海より深い女の友情②
先代女王は、次も男の子だったら、もう一度、同時に何人もの婿を迎えようとしていました。
『7人の実績は』
『どの者も娘ばかり3人以上の父親です』
伯爵夫人は、コンスタンツェが勇者セカンド父を愛していることを知っていました。生まれる子が勇者の子であることも。
先に伯爵夫人に女の子が生まれました。しかし、伯爵夫人は、周りに男の子が生まれたと伝えました。伯爵夫人にはある覚悟があったのです。
「悩みました。愛する我が子のことですから。それでも、恩義を消し去ることはできませんでした。娘達が生まれたのは、コンスタンツェの助けで夫が爵位を得、私が夫と結婚できたからです。もしもコンスタンツェの子が女の子なら、それは幸せなことです。自分の子の性別は、いずれ機会があるときに『言い間違えた』ことにすればいいだけのこと。けれど、コンスタンツェに男の子が生まれたら、大切な友達が地獄の日々を味わうことになります」
伯爵夫人は、医師、侍女と結託しました。先代女王が出産に立ち会えないよう画策しました。女王の陣痛が始まったときに知らせなかったのです。
生まれたのは、男の子でした。赤ん坊を取り替えました。
ベッドで朦朧としながら、コンスタンツェは「そんなことをしちゃダメ」と伯爵夫人を止めました。
「『絶対に私の娘を幸せにして』と私はコンスタンツェの手を握りました」
コンスタンツェは、貧血で気を失いました。
伯爵夫人は、できるだけ早く姿を消そうと思いました。伯爵夫人が城にいたことは、ごく少数の者しか知りません。伯爵夫人は医師や侍女が止めるのも聞かず、生まれて間もない赤ん坊を連れ、ひっそりと馬車で城を出ました。
告白を聞き、エレーヌは感謝しました。
「母を救ってくださって、ありがとうございます。これまでの女王達が味わった苦しみを想像するたびに、神の存在を否定しました。それほど忌むべき後継作りだと思います。でも、母には伯爵夫人という友達がいて救われたのですね。私は、素晴らしい母を2人も持って、幸せです。本当に」
エレーヌは伯爵夫人をハグしました。エレーヌの腕の中、伯爵夫人は両手で顔を覆い、長い時間泣き続けました。
「私は、コンスタンツェからエレーヌ様への手紙をお見せするつもりはありませんでした。あのころの私はまだ若く、身勝手で浅はかで、自分達が中心でした。愚かにも、愛や恋がこの世の全ての源。央の国のことまで考えが及びませんでした。結婚が許されなかった自分は身分制度の被害者、コンスタンツェは女系継承の被害者だと嘆き悲しんでいました」
「女王の手紙を見せてくださって、ありがとうございます。身分制度や王制の被害者だと、私も思います」
「今は、とんでもないことをしたと思っています」
エレーヌは、その若さゆえの大胆さこそ運命だったのだと思いました。それは母親である女王と伯爵夫人の運命であると同時に、アルバートと自分の運命です。
「息子のアルバートは、夫にも私にも似ていません。なので、夫は不義の子と疑っていたようでした」
伯爵夫人は、共に生活する中でときおりそれを感じました。そんなとき、我が子を手離した自分への罰だと思ってきたのだと語ります。
伯爵は、エレーヌの姿を見た瞬間、自分達の娘だと分かりました。17年間に及ぶ疑念が晴れ、「女は恐ろしい」と呟いたそうです。
「ルルルル♪ んんんー♪」
潮風にエレーヌのハミングが消えていきます。エレーヌには考えなければならないことがたくさんできてしまいました。ざっくり言えば、今後の身の振り方。
『大きすぎ』
16歳にとって、なかなかな問題です。ということで、考えるのは後回しです。
フォーにはまだ、何も伝えていません。フォーは、アルバートがセカンドに似ていることも、エレーヌが伯爵夫人に似ていることも話題にしません。もっぱら、2人の王に会う準備をしています。
エレーヌは、伯爵夫人の「愚かにも、愛や恋がこの世の全ての源」という言葉に思いを馳せました。愛だの恋だのは愚かなのでしょうか。確かに、央の国が粛々と存続することの方が大義です。
「あふぅ」
エレーヌはあくびをしました。なんだか少し疲れたようです。旅の疲れ、好きな人と一緒にいるちょっとした緊張とどきどき、謎が解明された脱力感。いろいなことが、どうでもよくなってきます。女王をするとかしないとか、後継を産むとかどうとか、フォーへの気持ちまで。
『寝よ』
エレーヌはパジャマに着替えました。
「エレーヌ様? まだ8時ですよ」
「お風呂は」
「キャンセル」
「海賊の影響ですか」
「やめて」




