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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
南の国

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解体する青い瞳のメス


星宿る海について、曽祖父から話を聞いた老人のことも書かれていました。「とても遠く、歩いて歩いて歩いた。辿り着くまでに餓死するかと思った。静かな水面にときどき風でさざなみができた」とのこと。エレーヌは内湾を思い浮かべました。


友達は何度も老人のところへ足を運んでくれたようです。老人は、自分が想像する星宿る海があるようで、訪れる度に、見たことないはずの景色をあたかも目の前に広がっているかのように話してくれたとか。ただ、その様子は毎回違ったそうです。あるときは明け方で空が白々と明け、星々が消えていくところ。あるときは、空から星が落っこちて水面に漂うところ。またあるときは、流れていた音楽を口ずさむ。

友達は綴っていました。「お年を召して、いろんなことを忘れてしまう方だけれど、心の中にはとても美しい景色と音楽があるの。素晴らしいと思わない?」と。エレーヌはその通りだと思いました。


「ファウスト兄上からの手紙があった」


イスに体を預けた姿勢そのままに、長いまつ毛も下ろしたまま、サードが話します。


「あら」

「元気かってのと、北の国へ穀物を売って(きん)を得たらしい。食糧難は、政治が整うのを待ってられないからね。畑を耕すようになったところで、収穫までには月日がかかる。案外、ちゃっかりしてるね」

『的確な判断って言えばいいのに』

「星宿の海のこと、何かあったら教えて」


青い瞳が閉じていても、サードには見えているようです。

エレーヌは手紙のその箇所を読み上げました。


「『とても遠く、歩いて歩いて歩いた。辿り着くまでに餓死するかと思った。静かな水面にときどき風でさざなみができた』」

「静かな水面、か……」


エレーヌはそれに続く推理を待ちました。しかし、いつまで待っても続きはありませんでした。



この日の宿はキャラバン用です。キャラバンとはラクダやロバ、馬などに荷物を乗せ、隊になって行き来する商人達のことです。中庭には篝火(かがりび)が燃え、ラクダや馬が繋がれていました。


夜になっても、エレーヌが1人になることは叶いませんでした。侍女は常に主人に仕えているものです。2人部屋。ジジは気配を消してくれています。主人が用のないときは、それが勤めです。

エレーヌは、ベッドに腰掛け読書をするふりをしながら、本の間にフォーからの封筒を置きました。チェストの上の蝋燭(ろうそく)の下、開封して手紙を開きます。


「誕生日おめでとう。

 会いたい」


たった2行。

胸が苦しくなりました。エレーヌは思わず手で口を覆い、漏れ出る声を防ぎます。涙はあとからあとから生まれ、ぽたぽたと手紙を水玉模様にしていきます。

いつも一緒でした。なぜフォーを一人残し、旅に出ることなどできたのでしょう。こんなに離れて、どうして普通に振る舞っていられるのでしょう。愛しい人は遠くから自分を想ってくれているのです。


そしてエレーヌは、自分がもうすぐ17歳になることに気づきました。




南の国の旅はあっけないほどスムーズに終わりそうです。これもひとえにサードの段取りのおかげでしょう。山岳地帯を過ぎれば平野。南の国は水も食べ物も豊富で物価が安く、治安もOK。多くの人達が皆、笑顔で暮らしていました。


『食べ物がいっぱいあるって、すごいことなんだ』


エレーヌは感心しました。

サードと繁華街を歩きます。ジジと護衛は少し離れていて会話は届きません。御者は馬と共に水飲み場です。


「僕はこの国の平和ボケが心配だよ。央の国が武器を輸出しようとしても『戦争なんて起こらない』って断るんだ」

「いいことじゃありませんか」

「軍はないようなもの。備えは必要だと思うけど」

「東の海の海賊は大丈夫なんですか?」


南の国の東の海には海賊が出没します。央の国は結構な被害に遭い、頭を悩ませています。


「央の国や東の島国の貿易船は金目の物を積んでる。でも、南の国の貿易船が積んでるのは綿花や紅茶。綿花は加工が(むず)いから、そこらへんじゃ買ってもらえないし、紅茶は横流しするとブランドがつかず買い叩かれる。結果、南の国の船は狙われない」

「知りませんでした」

「フォーの友達のラインハルトだっけ?」

「はい。ラインハルト様が?」

「その一族が央の国の海軍を取り仕切って、海賊対策をしてる」

「そーですか」

「ラインハルトは、やめとけ」

「は?」


サードまで、エレーヌがラインハルトを好きだと勘違いしているようです。


「外見がいい男は遊ぶ」

「それはご自分のことをおっしゃられているのですか?」

「はは。言うようになったじゃん。エレーヌ」

「だって」

「ラインハルトは貴族だ。高位の。政治に介入する恐れがある貴族とは、一緒に暮らせない」

「……」


どう考えても、女王の後継者へのアドバイスです。

エレーヌはラインハルトを好きということを否定しませんでした。勘違いされたままの方が安全です。


「それともフォー?」

「!」


青い瞳はメスのようにエレーヌの心を解体しようとします。


「ポーカーすらままならない君には、重すぎる。墓場まで持っていく覚悟、ある?」

『ムッ』


どうして西の国でスッカラカンになったことを知っているのでしょう。意味深な言葉が刺さる前に、護衛か御者がチクったことにムカついてしまいました。


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