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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
海賊船

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商品には手を出さない

甲板では、酒盛りが続いています。暗闇にいたエレーヌにとっては長い時間でしたが、まだ星も出ていません。実は時間はそれほど経っていないようです。

エレーヌは物陰から観察しました。


『少なくない?』


違和感です。香水のお店にいたのは10人ほどでした。その人も含め、品定めされたときは15人ほど。大きな船です。離岸するときは、たとえ引き潮に乗っただけであっても船を操舵している人達がいたはずです。エレーヌの推測では海賊は20人以上。けれど、沖でのんびり走航をしているにもかかわらず、甲板で酔っ払っているのは10人ほど。ところどころで寝っ転がっている人を入れてもです。

少し不思議に思いましたが、部屋で休んでいるのかもしれないと思い直しました。


お酒の相手をさせられている女性は、肩を抱かれています。


『かわいそう。胸が大きかっただけなのに』


風に乗ってセクハラ会話が聞こえてきます。


「なーなーねーちゃん。コルセットってどーなってんの?」

「娼館の女はすぐできるように、コルセットなんてつけてねーんだわ」

「見せて」

「や、やめてください」

「こーら、お前ら、商品には手え出さない」

「「「くっ」」」

「ま、さ、売っちまってから、遊びに行きゃいーんでね?」

「おお。安くしてくれっかな」

「スカートの下くらい見てもいくね?」

「や、やめてください」

「おー、案外細い脚してんだな」


聞くに耐えません。

エレーヌは密かに甲板の上を動きたいと思いました。そして、中央のマストの天辺を睨みます。見張り台です。遠くの海だけでなく、甲板もよく見えるのです。しかし、時がエレーヌに味方してくれています。日が暮れ、薄暗くて周りがよく見えません。もちろん、酒盛りをしている場所は明るいのですが。


「おいおい、あんま女構うと、船の女神様が怒るぞ」


誰かが言いました。

本で読んだことがあります。船の神様は女性。美しい女性に嫉妬するのだとか。この手の話のとき、エレーヌはいつも思ってしまいます。


『神様ってめっちゃ心狭い』


そして怪談が始まりました。


「ひた。ひた。ひたってな、濡れたような足音がするのに、振り向くと誰もいねぇ。でもな、足跡だけはある。ひた、ひたって音がするたびに、足跡だけが増えるんだってよ」

「「「やめろってー。怖ぇ」」」

「おい、次の話。行け行け」

「人魚が泳いでたんだよ。そりゃあ綺麗な娘でさ、服なんて着てねーわけ。やっぱ気になるじゃん。船寄せるじゃん。見たいじゃん。座礁」

「それって怪談か?」

「怖くねーぞ」

「次、誰の番だ」

「オレ。船でさ、みんなで飲んでたんだわ。そしたら、トイレ行ったやつが帰ってこねーの」

「なんだよ。それ、今じゃん」

「トイレ行ったやつ、いねーな」


バシャン


離れた場所で、何かが海に落ちたような音がしました。


「ん? 今」

「音」

「魚が跳ねたんだろ」

「で、トイレ行ったヤツらは?」

「寝たんだろ。か、どっかで賭博でもやってる」

「そんな話すっから、トイレ行きたくなったじゃねーか。行ってくる」

「おう。帰ってこいよ」

「「「はは」」」


エレーヌはメインのマストにくくりつけてある樽の影にいます。樽から少し離れたところには海賊達の背中。酒の相手をさせられている女性はその向こう側です。

ふと樽の蓋を開けてみました。樽の中は水でいっぱいです。

いいことを思いつきました。


エレーヌは、ポケットから乾燥した豚の腸を取り出しました。遊牧民のテントへお邪魔したときに貰ったソーセージ用です。荷物の中に入れておいたら、ジジに「汚いゴミ」と捨てられそうになり、こっそりポケットに保管していたのです。

樽は別のマストの下にもありました。その付近はロープが転がり、人がいません。エレーヌはそこで乾燥していた豚の腸を戻し、中を水で満たしました。

再び、メインマストの下へ行きました。物音を立てないよう、満杯の樽の上に長い豚の腸の端の一方を取り付けました。

メインマストには、見張り台へ修理道具などを運ぶための滑車があります。その滑車にかかっているロープに、豚の腸の樽に繋がっていない方の端を繋ぎ、ゆっくり、慎重にロープを動かしました。水の入った豚の腸の一方が筒のようになり、音もなく上へ上へと昇っていきます。うまく行きそうです。エレーヌは、メインマストの下から離れた場所へ移動。滑車なので、離れたところからでも操作できます。


挿絵(By みてみん)


海賊達はセクハラを再開。誰も作業をしていることに気づきません。


「いーねー。カタギの女」

「や、やめてください」

「おいおい、商品だ」

「触るくらい、ばれねーだろ」

「「「おおーっ」」」

「見えねーよな。夜だし」

「うっかり手ぇ伸ばしたとこにナニカがあっただけ」

「「「うえ〜い」」」


ふわっと風が吹き、マストや畳んだままの帆ががたがたミシミシと一斉に音を立てました。


『チャンス!』


エレーヌは一気にロープを引っ張りました。


BOM!

バシャッ


「「「「うわっ」」」」


樽が破裂。セクハラ海賊達は樽の破片を喰らい、水浸しです。


「なんだ」「痛って」「樽が」


運が悪かった者は負傷。顔や腕から血を流しています。女性は大丈夫でした。樽から距離がありましたし、樽の前にいた人が壁になっていましたので。


「誰もいねぇ」

「船の女神が怒ったんじゃないか?」


負傷した男が、血を滴らせたまま、のしのしと歩き回ります。他の海賊達も木片を片付けながら首を傾げます。豚の腸は、樽が破裂したときに途中からどこかへ飛んでいってしまったようです。遥か高い見張り台の下、滑車の先には、豚の腸の途中から先がぶらぶら風に吹かれています。


酒盛りは終了。セクハラも終わりそうです。


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