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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
南の国

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37/77

傾国イケメンのサード

海路は一般的に退屈です。めずらしい大きな貿易船の船内見学は、すぐに飽きるものです。

しかしエレーヌは、船の帆の操作に異様な興味を示しました。日がな一日、帆を眺め、ロープがどこへ繋がっているのか目で辿り、スケッチしました。風向き、風の強さ、船長の指示、どの帆をどう動かすか。船員が何人いて、どう交代しているのか。海図のどこにいるのか、羅針盤をどう頼りにしているのか。ずーっと観察しているエレーヌのことを、船員達は「ちょっと可哀想な女の子」だと思っていました。


「エレーヌ様、日焼けしますよ。潮風は肌にも髪にもよろしくありません」


いい加減甲板から撤退したいジジは、少々参っていました。見かねた御者がジジと交代。送ってはいけない手紙の件の埋め合わせもあったのでしょう。船上なので御者としての仕事や主人の護衛はほぼありません。王女は大切な央の国の後継者。常に誰かが見守る必要があるのです。御者はジジと交代すると、エレーヌの隣に寝っ転がって昼寝をしていました。女好きは休業です。船の船員は全て男性なので仕方がありません。


船上では、護衛の方が熱い夜を過ごしていました。ギャンブルです。護衛はイカサマサイコロは封印しているとのこと。海の男は荒くれ者。イカサマなど見つかった日には、海に落とされてしまうからです。


セカンドは、体が鈍らないように運動しつつも、多くの時間を読書に費やしていました。


目的地である南の国へ到着したときには、季節が変わっていました。


港近くの宿で待っていた3番目の兄、サードは、驚きました。


「エレー、、、ヌ?」


エレーヌがこんがりと日焼けしていたからです。スカートの裾はぼろぼろになっていました。ただでさえ、船には階段が多く、スカートの裾にダメージを与えるのに、あろうことか、エレーヌはマストにまで登って遊んだのです。そのとき、足がすっぽりと隠れるはずの長いスカートは、膝辺りで片足ずつ縛りました。なのでスカートはぼろぼろです。

もちろん、見つかり次第、セカンドに怒られました。


セカンドは、サードに引き継ぐとき心配しました。


「サード、お前にこの猿を制御できるだろうか。最悪、柱に繋いでもいい」


そう言ったほどです。


「ひさしぶりです。お兄様」

「エレーヌ、まず、その磯の臭いをなんとかしよう。それからドレス。いくらなんでも酷すぎる」


サードと話しているエレーヌの傍を船員達が通ります。


「ヌーちゃん、また乗っけてやるよ」

「よ、ヌーちゃん。元気でな」

「あんまり兄ちゃんに手を焼かせるな」


エレーヌは「ありがとうございます。ばいばーい」と手を振っています。

サードは、丁寧に挨拶しました。


「兄と妹達が、大変お世話になりました」


庶民の服装でも、高貴なオーラは隠せません。セカンドは戦経験もあるガテン系ですが、サードは傾国顔で物腰柔らか。船員達は美しさに目をハートにして振り返っていました。



旅は南の国に移り、セカンドは陸路で帰って行きました。

春が始まっている南の国には緑が溢れ、色とりどりの花が咲き始めていました。


「お兄様、美味しいです。このお肉。塩漬けじゃないって素晴らしいわ」


ジジも護衛も御者も、半泣きで食事をしています。花より団子です。


「船はそんなに大変だった?」

「最初は大丈夫だったんです。1週間しないうちに、お肉はなんだか腐り始めている感じでした。パンはかさかさしてきて。それがだんだん、干し肉とほぼ具のないスープ。パンはかさかさからかっちかちになりました。傷まないように塩漬けの物も多くて。私、船乗りを尊敬しました」

「お疲れ様。世の中の人達が苦労して働いてるって知ったんだね」

「はい。ただ、船乗り達はそれは当たり前のことで、毎日、基本、楽しそうでした」

「まあ、そうだろうね」


サードはくすっと笑いました。セカンドから船賃に上乗せした謝礼金を聞いているので、船乗り達が非常に満足したと知っているのです。

白い指を組み、サードは、ぱくぱくと食べるエレーヌを優しく見守ります。エレガントなサードの前で、こんなにも自然体を晒す女の子はエレーヌくらいです。


「あのさ、エレーヌ。フォーが変なんだ」


どっきーん


唐突な言葉にエレーヌの心臓が口から飛び出そうになりました。王家の別荘での一夜のできごとが走馬灯のようによぎります。窓の外に現れた影、人目を偲ぶ小さな声、ベッドに横たわった横顔、月明かり。実際には、ただ指に触れられただけですが。


「そ、そーなのですか?」

「エレーヌへ手紙を書いたみたいだったから、届けるって言ったのにさ」

『フォーからの手紙、読みたい!』

「あいつ、食べちゃったんだよ」

「え」

「この間なんて、君の部屋のドアに頭を打ちつけてた」

「それは」

「変だろ? あいつの友達も心配してた。女の子にきゃーきゃー言われても、振り向かなくなったって」

『今までは確かに振り向いてた。ファンサしてた』

「君にきいても、分かんないよね。ずっといないんだから」

「そーですね」


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