王族なんてこんなもの
2日目の宿泊場所は、親類の貴族の城でした。エレーヌは内心ブチ切れていました。
『ぜんっぜん冒険っぽくないじゃん』
これが続くと思うと、旅が楽しくなくなってきました。
食事だと想ったら晩餐会で、正装を余儀なくされ、兄は次々に令嬢を、エレーヌは次々に貴族の息子を紹介されました。
「私は女王陛下のいとこ。ですから、ファウスト様やエレーヌ様と我が家の娘・息子はまたいとこ。子供ができても問題ありません。これを機会に是非」
『どーゆーこと。親がワンナイト勧めるとか、信じられない』
「いえ、我々はただ旅の途中にご挨拶に伺ったまで」
ファウストはめっちゃ嫌がっています。
「そんな、固いことおっしゃらずに、どーぞどーぞ」
まるでお酒でも勧めるかのように、自分の娘を前に押し出します。ファウストが失礼のないように言葉を選びながら断り続けると、、、
がばっ
親戚である主人は床に片膝をつき、頭を深く下げました。
「御慈悲をお願いいたします。我が家は優秀な子孫を望んでおります。もしもファウスト様のお子が生まれれば、さぞや優秀。我が家は栄えるでしょう。婿入りしろなどとご無理は申しません。認知も気遣いも不要。ただ、優秀な子孫を望んでいるのです」
『うっわー、認知も気遣いもしないって、それ、サイテー男。お兄様をそんな人にするつもり?!』
言葉はさらに続きます。
「エレーヌ様、」
『え、こっち来た。やめて』
「どうか我が息子と子を成してください。女の子が生まれれば世継ぎ。我が家にとって最高の誉でございます」
エレーヌ達は一目散に逃げました。
なんとも浅ましい話です。
「エレーヌ、嫌な思いをさせてしまった。所詮、王族など、この程度の価値なのだろう」
ファウストは悔しそうに下唇を噛みました。
「お兄様が謝ることはありません」
王宮で育ったエレーヌは、お喋りな貴族のご婦人達や権力話が好きな紳士達の画策を聞いてきました。ですので、こんなもんと分かっていました。……。いえ、ここまであからさまに行動されるとは思っていませんでした。
ですが、エレーヌは実は喜んでいました。これで本当にお忍びらしい旅ができるのです。
護衛が手配した宿は、旅人が宿泊するところでした。部屋は男女で別。エレーヌは侍女と同室です。わくわくしながら狭い階段を上ります。まるで、塔の中の物置への階段のように人がやっとすれ違える幅。2階には小さなドアが並んでいました。
『物置部屋のドアより小さい』
本当にここが部屋なのだろうかと侍女がドアを開けるのを待ちました。うっかりです。お忍びなのですから、自分でドアを開けてもいいのです。
『次から自分で開けよ』
部屋にはベッドが2つ。それは見たこともない小ささでした。エレーヌは目をぱちくりさせました。自分が使っていたベッドの半分より小さい気がします。
『寝てる間に落ちちゃう』
「エレーヌ様、なんとか宿が見つかってよかったですね」
侍女はにっこりしました。が、次の瞬間、手に持っていた部屋の鍵を、
シュッ
壁に投げつけたのです。
ぽと
何かが床に落ちました。それはネズミでした。
『ひっ』
なんとか声を出さなかったエレーヌ。一方、侍女は「失礼しました」と何食わぬ顔で仕留めたネズミを窓からぽいっと捨てました。
『大丈夫。ただのネズミよ、エレーヌ、しっかりして。へーき、ただのネズミ』
エレーヌは自身に言い聞かせるのですが、直立不動のまま動けません。侍女はてきぱきとベッドを整え始めました。片方のベッドのシーツを変えました。別の枕を出しました。雑巾でベッドの周りを拭き始めました。
「大丈夫です。掃除しなくても綺麗です」
どこから見ても、綺麗には見えませんが、エレーヌは言いました。侍女は疲れているはずです。一緒に馬車に揺られただけでなく、細々と動き回っていたのですから。
「ですがエレーヌ様、」
「私は納屋の藁で寝る覚悟で旅に出ました。このままで」
侍女はやっと動き回ることをやめました。
「では、やめます。シーツは変えたので、ダニは大丈夫でしょうし」
「ダニ? かゆい虫ですか?」
「はい。ダニはまだましです。南京虫だと最悪です。ずーっと強烈にかゆいのです」
エレーヌは目以外をシーツでくるんで眠りました。それでも、男に食われるよりダニに食われた方がマシだと思いました。




