誰でもいーんじゃね?
①女王は家系図を改ざんできる
②エレーヌは伯爵夫人似
③伯爵夫人は女王と同期
④竹筒でときどき手紙が届く
主に①②より、フォーは「女王が伯爵夫人からエレーヌを養女として迎えた」と仮説を立てました。実行したのは当時の女王である先代女王。そう考え始めたのは5年ほど前。
「5年も?!」
「エレーヌと血が繋がってるなんて、思いたくなくなった」
「フォー。」
告白に甘さはなく、むしろ搾り出すような苦しさに満ちた響きでした。
アルバートの存在を知って、養女説が取り替え説に変わりました。そして。
「東の島国でほぼほぼセカンド兄上のアルバートに会って、絶対って思った。そしたら、エレーヌが1人で伯爵夫人のいる部屋へ入って行った」
そこまで聞いて、エレーヌはやっと、フォーに女王からの手紙と伯爵夫人が語ったことを話しました。
「じゃあ、城へは帰らないんだろ?」
「え」
「帰らないで」
「……」
フォーの視線がエレーヌの唇に落ちます。そっとキスが降ってきました。
唇の柔らかさは、エレーヌの心を縛ります。愛や恋がこの世の全ての源であるならば嬉しい束縛です。
「なぁ、東の島国の外交官の手記あったじゃん」
「あったね」
「古い方。紙が破れそうな」
「うん」
「あのときから始まったのかも。洪水の生贄に一人娘を捧げて、後継がいなくなった。どこからか連れられてきた赤ん坊に皆がひれ伏したのは、その子が後継だから」
「そのタイミングで、玉座の後ろの家系図、取り外されたみたいだもんね」
「15歳なら、その子が産んだってことは?」
「洪水を鎮めるための神様に捧げるってことは、、、」
「そっか」
神に捧げるのは生娘でなければなりません。
エレーヌは、神様のくせにそんなとこに価値見出すなよ、と思ってしまいます。
「そのときから、たぶん、ときどきは女王の娘じゃない後継がいる」
「うん。手記を読んだとき、私もそう思った」
「もうさ、家系図が取り外されたときに女王の血統なんてなくなってる。その後もどこかで。だからエレーヌ、女王になんてならなくていいんだって」
エレーヌがそのときに思い出したのは、オザリン妃でした。
都の城で暮らしているオザリン妃は偽物です。偽物であっても、オザリン妃が都へ行ったことにより、本物のオザリン妃の故郷の人々は助かりました。
「きっとね、血統なんて理由だけ。誰でもいいと思う」
ここまで話しました。それでも、老婆に関しては何も出てきていません。カフスボタンの持ち主がフォーなら、老婆の話をするでしょう。
『カフスボタンの持ち主は、ラインハルト? だったら目的は何?』
ラインハルトの家は爵位のトップである公爵。広い領地を治め、繁栄しています。これ以上望むことはないように思えます。キスの後の見つめ合う間、エレーヌの頭の中はそんなことでいっぱいでした。
「フォー。旅の目的は、星宿る海を見つけることだよ」
見失ってはいけません。エレーヌは星宿る海で風が奏でる音楽を聴き、自分の運命を知りたいのです。2人の母親に導かれた運命は過去。ここからは自分が決めるのです。
「なかったんじゃん。北の国、西の国、南の国、東の島国、探したんだろ?」
「探してないとこ、ある。央の国」
「央の国?」
「うん」
「あったら、とっくに観光名所んなってるって。星宿る海の話は、央の国の人だったら誰でも知ってる」
「央の国って広いじゃん。旅してて実感。どの国よりも広い」
「実際に面積1番広いから。人が住んでる部分は西の国の方が広いけど」
「ね」
「ん?」
「だから、央の国にあると思う」
「諦めてないわけ?」
「うん」
「マジか」
「フォーは先に帰って」
「つき合う」
「学業はいーの?」
社会的に女性に学業は求められていません。一応、エレーヌは、刺繍や音楽以外は大丈夫ですし。
「大丈夫。東の島国で東の都まで行かなかった分、短縮できてっから」
「だね」
「エレーヌ、一緒にいたい」
甘い言葉と共に、再びフォーの唇が近づいてきます。嬉しさに、エレーヌはフォーの首に飛びつきました。
ぐるん ドタ ドン
絶妙に保たれていたハンモックは見事にひっくり返り、二人で床に落ちてしまいました。
「はははは」
「あはは」
ちゅ
最後に笑いながらキスをして立ち上がり、部屋を出ました。
風が穏やかな夕暮れどき、甲板で御者に呼び止められました。
「ヌーちゃん」
昼間、フォーとハンモックで戯れていたばかり。エレーヌは注意喚起されると身構えました。
「なーに?」
「星宿る海の話」
「なになになになに」
「じゃないかもだけど」
「違うの? そーなの? どっち」
「南の国の女の子にさ、星宿る海の話、したんだわ」
「うん」
「星宿る海じゃないけど、星の話ならあるっつってた」
「どんな?」
「星が散らばってる海に筏を浮かべてずーっと行くと天の川に繋がってるって」
「ロマンチック」
「遊牧民らの言い伝えだってさ」
「遊牧民」
『遊牧民に海の言い伝え?』
「南の国って、遊牧民が山から下りてきてチーズ売りに来るってさ。服買って行ったり。ほら、央の国の街より近いじゃん。央の国の方は山多いしさ」
「その話、どーしてもっと早く教えてくれなかったの? めっちゃ星宿る海のことっぽい」
「話す間もなく海賊に拐われたし。戻ってきたら、ずーっと兄貴とべったりで話す隙ねーじゃん」
エレーヌはそれには答えず、星宿る海の手がかりについてお礼を言いました。




