負のゴールドラッシュ
少々のトラブルを乗り越えながら、旅は進みます。何日も馬車に揺られ、やっと、央の国と北の国との境界に辿り着きました。
「エレーヌ、いくらお忍びであっても、北の国へ入って国王に挨拶しないわけにはいかないんだ」
ファウストはエレーヌを諭しました。
「はい。承知しております。北の国でしたら、妙なことを考える方はいないでしょう」
北の国は厳格な法治国家。一夫一婦制です。
国境を越えた馬車は、山を抜け、高原を走ります。もうすぐ国境から1番近い街に着くはずです。が、小麦畑には、草が生い茂っています。野菜畑も然り。
「どうしたんだろう。種を蒔く季節なのに、小麦畑が荒れている」
ファウストは車窓からの景色に首を傾げました。エレーヌも不思議に思いました。国境までの央の国には、耕された茶色い小麦畑がありました。国境を越えたとたん、様子が変わりました。
街に着きましたが、人々が出歩いていません。お食事処を見つけで入ると、店内には、数名の男が昼間から酒を飲んでいるくらいで、他にお客がいません。
ファウストは食事を運んできた男に尋ねました。
「馬車から、小麦畑を見ました。休耕地が多いのですか?」
エレーヌ達は、明らかに央の国からの客人と分かる風貌です。庶民に変装しているとはいえ、農民や狩人とは明らかに違う服装。ファウストからは高貴なオーラがダダ漏れていました。
「旦那様、農民は畑ぇ捨てて逃げたんでさぁ」
「逃げた?」
税が厳しく、央の国へ逃げる者が続出していると言うのです。
「税だけじゃねーんでさぁ。男は金鉱山で働く方が儲かるんでさぁ」
金脈が見つかり、働き手がそちらへ行ってしまったのです。
エレーヌは尋ねました。
「小麦畑を管理する役人は、何をしているのですか?」
所轄の農民達から税を徴収する仕事をする者がいるはずです。
お店の人は、首の前で手を水平にして舌を出しました。クビにされたということでしょう。
「役人の上にいる役人もそのまた上の役人も、お嬢さんみたいに『何してんだ?』って処罰したんでさぁ」
エレーヌは、上から目線の自分の言葉を反省しました。優しいファウストは、エレーヌの肩にそっと手を添え、話を別方向へ進めてくれました。
「では、金鉱山の方は賑わっているでしょう。大きな金脈ですか?」
「まあ、大きい。ここいらの者がごっそり働きに行ってもがんがん採れてるんでさぁ。そっちに2号店を出してるんでさぁ」
どうやら話をしてくれているのは店主で、なかなかやり手のようです。ファウストは、金鉱山と2号店の場所を教えてもらいました。
「お兄様、行くのですか?」
「ああ。私は北の国のことを知っておきたいんだ。金鉱山があるのは、北の国が新たな力を得たということ。土地を捨てて逃げる農民がいるのは問題だと思うが」
「その問題は、どうやって解決するものなんですか? 税を軽くするのですか?」
エレーヌは先ほどの浅はかな発言を恥じながら質問しました。
「これは難しい問題なんだよ。央の国の歴史の中でも似たようなこと起こった。答えは一つじゃない」
「央の国は、逃げてきた人を返さなきゃいけないんですか? せっかく央の国がいいと思って来てくれたのに」
「これは簡単に意見できることではないよ。エレーヌ、私達はただの旅人じゃない。発言しただけで内政干渉にもなりうる」
「はい。気をつけます」
5人で旅をしていても、護衛、御者、侍女は同じテーブルではありません。最初、同じテーブルだったのです。すると、3人は一言も話さず、マナーに異様に気を配り、ほとんど何も喉を通らないという状況でした。見かねたファウストがテーブルを分けたところ、3人はとても楽しそうにお喋りしながら気兼ねなく爆食いしました。その経緯があり、今では別々のテーブル席です。
それでもだいぶ打ち解け、カフェや野外で食べるときは一緒に楽しめるようになってきました。
金鉱山の周りは簡単な小屋が建ち、街が出来始めていました。馬車を止めて散策します。新しい大きな家がところどころにあります。その1軒の前を通るとき、中から人が出てきました。
きんきらきーーーん
金糸の入った服、金の装飾品、見事な成金ぶりです。
『眩しっ』
エレーヌは思わず手の甲を目にやりました。




