西の国からの魔の手紙
異国情緒ある港町には、舶来品の店が軒を連ねていました。馬車の車窓から見る街並みは、美しく整っています。舗装された道を軽やかに進み、馬車は港へ到着しました。
塗装されていない東の島国の木の船。そこから船員達が積荷を下ろしています。体の3倍ほど。それを軽々と運んでいます。恐らく中身は軽いものでしょう。そう思っていたら、受け取った央の国の人は、2人がかりで重そうに運んでいます。
『東の島国の人って、マジですごいのかも』
エレーヌは得体の知れない不気味さを感じてしまいました。
カモメの鳴き声、人々の喧騒。活気ある港を縫うように歩きます。エレーヌ達が乗る船は、想像以上に小さいものでした。先に捕えられた海賊船よりは大きいものの、どう見ても、多くの客室があるとは思えません。想像通り、男性陣は3人同室。しかもベッドは2つ。もう1人はハンモックを使うようです。
エレーヌとジジは、元々防犯のために同室です。
『狭っ』
2段ベッドと通路しかない部屋。
3人部屋は普通のベッド2つがドアを開けた両側の壁にあります。ベッドとは名ばかり。マットのない台です。1つは折りたたみ式で、未使用時は壁に同化します。
「これ、牢と同じタイプじゃん」
と護衛。どうやら入ったことがあるようです。
出発までにはまだ時間がありました。甲板で風を感じているエレーヌの目に、王家別荘の使用人の制服が飛び込んできました。馬で港への道を駆けています。どう考えても、エレーヌかフォーへの用でしょう。使用人は港の入り口で馬を下り、エレーヌ達が乗っている船へ向かってきます。エレーヌは急いで、船の昇降口へ行きました。
「エレーヌ様、手紙を預かっております。都の城に届けられた後、こちらの別荘へ配送されました」
手紙を1通渡されました。よほどの緊急か、よほどの人物からでしょう。
「ひっ」
喉元を過ぎて、すっかり忘れていたものが届いていたのです。西の国の現寵姫からの手紙です。手違いで、嫌味たっぷりの本音を書いたものが、建前の手紙と一緒に送られてしまいました。
恋に浮かれた心は一気に氷点下。春から極寒へ突き落とされました。
拝啓 目の上のたんこぶがいなくなったハレムで、いかがお過ごしですか。
国王に色仕掛けで迫り、最も有力な後継者候補とその母親を一掃したお手並みはお見事です。手段を選ばず、味方をも欺き、人を貶める。トップを目指す激しい上昇志向に敬服しました。今後のハレムの安全を願っております。
敬具
あの手紙の返事です。
拝啓 海の上、星々が凍える空に、永久の繁栄を願います。
貴方が私の良き理解者であるように、私も貴方の理解者ではないでしょうか。と言っても、子供のように心の中を顔に映してしまうので、貴方の理解者は大勢いらっしゃることでしょう。
星宿る海について、同じ著者の別の書を読みました。
東の島国の旅行記がありました。分かったことは、東の島国では羊を飼っていないということです。羊毛を服にする文化がないのです。星宿る海は東の島国にはありません。羊飼いがいると思われる場所を地図に示してみましたので同封します。
そして、西の国よりも更に西の諸国にあるという可能性について考えてみました。著者は、西の国よりも更に西へは旅をしていません。正確には、1ヶ月滞在しているのですが、捕虜になってのことです。
ご参考になれば幸いです。
私は生きるために狭いハレムを選びました。貴方の目で見る、広い世界の景色をお教えください。
好奇心が身を滅ぼすことのないよう、祈っております。
敬具
絶妙な嫌味と情報のコラボ。エレーヌは感心しつつ、同封された地図を広げました。手紙の8枚分の大きさです。地図をトレースしたのか、少し薄い紙が使われています。なかなか細かな地図でした。羊飼いがいる場所は緑色でうっすらと塗られていました。央の国の領域内にも緑色があります。いったいどうやって調べたのだろうと感心しました。
「エレーヌ様、それは?」
甲板で地図を見ていると、ジジに尋ねられました。
「ほら、西の国のクモの人」
「ああ」
正確には、タランチュラの死骸を廊下にばら撒いた人です。更に上を行く、生きたタランチュラを浴場にばら撒いた強者がいるのですが、こちらは恐らく手下にやらせています。
エレーヌは愚痴をこぼしました。
「なんだかなー。類は友を呼ぶって言葉、あるじゃない。自分が呼び寄せたって思いたくない。どっちかってゆーと、第1王子と第3王子のお母様の方と親しくなりたかったなー。国王にめっちゃ愛されてて、皆んなから慕われて」
すると、ジジはエレーヌに苦言を呈しました。
「エレーヌ様、あの方は不合格とジャッジされたのです。上辺の味方を呼び寄せていただけです。もう少し、俯瞰して物事をご覧ください」




