十話:流す汗と至高の土産。
文章がさらに安定しなくなってきた。
友人にカラオケに誘われてまさかの八時間熱唱。二人でやるもんじゃねぇよ。と作者は潰れた喉をアイスで冷やす。
お気に入りが増えて感謝感激です!
「おおっ!」
テンションがヤヴァイ!
今の僕なら「戦闘力たったの五か、ゴミめ」とどっかの星の家族のように、猟銃を向けている一般人に刻の時を刻めるやもしれん。
半年後には十八歳になる人間には恥ずかしすぎる過去ができた翌日。僕は医療施設の中庭で、身の安全の保証のため、能力研究に勤しんでいた。
ホントに何があったんだろうね、昨日。泣きそうになるのを堪えながら、見舞いに来てくれた職員さんと出会った記憶しかないっス。万が一思い出すはめになったら原子力発電の肥やしにでもしてくれ。
と、僕は看護婦さんから頂いた施設の見取り図を握りしめた。いや、これは最短ルートをつっきる為の物だよ。
だって僕の足はこんなになってるしね、うん。
と、過去の密閉に走るリハビリ脱走者は更に強く拳を握った。
「おおっ!」
そしてリピート。
切り返しは大切である。
切り返しが早すぎてあっという間に三分割されそうだが大切である。
僕の目の前に浮かぶ色彩に富んだ架け橋よか大切ではないが。
有為現象を発現する。
この能力はイメージ力、言い方を変えれば想像力が極めて重宝するのだ。
数式に例えるとすれば、まずは脳内で問題、つまり発現したいものの大まかなイメージを考える。
次に式を考え、発現する位置、大きさ、形、それがどんな効果を表すのかを割と細かく考えなければならない。
実際僕はギルド登録の際、殺生は避けようとあの熊共に温い一撃ばかり与えていたが、『地割れ』の発現が形になるまでに十回以上失敗していた。
あの時、ある程度の認識あったのが救いだ。イメージが甘いとほんとうに小さなひび割れが起こるだけに留まってしまう。人差し指が入るくらいの小さな割れ目にしかならない。
だから僕は、テレビで見た被災地の道路等を思い出しながら発現した。
ついでに言うと、パイロキネシスはすごい楽だった。ガスコンロをイメージしたら、ボッ。みたいな。おかげで威力が低いんだけどね。
そして最後に、式が組み上がったら『発現するものに沿った言葉』を発する。これがイコールの役割を示す。
今までは脳内想像だったが、最後のコレだけは口にしないとダメなのだ。さっき試しに、心の中で呟く的なことをしてみたが不完全燃焼、ガス漏れのように目の前の空気が屈折するだけだった。いわゆるアレ、砂漠の空気が熱でゆがんで見えるのと似てる。
これに関しては、成功パターンとして『地割れ』なんていうストレートなもの以外にも、『氷結』なんてのでもクリアとなっている。
『氷結』の使い勝手はグッジョブすぎる。現世の職場訪問とやらで、冷凍室の巨大な氷を見たのが利いたらしい。あれは凄かったなぁ……と線路変更を防止。
補足すると、分子分解は丸まった粘土をこねるイメージだった。いまいち締まらないよな、なにがとは言わないが。
……ついでだからぶっちゃける。
僕が言った『有為現象』。
実はフェリに聞かれた時は、眠気で「うい、現象の発現」と言っていたのだ。つまり返事の「うい」が「有為」になったという。どうでもいいよ、って話である。
現象と言った事については最近やった劇の内容が関係する。なんでも「自然災害で本船から切り離され、行き着いた無人島は喋る動物達の国だった」という、内容。いろいろとパロってんなとは、部員の皆が口を揃えて言っていた言葉だ。
まぁ、んで、なんか頭の中に急に浮かんだんだよね、この話が。だから自然災害、自然現象と続いてーー声をだすのがダルくなって端折った、と。
ぐたぐたな説明は疲れる。
僕は水蒸気を利用して作った虹をかき消して、錆び付いたベンチに腰を下ろした。
『鎌鼬現象』に至っては説明する気が起きない、アレの危険性は折り紙付きだ。ウォーターカッターに近いと言えば、その強大な切れ味が分かるだろう。
そもそも、これは起床の三十分前にしか使ったことがないせいか、使えない。
例によって先ほど試したが木の葉も切れなかった。風の刃を想像するのは冗談抜きで難しい。
形になったものとして、最善で風速八メートルほどの風だった。これを発現した時、たまたま近くを通りかかっていた看護婦さん達のスカートを……やる気はなかったんだ。ガーターベルトがげふんげふんっ。
ちょっと休もう。
なんか顔が熱くなってきた。
頭を使いすぎたか?
とか気取ってみた僕は、今頃僕のために汗を流しているであろう神様を思い出しながら昼寝に没頭した。
◇◆◇◆◇◆
「なんてこった」
夕方、街が賑わいに包まれているこの時間帯、起床した僕は人気が全くない広間のベンチで、強ばった体に矯正を加えながら呟く。
大変な夢を見てしまった。
虹を作った時の喜びの非ではない。もっと形容しがたい何かが僕の心臓の鼓動に原動力たるものを受け渡していた。
そうか、そうだよ。
思い至る。
有為、それは因縁と因縁の結合によって生じるもの。僕の中の屁理屈が噛み合ったものでも、この『有為現象の“発現”』は現実のものとして生み出すさせることが出来るのだ。勿論『氷結』で使用したように、材料たる物質は必要になるが、そんなもの病室のシーツで代用すればいい。
シーツの色である白になってしまおうがそれもあり。紺色だろうがなんだろうが、カエレ的な色合いにならなければ、ナイス&ベター&ベスト!
ふはははは! そうだ僕が新世界の神になる!
僕は駆けだした。
まずは、彼女を呼ばなければいけない。
笑みがこぼれる。
今日の夕日は、僕の心を発現したかのように赤く濁った色をしていた。
◇◆◇◆◇◆
「どうした静紅、話があるなんて言って」
闇の寵に納められた半月が、存在感を一層極めた頃。面会可能時間のギリギリ、僕の病室に看護婦さんによって呼び出されたフェリが現れた。
いつも以上に熱を入れて仕事をしてきたのか、その表情は疲れよりも暑さを混在させたもので、淡い空色のワンピースの襟を何度も弾いている。首元から覗く肌が健康を模した血色のいいものとなっているせいか、僕はこれから予測されるであろう幸福を唾とともに飲み込む。
「……静紅?」
ベットで俯く僕に近づきながら、フェリが心配そうな声をだす。しかしまだ、返事はしない。
もっと彼女に近づいてもらわなければ!
さらに一歩、フェリが近づく。もっとだ。
眉尻を下げて僕を心配する彼女にはこれから、“あるもの”を着ていただかなければいけない。あわよくば夢の実現のため。そして体の火照った彼女を涼しますために。
「静紅?」
ついに僕の眼前に迫ったフェリを見て、僕は脳味噌の味と味をコクとまろやかさで倍にして働かせる。
イメージ。
発現しろ!
「『分解』! 『構築』! 『分解』!」
後ろ手に隠してあった“あるもの”を分解して、フェリの素肌に重なるよう構築する。距離感が掴めないと失敗する可能性があったから、これは念のための保険なのだよ!
次いで分解、まるで砂を思わせるかのようなきめ細やかさで、フェリの着ていたワンピースや下着が空気へと馴染む。
「むぅ?」
今だ事態についていけない神様が、きょとんと首を傾げた。
僕は見つめる。
そんな彼女の体は、白さ際だつすっぴんーーではなく。
「ーーんなぁ!?」
スクール水着に包まれていた。
これが僕が見た夢の正体である。
海で遊んでいるフェリの夢を見たのであった。
そして思い至ったのだ。
そうだスク水を着せよう!
断られる可能性もなきにしてあらず、だから僕はこの手段をとった。しかしこの世界には何故か、水着たるものが存在しない。そもそも退院のために金を使いたくない。
そこで「氷作れんなら服もつくれんじゃね?」と。僕は僕を抱きしめたよ。天才だと信じて疑わなかった。
後の作業は滑らか。
好きこそものの上手なれとかいう諺を考えた人は尊敬する。若干作りが雑になったが期待通りのものができた。一度発現してしまえばイメージも固まって、『構築』に大した時間は掛からない。『分解』も『氷結』を応用して数百回ほど調整を繰り返したら、滞りなく発現できた。
『分解』は『分子』を発現する。
自分の才能に惚れぼれするぜ。
「な、なんだ、これは」
わななくフェリ。
頬が紅潮しているのがよく分かる。
白いスクール水着。
胸元に平仮名で「ふぇりしあ」と書いたところまで発現してるとはな、ちょっと僕も驚きだ。
「しず、静紅? なぁ、静紅?」
「どうしたのフェリ?」
「私の体になにがあったんだ?」
詰め寄るフェリは困惑に満ちた顔を僕に寄せて、ガクガクと僕の肩を揺らす。サイズが少しばかり小さかったのか、太股や二の腕に食い込むスク水が素晴らしすぎた。
「大丈夫、似合ってるよ」
「ん、うむ、そうか」
大人しくなった。
褒められるという事に慣れていないせいか、こういう時の彼女は普段と違い、しおらしくなって保護欲をそそる。そんな可愛らしいSSS(白スク神)を僕は面会時間が過ぎ去るときまで見つめていた。
後日。
やはりどこか不安そうだったので、ネタばらしをしたら殴られた。
ちきしょう! 草原で脱がされたお返しだよ!
ついでに、シーツを無くしたことで、お姉さんにハグされた。
マジですいませんっした。
うん、殴れよ。
音速で殴れ。
説明文章に精神がヤられた結果がこれ、能力を使ってバカをやる落ち。結構こういうの好きだったりする。
金髪っ子は忘れていない。
ホントだよ!?
PV7200。突破。
ユニーク1200。突破。
活力が漲りまするぅ!
閲覧していただきありがとうございます。