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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
央の国

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星の中を歩くエレーヌ

夜を過ごそうと準備を始めると、先ほどの遊牧民が「雨が降るから」とテントに招いてくれました。今は雨季なのだそうです。


「では、乾季はいつですか?」

「10月から4月くらいかな」

「そのときって、小さな池のお水はなくなりますか?」

「ああ」


西の国の旅行記にあった「季節外れで見られない」とは乾季のことだったのです。


『冬に凍るとかじゃなかった』


テントは湖水群の端の草原にありました。水の便がいいのでしょう。小さな子供が2人。そしてお祖父(じい)さん。5人家族でした。

言われたとおり雨が降り出しました。

お茶をいただく間、エレーヌは質問攻めです。


「ご夫婦の遊牧民をご存知ですか?」

「いっぱいいるからなぁ」

「数ヶ月前、こちらに向かうとおっしゃっていたんです」

「う〜ん。いくつぐらい」

「アラフォーです」

「う〜ん」

「立琴の上手な」

「ああ! はいはい。いるいる。テント、ここから見えるよ」


そんなに近くにいると聞いて嬉しくてたまりません。伝えたいことがあるのです。都にいるオザリン妃は幸せに暮らしているのです。


『ぜったいに伝えなきゃ!』


次の質問です。


「バイオリンを弾く人を見かけませんでしたか?」


もちろんサードのことです。


「ああ。あのキレーな兄ちゃん♡ うちの妻もうっとりしてたよ」


間違いありません。一足先に来ていました。メッセージに「お先に」とあった通り。


『くっ。先越された』


恐らく、もう本物のオザリン妃に、南の国の都へ行ったオザリン妃が幸せだと伝わっているでしょう。

それでもエレーヌは、駆け落ちした夫婦のところへ行きました。


日焼けした肌に荒れた手の本物のオザリン妃は立琴を弾いていました。都のオザリン妃が、美しくメイクし、柔らかく素敵な服に身を包んでいたのと対照的です。


「まあ! ようこそおいでくださいました」


湖水群の光のような輝く笑顔です。


『この人も幸せなんだ』


挨拶とフォーの紹介の後、本題です。


「兄のサードから聞いたと思うのですが……」

「はい、なんでしょう」


オザリン妃はきょとんとしています。


「都にいらっしゃるオザリン妃にお会いしました」

「……お元気でしたか?」


オザリン妃は恐る恐るといった不安の表情をエレーヌに向けました。


『あれ? サードお兄様から聞いてない?』

「はい。とても幸せに暮らしていらっしゃいました」


オザリン妃の目が、暗さをなくし、まん丸になりました。本当に知らなかったようです。エレーヌは、都のオザリン妃が王子と恋愛結婚したこと、子供がたくさんいたことを話しました。


「『今、幸せですか?』とお聞きしたら、『はい』と。花のように微笑まれました」

「ああ。ああ。ぁぁ。ぁぁ」


オザリン妃は顔を鬼瓦のようにくちゃくちゃにして泣きました。その素直なありのままの姿に心打たれます。夫も一緒に涙しながら、妻の涙と鼻水を拭いていました。


「兄は何も言わなかったのですね」

「ぅぅぅぅぅぅ」

「サードは『あまり気に病まなくても』と」


言葉を発することできない妻の代わりに夫が答えます。


『それだけ?!』


サードの徹底したクールさに、エレーヌはドン引きです。それとも、エレーヌに伝える役目を残しておいてくれたのでしょうか。いえ、そんな優しさがあるとは思えません。



夜が近づきます。星が1つ2つと空に登場。

寒暖差が激しい土地です。エレーヌは毛布にくるまります。隣には同じように、毛布でお団子みたいになったフォーがいます。


湖水群に訪れた夜は、視界の全てが星空。空に星。水面に星。星星星。

天か地か分からないほどです。自分が星々と一緒に浮いているようです。


「すごぃ」


隣でフォーが息をのみます。

光の粒の集まった天の川が空を渡り、それは水面に光の橋を掛けるのです。

時間と共に天が動き、地平線から星が生まれます。反対側の空で、地平線に星が隠れます。星空の中に浮かびながら、それを眺めます。


風の音は微か。自分の心の中でメロディが生まれ、風に溶けていきます。そのメロディは、西の国の現寵姫達がハモっていた曲。海賊を船室に閉じ込めるときにジジと口ずさんだ曲です。


「ふふ」


エレーヌは自然に笑っていました。気づくとハミングしていました。

小さな池と池の間にあるわずかな地面を歩きます。まるで星の中を進んでいるようです。どこまでも続く海。星々の海。


旅の4つの国の王達を思い出しました。

王妃に殺されかけても、それを受け入れていた北の国の王。背景には貴族の権力抗争。

愛する女性と子供を追放した西の国の王。女性同士のサバイバル。ハレムを維持する費用問題。兄弟の殺し合い。

統治するために多くの民族、地域から妻を迎える南の国の王。

政治とは関わらず、皆の尊敬を集める東の島国の王。


様々な問題が、央の国では解決されている気がします。父親が不明であることが許され、婚姻によって貴族が力を持つことのない配慮がされています。女系継承のため、ハレムのような場所は不要。民族、地域間は今のところ問題なし。血統が女王の手中であるのも、女性だからこそなせる技。


『女系っていーのかも』


エレーヌは女王の言葉を思い出しました。ーーー貴方が産めば貴方の子ーーー


「星宿る海」は、中国の「星宿海」と呼ばれる場所がモデルです。

 昔、何かで映像を観たのです。2018年、カクヨムに星宿海に行くSF「言い出しかねて」を投稿しました。自分の変わらなさに引いております。

 星宿海の近くにはオリン湖・ザリン湖があり、オザリン妃の名前に使いました。

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