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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
東の島国

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海より深い女の友情①

目の前の伯爵夫人は、エレーヌと同じ形の目を見開きました。


「……」


言葉を失う伯爵夫人に、エレーヌは切り込みました。


「17年前、御子息をどちらで出産されましたか?」

「……」


伯爵夫人は、紅茶の表面を黙って眺めています。


「都でしょうか?」


ティーカップの中、紅茶の表面に小さな波が立ち始めました。伯爵夫人の手が震えているのです。


「なぜ、そうお思いに。どなたかから聞かれたのですか?」


エレーヌは、なにも伯爵夫人を締め上げるつもりなどありません。ただ、ここまで来たら、真実を知りたいと思いました。


「城の裏の門から続く、東への一本道があります。私が生まれた日、その道を走っていた馬車があったようです」


そこまで言うと、伯爵夫人はようやく、観念したかのように語り始めました。


「そうですね。あのときの御者も、その後、お世話になっていた家へ様々なものを届けた使用人も、城にいますものね」


エレーヌの頭の中には、城に長年勤務するメンバーが思い浮かびました。なんと口の固い。女王への忠誠心がなせる技でしょう。


「いえ、私が知ったのは、農民からです」

「そうですか。……。託されているものがあります。それをどうするかは、私に(ゆだ)ねられています。……。そこまでご存じならば、エレーヌ様にお渡しするしかありません」


伯爵夫人は、一旦部屋を出て、たくさんの手紙を持って再び現れました。開封された封筒にはどれも、央の国の王家のスタンプがありました。

女王からの手紙でした。


夫人は、その中の1つの封筒の中から丁寧に折られた1枚の便箋をエレーヌに差し出しました。「愛するエレーヌへ」と女王の文字です。


「私宛ですか?!」

「はい。お読みください」


星宿る海は見つかりましたか? 見つかっても見つからなくても、旅は有意義でしょう。貴方に伝えなければならないことがあります。貴方の本当の母親は、伯爵夫人です。なので、央の国の王家の者として帰国するかどうかは、貴方の意志に任せます。


『え』


真実を伝える手紙のシンプルさに、エレーヌは面食らいました。


『もっと、こう、あるじゃん。後継の重責うんぬんとか17年間も偽ったことに対するあれこれとか。情緒的な』


それでも、非常に女王らしいと思いました。この人だからこそ、14歳のエレーヌに婿(むこ)を迎えず、16歳のエレーヌの外遊をあっさり許したのです。


「伯爵夫人が私のお母様なのですか?」


エレーヌは、便箋から顔を上げ、自分とよく似た顔を見つめました。


「はい。エレーヌ様のことを考えなかった日は一日たりともありません。元気に成長され、女王に感謝しております」


伯爵夫人は、固まっていた肩から力を抜きました。彼女にとって、どれほど大きく重い秘密だったことでしょう。


『元気に成長』


こういったときの形容は「美しく」「立派に」が一般的です。エレーヌは、自分の成長が書かれているであろう手紙の束を一瞬睨みました。


「エレーヌ様が知りたがったら、全てを話していいと手紙にありました。いきさつは、「お聞かせください!」


エレーヌは食い気味にお願いしました。伯爵夫人に申し訳ないと思ってしまいます。本来ならば、説明は女王の役目なのですから。


「コンスタンツェと私は王立学園の同級生で、友達でした。いつも一緒にいるような」


コンスタンツェは女王の名前です。2人は親友でした。

伯爵夫人は、侯爵家の娘、父親は爵位ある男性に嫁がせたいと考えていました。しかし、娘は名門貴族であっても三男と恋に落ちたのです。爵位を継ぐのは長子だけ。父親である侯爵は2人を引き離そうとしました。権力や人脈を使って、娘の恋人を戦地へ追い払いました。しかし、彼は任務をこなし、いつの間にか陸軍から海軍に移り、東の島国との貿易交渉をして帰国。

女王は友達のために一肌脱ぎました。当時は先代女王の時代です。先代女王に進言しました。東の島国との関係を築いた彼に、名誉としての爵位を与えてはどうか、と。

伯爵が爆誕。2人の結婚が許されました。


央の国において、爵位ある貴族かそうでないかは、生活が全く違ってきます。侯爵は娘を思っていたからこそ、結婚相手を吟味していたのです。


結婚後、伯爵は東の島国と央の国を行ったり来たりしていました。船旅は長いものです。伯爵夫人は友達のいる都で過ごすこともありました。約18年前、偶然にも、伯爵夫人が娘達と都にいたとき、お腹に新しい命があると分かりました。非常に危うい状態でした。まだ女王でなかったコンスタンツェは、友達のために、王家専属の名医を紹介しました。問題だったのは、コンスタンツェ自身も妊娠していたことです。名医は1人。なので、伯爵夫人は都で過ごしました。臨月になると、伯爵夫人は王城へ、伯爵の娘達は実家であるラインハルトの城へ移りました。伯爵は、東の島国へ出張中でした。


「都の王城で出産なさったのですね」

「本当に偶然だったのです。偶然に偶然が重なりました」


1つ目の偶然は、2人が同じころ妊娠したこと。2つ目の偶然は、伯爵夫人が都で切迫流産になったこと。3つ目の偶然は、伯爵夫人が先代女王と側近の話を聞いてしまったこと。


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