真実を知らない女王達
女王は、デート中の侍女とカレシにメモを残し、護衛と御者に水門を閉じて船長を船と共に城から出すよう命じました。そして、すたすたと、城本館へ歩を進めます。
エレーヌとフォーとジジは顔を見合わせながら後に続きました。
「母上、どうなさったのですか」
本館の玄関広間に、ファウストが驚き駆けつけます。そして、3人を見て目をぱちくり。
「「ただいま帰りました」」
「お前達、もう?」
「ねー、ちょっと着替えてくるわ。水でドレスが重くって。エレーヌ、手伝ってちょうだい。ジジはもう寝なさい」
なんと、エレーヌが女王からご指名です。
「は、はい」
『そっか。侍女がデートでいないんだっけ』
どうなっているのかは、女王がエレーヌに、ファウストがフォーに説明するのでしょう。
女王の部屋へ行きました。女王は本館にいた侍女達に、お付きの侍女のことをごまかしながらも『娘と話し合わなければならない』旨のことを告げました。
どさっ どさっ
女王は濡れたドレスを脱いでいきます。
「お母様、手紙をありがとうございます。東の島国で伯爵夫人から渡されました。それから、今まで育ててくれたことに感謝いたします。で、どうしてこんなことに」
「あ、エレーヌが知っちゃったってことは、伯爵夫人の手紙に書いてあったよ」
「『あったよ』じゃなくて。これ、この状態」
「んーっとね。女系継承どーするって話が難航してるの。政治家達は男の世界でやっちゃいたいわけ。王が男だと、今より口出すよねってことを警戒してる。のらりくらりと難癖つけて今のままにしようとしてる」
「そうなんですね」
1番上に着ていたドレスを脱いだ女王は、下着の上にポケットをつけた状態。特大のポケットは大きく膨らんでいました。女王は、腰からポケットをはずし、丁寧に傍にあった台の上に置きます。
「でね、『エレーヌは帰ってこないかもしれない。その前に女系継承を辞めたい』ってファウストに話したの。そしたら、『エレーヌが後継を拒んだら、央の国を取ろうと思った』なんてゆーじゃない。名案でしょ? 乗ったの。なのに、ファウストってば、争いごとなんてしたことないから、国の取り方が分かんないわけ。しょーがないから、私が地下牢に入ったの」
「自分からですか?」
「結構快適だったの。公務を堂々とさぼってゴロゴロできて」
もう夜だというのに、女王は寝着ではなく、ドレスを纏いました。ドレスの下には、しっかりと、大きく膨らんだポケットを装着しています。それは、ふんわりしたドレスのスカート部分が盛り上がっているほどです。
話しながらも女王は着替え終わり、2人でテーブルを前に、並んでソファに腰掛けました。
一呼吸してから、エレーヌは切り出しました。
「お母様、旅をして考えました。女系継承で受け継がれている央の国は素晴らしいと。それから、いろいろ分かったことがあります。家系図を見たいのですが、見せていただけますか?」
女王は、ポケットに手を突っ込んで、布に包まれた大きな箱を取り出しました。女王のポケットは特注なのでしょう。普通のポケットには入らないサイズです。
女王は大きな箱の中から、巻物になった家系図を出しました。ところどころ継ぎ足され、部分によって文字の濃淡や癖が異なります。
「持ち歩いてるのですか?」
「ううん。今回は部屋を空けるから。それに、浸水した地下牢なんかには置いておけないでしょ?」
ごもっともです。
「お母様、オザリン王女を知ってますか?」
「誰?」
「女王の引き継ぎのとき、何か聞いてませんか?」
「ううん。これを渡されただけ。母が亡くなるときに、入っている場所の鍵を手渡されたの」
女王は家系図をそっと広げました。幸い濡れていません。
長い長い家系図のずーっと最初の方に、オザリン王女の名前が2つありました。姉と妹。姉が亡くなったのは、7月14日。そして、同じ年の同じ日に妹が誕生しています。7月14日。
「ここで、血は途絶えています。東の島国に外交官の手記がありました。姉のオザリン王女が洪水を鎮めるための生贄になったと書かれていました。その外交官がいるときに、どこからか赤ん坊が運ばれ、その場にいる皆が平伏したことも記載されていました」
「それって。」
「たぶん、憶測でしかありませんが、赤ん坊はそのときの女王の娘じゃありません。姉のオザリン王女の墓碑が、大河の源流、湖のほとりにあります」
「じゃあ、これ、嘘っぱちってこと?!」
女王は家系図を改ざんできるなどとは思ってもいなかったようです。当然です。先々代の女王、先代の女王、現女王とも、女の子を産むために口に出せない悍ましい苦労をしてきたのですから。先々代の女王に辛い思いをさせた先々々代の女王も知らなかったのでしょう。
しかし、女王の引き継ぎは、死によって行われます。死の間際に会話できるという状態が常とは限りません。どこかで家系図改ざん可の情報が引き継がれなくなったと考えられます。
「央の国は、昔々はこの家系図を玉座の後ろに飾っていました。妹のオザリン王女が生まれた後、飾らずに女王が保管して引き継ぐ形に変わってます。法改正の記録を調べれば分かります」
「そーなの?!」




