絵に描いたような幸せ
部屋は、オザリン妃、エレーヌ、サードの3人になりました。
「花嫁の一行だった誰かにお会いになったのですか?」
「はい」
サードは、誰に会ったのかは明確にしませんでした。
「ではご存じなのですね」
オザリン妃は、自分が偽物とバレていることを察したようです。
「はい。国王に嫁がれたのではなかったのですか?」
「そのはずでした」
オザリン妃は、大勢の人達に頭を下げられ、説得され、南の国の国王の下へ連れて来られました。
「母と2人暮らしでした。地震のとき、土砂崩れで母を亡くしました。土砂の中から生き埋めになっていた私と母の遺体を掘り出してくださった本物のオザリン妃の故郷の方々には、感謝してもしきれません」
そんなことがあったら、花嫁の身代わりになることを承諾してしまうでしょう。目の前のオザリン妃は、押しに弱そうです。
「母を亡くしたばかりで、私はずっと泣いていて、化粧が醜く剥がれ落ち、瞼はぱんぱんに腫れていました。国王陛下は、あまりの醜さに形だけの妻にしてくださいました。お優しい方なのです。私が結婚を嫌がって泣いていると思っていらっしゃったのもあります」
親子ほど歳が違う政略結婚ならば当然です。
城で暮らすうち、オザリン妃は王子と仲良くなりました。
「私は初対面のときに泣いていましたし、瞼が腫れて視界が悪く、王子の顔を知らなかったのです。大勢しますし」
南の国は様々な民族を統治するため、国王が多くの地域から花嫁を迎えます。国王の息子は何人もいます。王子は自分のことを「小さな王子達の家庭教師兼遊び相手」とオザリン妃に偽りました。
オザリン妃は、文字を知りませんでした。なので王子に、故郷からの手紙を読んでもらい、返事を書いてもらいました。ついでに文字を習いました。地域の長の娘が読み書きできないはずはありません。そこから素性を明かすことになりました。
王子は事実を伏せたまま国王に交渉し、オザリン妃を妻に迎えました。
「今、幸せですか?」
「はい」
エレーヌの質問に、オザリン妃は花のように微笑みました。
城を出ると、サードはエレーヌに呆れていました。
「あのさ、エレーヌ」
「はい?」
「何、きいちゃってんの?」
「へ?」
「『今、幸せですか?』って」
「本物のオザリンさんが気にしていらっしゃったから」
「見れば分かるじゃん」
「見ただけで分かります?」
「話聞いただろ? 好きな人と結婚してあんなに大事にされて」
「大事にされてるかどうかなんて、分かんないじゃないですか」
「女はよりどりみどりの王子って立場の人間が、1人の人との間に子供をたくさん作るってのは、ほぼない。大事に、ってか、めちゃくちゃ愛されてる」
「そーゆーもんなんですか」
「そ」
「……。」
「よく飽きないよな」
「今、何かおっしゃいました? お兄様」
「何も」
エレーヌは、オザリン妃が幸せであることを、本物のオザリンさんに伝えたいと思いました。しかし、本物のオザリンさんは遊牧民。今ごろ、大河の源流に向かっているでしょう。定住しないので手紙を届けることができません。
『もし私が人を動かす力を持ったら、使いを出そう』
まだ16歳のエレーヌには、自分の家臣はいません。護衛も御者も侍女のジジも女王の家臣です。もう少し大人になれば、正式な自分の家臣ができるでしょう。そのときです。
『先すぎる』 ¯ヘ¯
一刻も早く伝えて心を楽にしてもらいたいものです。
『にしても』 -''-
エレーヌは、実は、偽物であっても問題ないことに気づきました。仮にエレーヌが取り替えられた偽物であったとしても、周りの誰も知らなければ、央の国は粛々と続いて行くでしょう。
実はエレーヌには取り替えられた姉がいて、そちらが正しい後継者だったとします。その場合、母親である女王は、過去の行いを弾劾されるかもしれません。
『きっとないよ』 >_<
取り替えというサードの推理に踊らされてしまいました。聖人である女王が、自分の子供を取り替えるなどするはずがありません。いつも正しい人格者です。
『周りの人がしたのかも』 ◔_◔
現女王が即位したのは、エレーヌが10歳のときでした。それまでは先代女王が絶対的な権力者です。先代女王の画策の可能性があります。
結局は、取り替えという発想から離れられないエレーヌでした。
「さっきから百面相になってるよ」
目の前に座るサードが呆れています。
「考えごとをしていました」
「だろうね」とサードは眠りました。体をイスに預け、長いまつ毛が白い肌に重なります。ジジは両目をしっかりと開き、ほぉぉぉとサードを眺めています。
エレーヌは、友達からの手紙を読むことにました。
学園の様子や恋愛報告が主です。気になる記述がありました。「フォー様のオーラが消えた」というものです。「肩がしょんぼりしている」「ラインハルト様といても目立たない」などと書かれています。それで女の子からの視線を集めなくなったのなら幸いです。




