身代わり花嫁になって
南の国の都、城に到着しました。
国王は、真っ白なヒゲの老人です。どう見ても、旅路で会った女性と親子ほど歳が離れています。謁見して言葉を交わしながら、エレーヌは、あの女性は自分の人生としては正しい選択をしたのだと思いました。ファウストの父親と自分達の母親の年齢差も親子以上です。エレーヌにとって他人事ではありません。
『キモいキモいキモいキモいキモいキモい』
エレーヌの頭の中は、汚い言葉でいっぱいになりました。
「そうそう、王子様王女様宛の手紙を預かっております。後で家臣から受け取ってください」
会話はどんどん進んでいきます。エレーヌは汚い言葉で頭をいっぱいにしながらも、頷いたりお礼を述べたりしながら談話します。
サードはついに尋ねました。
「旅の途中、オザリン妃の古い知り合いという方にお会いしました。オザリン妃はお元気でいらっしゃいますか?」
国王は目を細め、真っ白なヒゲを満足そうに撫でました。
「ああ、元気ですよ。孫達が可愛くてな。会ってやってください」
オザリン妃は、少し離れた別の城に住んでいるそうです。
エレーヌは首を傾げました。国王の妃達は、国王と同じ城に住んでいると聞いていたからです。1人だけ追放されたのでしょうか。しかし、謁見したときの様子では、国王がオザリン妃を嫌っている様子はありませんでした。35歳くらいということなので、もう夜伽の相手を卒業したのかもしれません。
まずは手紙を受け取りました。
サード宛はどっさり。袋で渡されました。愛人マダム達からの手紙でしょう。エレーヌは、女王から1通、友達から2通、フォーから1通、西の国の現寵姫から1通。
『ひっ』
なんと、西の国からの手紙が届いているではありませんか。ホラーです。エレーヌ達は西の国から船で出航するとき、1日早めました。エレーヌ達が乗る予定だった船は嵐で沈没したという噂。港へ到着していません。しかも、エレーヌ達は、南の国でルート変更をし、まっすぐ都まで来ました。
「お兄様、に、にしのくにか、ら、手紙が。私達より早く、、、」
エレーヌは震えてしまいました。サードは教えてくれました。
「ああ、船の方が、陸路より早いからね。僕らは港でゆっくりしてたし、道中も馬に無理のない日程だった。手紙は半島をぐるっと回って、海路で来たんじゃないかな」
それを聞き、エレーヌは安心しました。
「よかったー。呪いの手紙だからとかじゃなくて」
「は?」
西の国の現寵姫の毒気パワーを知らないサードは「何言ってんの?」と不思議そうです。
どの手紙も読みたいです。けれど、フォーからの手紙は誰もいない場所で読もうと決めました。きっと顔が赤くなったりにやけたりするからです。馬車に乗るとすぐに、西の国の現寵姫からの手紙を開封しました。大丈夫です。カミソリやタランチュラの足などは入っていませんでした。
どきどきどきどき
悪口を書いた手紙の返信ではありませんでした。よくよく考えれば、返信であれば、エレーヌの手紙が西の国の都に届くまでの日数の必要です。ほっとしました。楽しかったね的な内容に終始しています。悪いことが先延ばしになっただけなのですが。
馬車の中、正面の席では、サードが自身への手紙を読んでいました。袋の中にはいったい何通のラブなレターがあるのでしょう。
「お兄様はおモテになるのですね」
「ん? ああ。新しい曲や編曲の依頼、報酬に関しての事務的なものが多いからね」
「え?」
実はサードは、偽名で作曲や編曲の活動をしていました。人知れず、がっぽり稼いでいると分かりました。意外です。もちろん、袋の中の多くは愛人マダム達からの手紙でしょうが。
サードはエレーヌの手の中に、ちらっと目をやりました。
「なんだよ、アイツ。オレが持ってってやるっつったときは食べたくせに」
「あ、は」
「読まないの?」
「後で」
「ふーん」
サードは意味深な青い瞳でエレーヌの心を解体します。心の中に大切に隠してある気持ちすら、青い瞳の前では安全ではありません。
『もう、こっち見ないで』
ちょうどそのとき、オザリン妃が住んでいる城に到着しました。
「遠いところを、大変でしたでしょう」
オザリン妃は、国王ではなく王子の妻になっていました。王子が隣で小さな子供を抱っこしています。他にも、わらわらと子供達がいます。エレーヌより少し若いくらいの男の子もいれば、礼儀正しい少女、10歳くらいの生意気そうな少年、ドレスのまま走り回っている女の子。王子王女がいっぱいです。全員が2人の子供でした。
サードはオザリン妃だけと話したいと考えたのか、切り込みました。
「こちらに嫁がれるときの地震の話を聞きました」
すぐに王子は、子供達を連れて退出しました。エレーヌはその素早さが気になりました。王子は、地震の日のことを自分が聞くべきではないと思っているようです。子供達にも聞かせてはいけないと。
『オザリン妃が偽物とご存じなのでは』




