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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
西の国

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33/77

星宿る海への手がかり

「タランチュラの死骸を撒くときに、触れてしまったから、害があるかどうか調べたくて」

『ゲロってる』


あっけらかんと自白する現寵姫に驚きです。旧寵姫の部屋の前の方の犯人は、やはり現寵姫だったようです。


「仕えている女性に頼んだの。そしたら『それだけは勘弁してください』って泣かれちゃって」

『そりゃ泣くって』

「もう死んでるから平気なのに。蜘蛛程度でこれじゃ、先が思いやられるわ。まあ、自分でやっちゃった方が()()()手早く内密にできるかもしれないけれど」


エレーヌは、()()()の内容を想像してしまいました。殺人でしょうか。


「旅行記の中に、東の方へ行ったものがありました。星宿る海とは記されていませんでしたが、自分の運命を知る場所とあったような、なかったような」

「読んだのですか?」

「はい。私の母は、この国が南東に侵攻したときに捉えられて奴隷になりました。なので、その地の話が書かれていそうな書物を読みました」


2人でハレムの外、王宮の書庫へ向かいます。


「ハレムの外へ出ることを許されているのですか?」

「はい。私に限り、書庫だけ特別に。書庫の管理者は老人なので大丈夫だろうと」

『だいじょうぶって何が?』


エレーヌは、ハレムの常識にいちいち面食らってしまいます。要するに、不義密通が起こらないということなのでしょう。書庫では、耳が遠い、絶対に間違いが起こりそうにない老人が本の管理をしていました。


どの旅行記かを教えてもらい、エレーヌはページをめくって「自分の運命を知る場所」についての記述を探しました。


ありました。

「現地の人々が『自分の運命を知ることができる』と話すところを探したが、季節外れだったせいか、見ることができなかった」と書かれていました。


エレーヌは狐につままれた気分です。ある場所を探したのに、「なかった」ではなく「見ることができなかった」とは。場所は訪れるところです。見るとは何を見るのでしょう。しかも季節外れとは。その場所はどこなのでしょう。

幸いにも旅行記のその部分までページは少し。エレーヌは最初から読むことにしました。


旅行記の棚にありますが、残念ながらエッセイ集のようなものでした。100年ほど前に書かれています。


『旅行記っぽく書いてよー』


旅行記ならば、日付と足取りが分かります。しかし、エッセイの1つに、寒かった思い出として挙げられていました。日付は旅行をした日ではなく、エッセイを書いた日です。北の国へ行ったとき寒かった、それと同じくらい寒い思いをしたのに、空振りだったという記述です。


『寒かったの、いつー。どこー』


こっちこそ空振り、とエレーヌは思いました。その人は、西の国の冒険家で、西の国の都を中心に東西南北を旅した模様。どうも空振りの場所へは「船まで使った」ようです。が、西の国の都はナッツ海とオレンジ海に挟まれた場所。どこへ行くにも船に乗ると便利です。

それでもエレーヌはポジティブシンキング。


『北の国と同じくらいの寒さを感じたってことは、北の国じゃないってこと。北の国では星宿る海のことを誰も知らなかったことと合致してる。赤道近くや南の島々は違う。西の国の冬も温暖。南の国で寒くなるのは北部の央の国との国境辺り。山岳地帯だけ。星宿る海。海なのだから、東の島への海?』


だいぶ絞られてきたと小さくガッツポーズです。


他にも何か手掛かりがあるかもしれないと読み進めると、タランチュラについての記述がありました。「見た目は実に強面(こわもて)で、象をも死に至らしめそうなのだが、実際には、ハチよりも毒が弱く、人間を殺傷するほどではない。冬眠する種類は、温度を上げれば動き出し、冬眠を忘れる」と。


エレーヌは、さっそく現寵姫に知らせました。


「ありがとうございます。なるほど。今は冬。冬眠してるタランチュラを放てば、お風呂で温まって動き出すのね。毒は大したことない」


浴場の天井近くには、通気のための窓があります。現寵姫は、誰かがそこから落としたのだろうと言いました。


「いくら冬眠してるとはいえ、女性があの大きさの毒蜘蛛を扱うとは思えません。何匹もだからそこそこ重かったのよ」


さすが現寵姫。自分で麻袋を持って死骸をばら撒いただけあります。


「誰かが手引きして、宦官を入れたんでしょうね」


宦官というのは、子供を作ることができない体になった男性です。ハレム内でも力仕事や警備など男性の手が必要です。なので、機能の一部を排除した宦官がハレムに出入りします。


「いくら宦官でも浴場の中へは入れません。やはり、通気用の窓から落としたのでしょう。毒蛇を使わなかったのは、国王陛下が命を落としては困るから。夜伽を妨害しようとしてもムダよ。夜は何日でもあるんだから」


ふんっ、と現寵姫は鼻を鳴らしました。そして、なんとも魅惑的な言葉を発したのです。


「なんだか、ぱーっとしたいわ。王女様はギャンブルってご存知ですか?」


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