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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
海賊船

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レディに向かって失礼

とりあえず、エレーヌは少しでもロープを緩めようと頑張りました。他の女性は後ろ手に縛られていますが、エレーヌはぐるぐる巻き。時間がなかったからでしょう。一見他の人よりも解けにくく見えますが、腕を動かせます。


『もうちょっと』


なんとかスカートの中に手を入れられるようになりました。エレーヌは、(もも)の外側に護身用の短剣を忍ばせています。女性のスカートは、スカートの下に取り付けてある特大ポケット部分に手を入れられるようにスリットがあります。ポケットの下の下着の中まで辿り着けば、短剣に手が届くのです。


『くっ』


エレーヌは、スカートの下の下着を少しずつまくり上げました。スカートも一緒に上がってしまうとバレてしまいます。慎重に少しずつ、自由度の少ない手を動かしました。


夕方、お酒の相手をさせられている女性以外は甲板から船底の牢へ移されました。そこは蝋燭(ろうそく)なしでは光が全く届かない場所。地下2階。中には心細さに泣き出す人もいます。そうでなくても、皆、不安で憔悴しているでしょう。


バシャン


波の音がダイレクトに聞こえます。船体の木材を隔てた横は海なのですから。


バシャン


先ほどよりも近くでの音。まるで何かが落ちるような。気のせいか「助けてくれ」という声が聞こえたような。真っ暗闇、恐ろしさゆえの幻聴でしょう。


「きっと助かりますよ」


エレーヌは女性達に勤めて明るく声をかけました。


「……そうかしら。誰か……気づいてくれるかしら」


弱々しい声が返ってきました。エレーヌは皆を元気づけるためにジジのことを言いました。


「絶対に気づいています。一緒にいた友達が、きっと知らせてくれています」


それでもやはり皆は不安のようでした。


「船ってことを知ってるの?」

「たぶん……」


どうでしょう。ジジは建物の中で縛られていました。エレーヌまで不安になってきました。


「広い海のどこにいるかなんて、探せるのかしら」

「暗くて怖い」

「売られるって、娼館? 嫌」


現実をつきつける言葉に、一瞬、静かになりました。若い女性を売る先は、娼館と相場が決まっています。


絶望の暗闇の中、遠くにぽつんと灯りが見えました。ほぼ密閉空間に、あの据えた臭いが漂うと共に、灯りが近づいてきます。海賊の1人です。


「飯」


食事でした。いかにも下っ端な若造です。といってもエレーヌよりは年上でしょう。

牢の前の床にランタンを置き、ガチャガチャと鍵を開け、牢の中に入ってきました。「よっ」とあぐらをかいて座り、骨付き肉を左手に、脇に挟んでいたバケットパンを右手に持ちます。


『ちょっと、そのパン、どこに挟んでたの?!』


汗も汚れも一緒になっている何日も着たきり雀の服で挟んでいました。衛生というワードは海賊の辞書にありません。床に置かなかっただけ感謝すべきかもしれません。


骨付き肉もパンも全員で1本。大きさは大丈夫なのですが、皆後ろ手に縛られています。エレーヌはぐるぐる巻きです。

下っ端がパンを持ち、1人の女性の口の前に出しました。それを食べろということです。心許ないランタンの光の中で、緑色のカビがちらっと見えます。エレーヌの前には骨付き肉が差し出されました。腐りかけたような臭いを放ち、中まで火が通ってなさそうです。


エレーヌはぶち切れました。


『レディに向かって失礼な! ”あーん”は甘美で愛ある行為のはず』


乙女の偏向バリバリです。


しゅしゅしゅっ


緩めておいた、ぐるぐる巻きのロープの中で腕を伸ばし、スカートの中から短剣を取り出すと、自分のロープを切りました。


「うわぁっ」


自分のロープを切るとき、うっかり下っ端の服を切ってしまいました。あぐらをかいていた男は、パンと肉を放り出して大事な場所を押さえます。

さすが王家の鍛治職人。短剣は切れ味抜群。下っ端の服を切ると同時に、肉の生焼け部分とパンのカビた部分も切り落としています。肉とパンは、誰かがスカートで受け止めました。


スボンの前がぱっくりと横一文字に切れ、腿が剥き出しになっている男はビビり散らかしています。エレーヌは調子に乗りました。


「声を出したら殺す」

『きゃー。まるで小説に出てくる女海賊みたいよ、私。言ってみたかったの』


男は未だ大事なところを押さえたまま、首を縦に振ります。今のうちです。エレーヌは女性達のロープを切って、男を縛ってもらいました。仕上げに、エレーヌは男が叫べないよう、口の部分にズボンの布の切れ端を当て、ロープで縛りました。

エレーヌは考えました。牢から逃げたところで周りは海なのです。


「みなさんはここから出ない方がいいと思います。船の上ですから」


それでもエレーヌは、このチャンスを逃したくありません。

まず、邪魔なスカートの裾をロープの切れ端で足に縛りつけました。本当は脱いでしまいたいところですが、一応レディです。


鍵を女性の一人に渡し、自分だけ牢を出ました。そして、床に置かれていたランタンの中の蝋燭を、


ぽき


半分折り、蝋を垂らして床に直接立てました。ランタンに残っている方の蝋燭に火を貰い、エレーヌは足音を忍ばせて歩き始めました。


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