコンタクトを図っていると、なぜか僕が加害者の気がしてくるから不思議である。フェリ、僕はお前がもっと強い子だと思っていたのだぞ。
「静紅さん」
「オーケーなんだい」
「髪解いてみてください」
「だが断る」
変な要求された。確かに僕ポニーテールだしね、昔髪切ろうとしたら母親が泣き出したもんでさ。いやマジで。あの後の処理が面倒だった。うちの母親ミーハーなんだよ。今は知らんけど。
おかしなところで家族のことを思い出した。だが、ここ三年顔を合わせていないのですぐに思い入れた。
「フェリシアちゃん?」
「……」
「フェ~リ~シ~ア~ちゃん」
「っ!」
あかん、トラウマになりかけとぉ。
耐えきれなくなったのか、今度は保護欲を誘うかのように僕の腰にフェリが抱きつき、前線に繰り出された家族哀者は固唾を飲んだ。あかん、トラウマになりそうやぁ。
「静紅さん?」
「頼む、ここは僕に免じて解放してくれ」
とりあえず頭を下げる僕。敬語すら使う気が失せていたのでぶっきらぼうになってしまう。だが意志が通じたのか、彼女はやんわりと微笑み僕の手をとった。
「シズクさん」
「は、はい!」
そして垂れ流れるヒヤアセ。冷や汗ではないヒヤアセだ。ひゃあっせ! と発音するのがみそである。冗談である。
手を両の手で握られる。恐慌途中を渡った僕を見つめて、ティアナはさらに笑みを深めた。
「私に買われませんか?」
◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃいませぇ」
ティアナと出会ってから十日が経過し、商業都市と呼ばれる『アケミナ』の繁華街に位置する喫茶店で、僕は駆け回っていた。往来する数多の客に注文を取ったり料理を運んだりと大急がしである。
あのとき、買われませんかの発言に逃げ出した僕たちだが、泣きながら猛省と謝罪と自重を繰り返す反省上手さんに気後れして、事の本末を掴ませていただいたのだ。それがこれ、お手伝いという名の……引き留め。
食住を完備してくれるという破格の条件の元、両親の死後、一人で店の切り盛りをしていたティアナと暮らすことになって、現世に帰れるようになる四ヶ月まで働こうということになったのだがーー
「サツキくん、こっちに来てぇ」
「はい、今すぐに」
店にやってくるお姉さん方に滅茶苦茶ちやほやされているのが現状だったりする。
この世界には僕が慣れ親しんでいたソレとまったく同じ服装が流行しているため。
白いワイシャツに、ブラックテーラードそれと同色のデニムといった具合の制服着て活動していたりする僕。そしてお姉さん方に奉仕(エロい意味ではない)する僕。
「えっとねぇ、コレとコレと……」
お客様の席まで近づくと、なぜだろうか、腕を組まれてメニューを指さし始めるではないか。うん、九日前からそうだったんだけどね。つまりは初日からということはアンタッチャブル!
「サツキくんオススメってある?」
「はい、本日は……」
「サツキくんのオススメだよ?」
「え? あ、はい」
すいません、氷水用意してください。胸が押しつけられて恥ずかしいとです。いやいや、今こそ僕の力を発揮するんだ。
僕はウェイトレス……バーテンダー……百戦錬磨のホステス……。
「ねぇ、なぁに?」
「君の瞳だよベイベー」
逃げました。
これぞ言い逃げ。
仕事? 働いたら負けだよ?
しかし無情にも、僕の手は何者かによって掴まれる。はい、知っています。お客様でございます、すすすいま。ひぇぇ。
「ちょっと一緒にーー」
「静紅!」
途端、綺麗な鈴の音とともに店のドアが開くと、神様の声が小さな喫茶店に響きわたった。
「静紅! あがりの時間だろうが!」
「え? そんなものない気が」
「あがりの時間だ!」
扉の側、窓際の席にいた僕に詰め寄ると、眉間に皺を寄せながら大声でフェリは怒鳴る。あぁ、なるほどね。救いの一手か。
前回は「ご主人様」って言ったら捕まったのを、大掃除とか嘯いたっけ、昨日の夜に。
実際は一日中働いているから休憩なんてあってないようなものなのだが、こんな顔見せられたら乗るしかない。大方、僕がいつかのフェリのようにイジられると思っているのだろう。ういやつめ。
「すいませんお客様! また後日!」
「あっサツキくん」
…………マジであがりなのか。
昼下がり、アフタヌーンティーを嗜むには出来すぎた時間。店から少し離れたところで聞かされた。
「アイツが今日は休みにするから、って」
アイツとはティアナ。扱いが存外だな、ふくれっ面をするな可愛い。
ということはということだ。
異世界に着たのに自由な時間が殆どなかったから僕も遊びたい。とゆうかフェリと遊びたい。だって奥様、目の前の神様はフリルをはじめとする装飾が絶妙な加減で安置されているドレスを着ているんですよ。彼女の容姿と相まって純白のゴスロリチックな服がよく映えている。こんな少女と出歩けるなんて幸せなんですよ。
補足すると、この服は出先で客集めをしているフェリの制服である。ティアナが目を輝かせながら選んだものだ。あの人、十九にもなってミーハーすぎる。
「静紅、顔が赤いぞ」
「血液の色だよ」
嘘は言っていない。
実際は見とれたわけだが。
「で、どうする?」
試すように訪ねるフェリ。なにも助けのためだけに僕を連れ出した訳ではないはずだ。一応お給料はもらっているし自由に使える金は……ティアナの家にある、な。
肩を落とすしかない。
なぜならティアナの家は喫茶店なのだ。店の二階が居住スペースで、そこに僕たちの荷物が置かれているからだ。布団とかシーツとか毛布とか木の実とか、パジャマとか……。
「どうした?」
買い物とかしたかったんだけどなぁ。あの店に再び入る度胸はない。
そんな落胆する僕を見つめて首を傾げると、どこから取り出したのかジャラジャラと音の鳴る麻袋をフェリは取り出して僕に投げる。
「友達はショッピングとやらを楽しむものなのだろう?」
踵を返してフェリは続ける。
「アイツからあがりをしらされた時に金は持ってきたさ!」
「フェリ……」
「お前のな」
とりあえず、事前処理は大切だよね。
なんてことは置いといて、フェリと店回りするのは楽しかった。さすがは商業都市と呼ばれるだけのことある。出店を始めとするスペースに頼りない場にも目を惹く物が揃えられており、発光する小石や虎の頭を捩ったマスク等、懐かしさを感じさせる物も見つけたりした。
腰に両刃の剣を携えた方々などは見つける度に「ここ異世界なんだなぁ」って感嘆し、目を輝かして鼻歌を奏でる神様は周囲の景色から逸脱した可愛さだった。そんな冷やかしや屋台のマンガ肉を頬張っていると……。
「なんだアレ?」
「平和維持統制機関ーー後は読めない」
四方に別れる検問のうち、北の門からつながる道の外れ。華やかさの一切が抜け落ちた粗末な屋敷が建っていた。この世界の文字はローマ字だったりするので言葉を覚える必要性がなかったのだが、この建造物の看板には、見知らぬ文字が綴られている。
再度フェリが言う。
「なんだろうな」
「ん、入ってみる?」
少しばかり僕も興味がそそられた。例えるのであれば、格安セールの中で激高商品を見つけたような感覚に近い。まぁ、重要な場所なら鍵か門番くらいいるだろう。
そして足を踏み入れる。
門番の姿はなく、鍵もかかっていない扉。とりあえずはノックしてから入ろうか。
数度目のノックで返ってきたのは、お馴染みのあの名前だった。
「平和維持統制機関『メルト』ギルドへようこそ!」
見つけなきゃよかった。
この時、ティアナに街のこと。世界のことを詳しく聞くべきだったとも後悔した。
なんか屋敷の中の人達にすげぇ睨まれてる。
ギルドにノックw
これがやりたいがためにギルドが登場した。自動ドアは私のために~開いてくれない~。
さぁて。
お祈りしよう。
文才光臨!(今後は心の中で叫ぶ)