禁忌の欲望アウトロー
東の島国は独特でした。
武力と実権を持ってる家と血統を守ってる家が共存しているとは理解に苦しみます。通常、武力と実権を持つ者が前の王朝を倒し、そこから血統が始まります。北の国も西の国も南の国もそのシステムです。
央の国は違います。央の国の場合、小さな集落が水滴が繋がるように1つにまとまり、大きくなっていきました。
『王位継承もいろいろ、統治もいろいろ』
北の国は法治国家。西の国は王の絶対的な権力と武力。南の国は婚姻による民俗の統治。それぞれ地形や気候と深く関係しています。
北の国が法に重きを置くのは、厳しい気候のせいです。農作物に限りがあり、飢えは死に直結します。西の国が武力を誇示するのは交通の要所で常に他国から狙われているから。南の国はとても豊かです。ですが、ありあまる水がときに災害を起こします。その際、他民族同士が協力し合うよう、古くから婚姻によって友好関係が築かれていました。
東の島国は、地下資源が豊富です。このことにより、どのような国となっているのでしょう。
陸続きの北の国、西の国、南の国の情報はよく入ってきます。けれど、東の島国は海を隔てているせいか、食べ物が美味しいということしか知りません。海賊情報では、とても強いとのこと。
「ここは海軍の本拠地の港。人や物資が行き来する港はもう少し北なんだ」
というわけで、エレーヌ達は北へ向かいました。
人目があるからなのか、フォーの距離はあの夜とは違います。ただ、気を抜くと戯れあってしまい、御者に気づかれてしまいました。2人で野ウサギを見てはしゃいでいたとき、フォーが自分の鼻をエレーヌの鼻にこすりつけたのです。
小さなころとは違います。自分の気持ちに気づいてしまったエレーヌにとっては、心臓が体から飛び出るほどのことでした。
「フォー」
「、、、ごめん。」
フォーが反省することすら、意識していることの現れです。
エレーヌが一人、馬の鼻を撫でているときでした。御者がぽつり。
「なあ。ヌーちゃんら、おかしくね?」
「え」
何の脈絡もなく唐突でしたが、それがフォーと自分のことだと、エレーヌにはすぐに分かりました。
「伊達にプレイボーイやってるわけじゃねーんだわ。そーゆー勘は働く」
何も言い返せませんでした。自分に疾しさがなければ「プレイボーイじゃなくて女癖が悪いだけでしょ」くらい言い返していたでしょう。
『気をつけよ』
反省しました。
エレーヌは考えます。もしも、赤ん坊が取り替えられていたら。もしも、その赤ん坊が自分だったら。エレーヌとフォーは血が繋がっていないことになります。フォーへの気持ちは禁忌ではないのです。だから、例えば、フォーの子を産めるのです。
と、そこまで考えたとき、エレーヌの顔は火を噴きました。
『ちょっと、何考えちゃってんの。子。そんな。そんなことまで。求めちゃってるってこと?!』
どきどきどきどくどくどくばこんばこんばこん
心臓の音が激しくなってしまいました。つい、あの、指に触れられた夜を思い出し、女友達とのR18閨房の話、小説の中にあった刺激的な場面が頭の中で入り乱れます。
『想像が肌色まみれ』
なんということでしょう。愛は神聖なものであるはずです。はず。はず。はず。エレーヌは自分が「人身売買は禁止のはずです」と言い、「盗みは禁止のはずです、人殺しは禁止のはずです、アヘンは禁止のはずです」と海賊から返されたことを思い出しました。兄妹の愛は親愛のはず。兄妹での恋愛はありえないはず。兄妹での交わりは。
エレーヌは、自分がおぞましい異常者で、社会から零れた人間なのだと苛まれました。
真実がどうであれ、エレーヌはフォーが実の兄だと承知で好きになりました。何度もあの夜を思い返しました。眩しいほど光が溢れるところにいても、ときにフォーの指を求めたくなってしまいます。触れて欲しくてたまりません。エレーヌの世界では、フォーは人身売買、盗み、人殺し、アヘンに匹敵する存在なのです。
『一緒。あの海賊達と』
女王の娘という立場であっても、中身は社会の規格外。
「エレーヌ」
悩んでも、フォーに名を呼ばれるだけで、心が春風がそよぐように騒ぎます。
「なぁに?」
「考えごと?」
「ううん。別に」
「ファウスト兄上が、旅から帰ったとき、そんな顔してたし」
「ファウストお兄様が?」
「いろいろあったんだって?」
「うん。でも」
「でも?」
「誰のものにもなってないよ」
「……」
「……」
「オレ、変なこと言ったよな」
「そんなことない。嬉しかった」
「エレーヌが、、、分かってる」
「え?」
「サード兄上とセカンド兄上はエレーヌのこと猿だと思ってるしさ、ファウスト兄上がエレーヌに男を寄せ付けるわけがない」
「ファウストお兄様は、愛情深い人だから」
「どこまでも青く透き通った深さ。オレは違う」
「……」
「たぶん、誰も覗けないくらいどろどろに濁ってる」
エレーヌは不覚にも、息ができず目も開けられない深淵に引きずり込まれることを望んでしまいました。




