不可解な東の島国統治
もしも自分が取り替えられた赤ん坊なら、アルバートが王子、エレーヌは伯爵家の娘。これから実の母親に会うことになります。
「実の母親」という存在は、エレーヌにはピンときません。ずっと女王を母親だと思っていましたし、愛情も環境も十分過ぎるほどでした。何より、まだ自分が取り替えられた赤ん坊だと決まっていません。十中八九そうでしょうが。
恐らく、アルバートはセカンドの父親と女王である母親の息子です。あまりにセカンド父色が強く、女王の遺伝子を探すのは難しいのですが。銅像が立つほどの勇者の血を受け継いでいるとしたら、ラインハルトが話していた幼少期の無尽蔵な体力や身体能力に頷けます。
ラインハルトの叔父、伯爵の屋敷に到着しました。周りにある東の島国の家々とは全く違い、央の国の様式を取り入れた造りです。
玄関で、エレーヌ達が伯爵と挨拶を交わす間にも、その隣で伯爵夫人はぼろぼろと涙を零します。
「すみません。央の国へ嫁いだ娘を思い出してしまいました」
言い終わらないうちに、伯爵夫人はその場に立っていられなくなりました。
「母上」
アルバートは母親を気遣い、イスに座らせます。
伯爵夫人は、その場の誰もが驚くほど、エレーヌにそっくりでした。本当のことを聞くまでもありません。エレーヌは確信しました。取り替えられ赤ん坊はアルバートと自分です。アルバートが女王とセカンド父との息子、エレーヌは伯爵家の娘。
伯爵は言いました。
「来てくださったところ、大変申し訳ありません。妻の気分が優れないようなので、ほんの少しだけ、席を外させてください。すぐに戻ります」
夫婦で別室へ行き、パタリとドアを閉じました。
そのただならぬ様子から、エレーヌは、伯爵の方はエレーヌが実の娘だと知らなかったことを悟りました。
もてなしてくれたのは、アルバートです。母親を心配しつつも、よく笑い、気さくで、旅の話などを楽しみました。金銀銅がどこでどれだけ採掘され、どういった経路で流通しているかも、しっかり話題になりました。
「純度が高いインゴットの精製をしています」
フォーはアルバートに、東の島国の情報に前のめりです。
「それは1gいくらいなのですか?」
「央の国に比べると、そうですね、70%くらいの値段です。それが、伯爵家を支えていると言っても過言ではありません」
エレーヌも会話に加わります。
「そうなのですね。全く文化が違う国ですし。物の売買に関するシステムや宗教など、様々なご苦労があったでしょう」
フォーは、トップ争いのすえ実権を握っている者についても尋ねました。
「なぜ、王が2人なのですか? 領土が2つに分かれているわけではないのですよね?」
「もともと、神の子孫がいて」
「「神の子孫?!」」
「そう言われている、何千年も前からの、まあ、王家のようなものです。そこに仕えて戦が起こればそれを収めるといった、他の国でいえば貴族に当たる者達がトップを争ったのです。他の国と違うところは、神の子孫がよほどのときしか政治に介入しないことです」
不可解すぎて、エレーヌには検討がつきませんでした。
ちょうどそのとき、伯爵が現れました。
「大変申し訳ありませんでした。妻は気分が優れず今日のところはご一緒できません」
「父上、今、神の子孫と実権を握る実力者について説明してたんです」
フォーは話を続けました。
「我々は隣国の王家の者としてご挨拶に伺いたいのですが、どちらにどうお会いすべきなのでしょう」
「順序を間違えてはなりません。最初に神の子孫です。その後、実力者です。貴方方は央の国王家。対等であるのは神の子孫の方々です」
伯爵は恭しく述べました。
アルバートは道案内として同行してくれるそうです。
エレーヌ達は宿を探す予定でしたが、伯爵邸でお世話になることになりました。東の島国は文化が違うので、宿で過ごすのは大変とのこと。
「エレーヌ様」
談話した部屋を出るとき、エレーヌを伯爵が呼び止めます。
「はい」
「部屋で船旅の疲れを癒した後で構いません。どうか、妻に会ってやってください」
「今、伺ってもよろしいですか?」
「もちろんです」
伯爵に案内され、エレーヌは伯爵夫人のもとへ行きました。
伯爵は部屋の前まで。
「エレーヌ様がいらしてくださったよ」
それだけ告げると去って行きました。
ドアが開き、自分に似ている女性に対面します。伯爵夫人の目は充血していました。止まっていた涙が再び湧いています。
「エレーヌ様。お会いできて光栄です。どうしたらいいのでしょう。何を何からどう」
エレーヌは丸いテーブルを囲むイスを勧められました。伯爵夫人は使用人に紅茶とケーキの用意を申し付けます。それらが運ばれてくる間、まるで中身のない会話が続きました。「ご気分はいかがですか」「先ほどはご無礼を申し訳ありません」「とんでもありません」「エレーヌ様、お健やかでなによりです」というように。
やっと紅茶とケーキがテーブルの上に並び、エレーヌは開始のゴングともなる言葉を発しました。
「私は伯爵夫人にとてもよく似ています。まるで親子のように」




