辿り着く人を選ぶとは
ジジは賞賛が止まりません。
「サード様って最高です。傾国顔でシゴできで」
1つ加えさせてもらいましょう。サードを語る上で外せないことを。
「女癖悪いよ?」
「いいえ」
「前にジジ、そーゆーの、クズって」
「サード様のは女癖とは言いません。恋愛上手です」
「そーなの?」
「女癖の悪いクズってのは、あーゆーのです」
ジジが視線を送った先にいたのは御者。馬を撫でに来た女の子の手に自分の手を重ねています。会話が聞こえてきます。
「ほら、怖くない」
「んふ。かわいい。たてがみが綺麗」
「オレのたてがみも綺麗だよ」
「うっそぉ、あるの?」
「あるある。見る? 今夜」
あっほくさ、とエレーヌは見え透いたナンパを白い目で見ました。同じくジジも白い目です。
「たてがみバージョンでしたね。尻尾バージョンもあります」
「私、夜になると耳が馬の耳に変わるってのも聞いたことあるよ」
そんな風に過ごしながら、到着した港町で4日、船旅の疲れを癒しました。
その間、西の国からの船は1隻も来ませんでした。船乗り達の話では、嵐があり、エレーヌ達が乗る予定だった船は沈没しただろうとのことでした。もしもその船に乗っていたらと思うと、ぞっとするエレーヌでした。
旅の目的は「星宿る海」。エレーヌは西の国で得た情報をサードに伝えました。
「きっと南の国ではありません。北の国と同じくらい寒くなるところのようです。西の国の書物に『自分の運命を知ることができる』と書かれていました」
サードは考えました。
「そんな、とんでもなく寒くなる場所なんて、南の国どころか央の国でもほとんどない。いったいどこなんだ。東の島国にだってあるとは思えない。東の島国は小さい。1番北でも、央の国の北の都くらいの緯度しかない」
央の国の中心は女王が暮らす王都です。北の方にも栄えている都があります。しかし、北端ではありません。北の国境から見ればずっと南です。冬は確かに寒いです。
「書物には『季節外れだったせいか、見ることができなかった』とありました。何を見ることができなかったのでしょうね」
「それは、星が命を終え、新しい星が生まれるところだろう」
驚きです。サードは「お伽話」と一蹴するタイプです。
「お兄様、星宿る海のこと、信じてくださるのですか?」
「厳密に言うと、信じているというのとは少し違う」
エレーヌは、このサードの言い回しにメンドクサさを感じます。
「非常に興味深い話だと思うよ。広大な央の国の誰もが知っている。他の民話は狭い範囲だったり、場所によって少しずつ違ったりする。それがない。誰がどうしてこうなったという話の展開もない。ただ、そういう場所があるというだけ。だから僕は、モデルになった場所があるかもしれないと思ってた。そしたら、西の国の書物にあったなんて。本当にその場所があるってことだ」
「100年ほど前のエッセイのようなものです。それに、その人は見れなかったんです。季節外れで」
「季節がある場所か」
「季節はどこにでもあります」
「この南の国の南の方や、南の島々は常夏だよ」
「そうですね」
「北の国の中には、1年中冬の場所がある。地球の最も南には年中冬の大陸があると言われている」
「地球の南」
「話を戻そう、星宿る海に。季節外れだと星を見ることができない。それが寒かったということは。寒さで海が凍ってしまい、海になっていなかったということだろうか」
「すごい、お兄様」
エレーヌは、サードの見事な推理に手をぱちぱちと叩きました。
「君はすぐ。素直すぎる」
言われてしまいました。この場合、素直=単純です。
「辿り着く人を選ぶと言われているだろ?」
「はい」
「だから僕は、潮の満ち干きだと考えてたんだ。満潮のときは海になっているからみえるけど、干潮では砂浜。星が消える生まれるというのは、波で見え隠れする。だから湾になっていて波が穏やか」
「すごい、お兄様」
またまたエレーヌは手をぱちぱちと叩きます。
「いやひょっとすると、見えなくなるのは星の方かも。例えば夏、木々が鬱蒼と生い茂っていて見えない。これは違うな。寒い冬なら木の葉が落ちて見晴らしはいいはず。冬は雪が積もっていて辿り着けないとも考えられる」
「すごい、お兄様」
ぱちぱちぱちぱち
「うーん。この場合、季節外れとは表現しない」
「……」
ここまで考えてくれるとは。エレーヌは感激です。
「季節、人を選ぶ、潮の満ち干き……」
エレーヌは、だんだん瞼が重くなってきました。自分の疑問について考えてくれているのだから、とエレーヌは睡魔と戦いました。一生懸命、しっかり座っていなければと背筋を伸ばしました。けれど、いつのまにか背筋を伸ばしたまま眠ってしまいました。制御できなくなった首は、がくんと後ろに倒れ、顔が天井を向き口は開いたまま。
フェミニストのサードは、エレーヌの姿に、クスッと笑いました。
「君だけだよ。僕の前でヨダレを垂らして寝る女は」
そしてエレーヌのおでこにくちづけ、よいしょっとベッドまで運びました。




