旅は恋愛より星宿る海
さあ地図です。
部屋へ行き、西の国の現寵姫からの地図を広げます。羊飼いがいる場所が薄い緑色で示されています。
今までの情報を整理すると、、、
・ご老人の曽祖父の話「羊飼いが道を教えてくれた」
→羊飼いがいる場所
・友達からの手紙にあった、ご老人の曽祖父の話「とても遠く、歩いて歩いて歩いた。辿り着くまでに餓死するかと思った。静かな水面にときどき風でさざなみができた」
→とても遠い
→静かな水面
・北の国には星宿る海の話はない
→北の国にはなさそう
・東の島国に羊飼いはいない
→東の島国に星宿る海はない
・西の国にあった旅行記に「現地の人々が『自分の運命を知ることができる』と話すところを探したが、季節外れだったせいか、見ることができなかった」
→季節によっては見られない
・同じく旅行記「北の国へ行ったとき寒かった、それと同じくらい寒い思いをしたのに、空振りだった」
→北の国ではない
→極寒の地
→極寒の地は西の国にはない
→極寒の地は南の国には少ない
・南の国の遊牧民の間で「星が散らばってるとこに筏を浮かべてずーっと行くと天の川に繋がっている」と言われている
→南の国へ来る遊牧民が点々と移動しながら住む場所かのしれない
まず、ご老人の言う「羊飼い」は「遊牧民」だろうとエレーヌは思いました。最も大事なことは、星宿る海は、海ではないということです。遊牧民は草原や山岳地帯に住んでいます。「静かな水面」なのは、海ではないから。「風でさざなみができた」のなら、川でもない。
『星宿る海は、海じゃない。山の中の池か湖』
央の国と南の国との間には険しい山々があります。そこには遊牧民が住んでいます。駆け落ちした夫婦と出会った辺りです。
西の国の現寵姫の地図によれば、央の国と北の国との間にも羊飼いがいます。けれど、御者は、北の国には星宿る海の話はなかったと言いました。そして、南の国には、星が散らばる海を筏で行くと天の川に繋がるという言い伝え。
『央の国と南の国の間の山の中』
だから羊飼い=遊牧民に道を聞いたのです。移動しながら暮らしているので、彼らは広い範囲の地理に通じています。国境など気にせず移動します。
『なんで船じゃなくて筏なんだろ』
普通、天の川にこぎ出すならば船です。
『なんで季節外れだと見れないんだろ』
その周辺には春夏秋冬があります。とても高い場所であれば、冬は極寒。
『湖が凍っていて、見れなかった?』
星宿る海の場所が絞られてきました。
「ジジ、ね、ね。星宿る海って、央の国と南の国の間かもしんない」
エレーヌは嬉しくなって、部屋の入り口付近で気配を消していたジジに言いました。
「では、サード様にお会いできますね」
とサードファンのジジはにっこりします。
「へ?」
「サード様が、お世話になった遊牧民のご夫婦にもう一度会いに行くとおっしゃっていました」
「ああっ」
エレーヌはサードからのメッセージをもう一度見てみました。
エレーヌへ
そいつが僕からのバースデープレゼント。旅の予定が大幅に早まったことを知らせておいた。君がいなくなったときは、心臓がつぶれるくらい心配したよ。ところで、僕には様々なことの検討がついた。羊と遊んでた君が聞いてたかどうかは知らないけどね。じゃ、お先に。
大好きなフォーが目の前にいて、バースデープレゼントという言葉ばかりに囚われていました。「僕には様々なことの検討がついた」「お先に」とあるではありませんか。
サードは、遊牧民の夫婦から何かを聞いて、既に星宿る海について分かっていたのです。そして、その場所へ向かったのでしょう。
サードが聞いた話は、御者が南の国の女の子から仕入れた話と同じかもしれません。
『だったら、サードお兄様は教えてくれるはず……。ううん。教えてくれない。だって、フォーに旅が早まってることを連絡してくれてたから。サードお兄様が教えてくれるとすれば、央の国に帰った後』
エレーヌの頭の中に、人を小バカにしたように舌を出しているサードの顔が浮かびました。
『そーゆーとこあるよね。昔っから』
今までされた、カードゲームでの意地悪、しりとりの末尾を全て同じにされたこと、ココアパウダーのついた袖口をエレーヌに見せびらかしたことなどなどを思い出します。
「一人であの場所で旅をなさるなど、さすがサード様です」
ジジは、両手を組み合わせて乙女のようにうっとりしています。
「だよね。寒いし不便なとこだから、いっぱい荷物いるもんね」
ソロキャンプをするサードを2人で想像しました。似合いすぎです。
「女性に囲われているサード様も素敵ですが、1人のサード様もなんとも言えない趣きがあります。星空の下でバイオリンを弾いていらっしゃるのでしょうね」
「夜は獣に狙われるからしないよ」
「エレーヌ様、妄想に水を差さないでください」




