とりあえず女王を救出
大河の城より少し上流の河港で小さな船を探しました。
宵の口。酔っ払った船長が、船の貸し出しに応じてくれました。
「兄ちゃん、こんなに金払ってくれるのか。はっはっはは。船ごとやるぜ」
とりあえず、船の操作のために船長に同行してもらいます。
「口は固いか?」
離岸するとすかさず、低い声でフォーが船長を脅します。
「ああ、ああ。ああああ。かっちかちに固い」
船長は震えました。
「何かあったら、すぐ、自分だけでも逃げてくださいね」
エレーヌは船長にアドバイス。口調の優しさが余計に船長をビビらせました。
円い月が輝き始めました。風強し。船は滑るように大河を進みます。
王城大河側。
『あ、れ?』
大河側にあるはず入り口の門がありません。増水して見えなくなっています。
「この辺で留めてください」
エレーヌは船長にお願いしました。
「門が水の下だ。どーするんだ、エレーヌ」
「どっちみち、門から入ろうなんて思ってないよ。鍵かかってるし、階段だもん」
フォーと護衛が岸に上がり、水門を開きます。門の両側の脇に鉄のハンドルがあり、2人で同時に操作しなければならないのです。少しずつ、堰き止められていた重い鉄板が上がっていきます。水流がだんだん激しくなっていきます。水門全開。しばらく待つと、激しく水飛沫をあげていた流れが落ち着いてきました。
船で通過。目一杯頭を低くし、鉄板に当たらないように気をつけます。
左に地下牢のある建物が見えてきました。水の音が聞こえ、いつもと様子が違います。
「止めてください」
エレーヌは船長にお願いしました。
地下牢の明かり取りの窓の方へ水が流れているではありませんか。エレーヌは船を下り、明かり取りの窓へ走り寄りました。雨で増水していたのは大河だけではありません。城内に作られた水路も増水していたのです。そこへ大河から水が流れ込み、水路が決壊。地下牢の建物の方へ勝手に別の水の道ができています。
そして、なんと、地下牢の明かり取りの窓ガラスは割れ、水がざあざあと地下牢へ雪崩れ込んでいます。
「お母様!」
エレーヌが地下牢の中を覗くと、水にチェストやラグが浮いているのが見えます。
「母上」
エレーヌを追いかけてきたフォーが割れている窓を開けました。
かすかな月明かりの中、
ぷっかぷっかぷっかぷっか
女王は、ベッドにももんがのようにしがみついて浮いていました。
「エレーヌ、フォー。なんか、いきなり水が」
地下牢は浸水。水位はちょうど明かり取りの窓あたり。窓の高さに木製のベッドが浮いています。女王はパドリングして窓に近寄ってきました。フォーとエレーヌで、女王の腕を掴んで窓から引っ張り出しました。
見張りの兵士達はいったい何をしているのでしょうか。困ったものです。が、幸いです。
「はぁ、助かったわ」
「お母様」
「母上、ご無事で」
すぐさま船に戻ります。が、
「な、な、な。女王陛下?! そんなおっそろしいこと、無理無理無理無理」
船長は乗船拒否どころか、自分が船から下りて一目散にどこかへ逃げました。
「あら、あの人、城から出られるかしら?」
月に照らされる中、船長の後姿を見ながら女王は気の毒そうです。
「お母様、早く逃げましょう」
小さな船は流れに任せて進むもの。水門へは戻れません。船は捨てるしかないのです。
後は、女王とエレーヌとフォーが知っている、城から抜け出すルートです。
エレーヌとフォーが急かすのに、女王は焦っている様子が全くありません。
「じゃあ、ファウストのところへ行く?」
などと抜かすではありませんか。
「お母様?!」「母上」
「んー。私、こんな格好だし、とにかく着替えたいわ」
いくらベッドの上にいたとはいえ、女王は水浸しです。
そこで、フォーが女王に尋ねました。
「母上、どーゆーことか説明してください。話を聞いたときから、変だと思ったんです。ファウスト兄上が母上を幽閉などするはずありません。しかも、幽閉するならば、牢の周りには見張りがいるはず。これだけ派手なことをしでかして、誰も気づかないなんて」
「それはね、、、」
地下牢は拷問などの声が外へ響かないように造られています。しかも、これまでの血塗られた歴史の中で、地下牢のある建物は幽霊が出ると評判。平常時、兵士達は夜の見回りを省略するほど。今回は女王がいるので見張りが必要な訳ですが……。
「私についてる侍女といい感じなの。今ごろデートでもしてるんじゃない?」
「「はあああ?!」」
「だから、私がいなくなったら、侍女とそのカレシがお咎めを受けちゃうの。私が『楽しんできて』って送り出したのに、裏切るわけにいかない」
「え、お母様、そんな理由で?」
「いーのよ。もともと。ファウストが本気で幽閉したわけじゃないんだから」
「「へ?」」
ますますどういうことでしょう。




