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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
西の国

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31/77

恋するくせつよジジイ

「「危ない!」」


エレーヌとジジは咄嗟に現寵姫に走り寄ります。けれど、現寵姫は船から海の方へ。

落ちていく現寵姫の左手首をエレーヌ、右手首をジジが掴みます。間一髪。


「しっかり掴んでください」


そう言うエレーヌに現寵姫はほざきました。


「離して。私、泳げるからやってるの。余計なことしないで」

『はあああああ?!』


エレーヌは頭に来ました。


「絶対に助けます。ジジ」

「はい」

「「せーの」」


2人で思い切り現寵姫の腕を引っ張り上げて船上に戻しました。


「「「大丈夫ですかっ」」」


現寵姫に仕えている女性達は本当に心配しています。味方をも欺いているようです。

旧寵姫は、微動だにせず立ち尽くしています。彼女に仕えている女性達は口々に「勝手に飛び降りた」と責め立てます。


「央の国の王女よ、感謝する」


船を横付けして飛び移ってきた国王が現寵姫を抱き起こしました。


「ひどい。こんなことまでなさるのですか。あんまりです」


現寵姫は旧寵姫を睨み、派手に泣き喚き、国王にすがりつきました。


『なんなの、この人! あり得ないんだけど』


エレーヌは怒り浸透です。耐えるために握りしめていた拳で、


ぱしっ


現寵姫をぶん殴りそうになり、ジジに止められました。


旧寵姫は国王から謹慎を命じられました。

エレーヌはますますムカつきました。


穏やかな波に揺られ、船は着岸。港で働く人々が動きをとめてさっと地面に座ります。港なので下は濡れている場所もあるというのに、そんなことはおかまいなしに膝から下を地べたにつけ、皆が差し出すように(こうべ)を垂れる光景は、奇妙なほどでした。

下船し、エレーヌはセカンド達と合流しました。大きな窓からナッツ海を臨む王宮の一室でくつろぎます。

頭にきていたエレーヌは、セカンドに、現寵姫が自分で落ちたのだと訴えました。


「私、国王陛下に報告した方がいいのでしょうか。このままではあまりに……」


突然背後から「その必要はありません」と声がしました。国王でした。


「自作自演ということは分かっています」

「だったらなぜ」


エレーヌは国王を睨みます。そのあからさまな表情を注意すべく、見えないところで、セカンドにつんつんと(つつ)かれました。


「私は『自分の目的のために手段を選ばない子』が欲しい。無情で、自分が手を汚すことをヘとも思わない男の子が。そうでなければ、この国を率いていけないのです」

「……」

「アレは私の母親に似ている。知謀をめぐらし容赦なく行手を阻む者を消す。私はそれによって守られ、それを見て育ち、今があります」

「……」


国王は9人兄弟。即位するときは1人になっていました。国王は屍の上に立っているのです。


「私は何よりも、守りたいのです」

「西の国をですか?」

「いえ。心優しい純粋な女性を。このままでは2人の息子の命も危ない」

「「!」」


それは旧寵姫のこどとしか考えられません。


「だから、息子と共にハレムから追放します」


理不尽です。正しい方が追放され、卑怯者がのうのうとのさばるなど。エレーヌの顔は歪んでしまいました。再度、隣から、セカンドがエレーヌを(つつ)きます。


「下賜なさるのですか?」


セカンドが尋ねました。エレーヌが感情に任せて発言しないようにでしょう。


「いえ。他の男には渡しません。別の地でひっそり暮らさせます」

「「え?」」

「国を存続させるためには、私情は禁物です」

「辛い立場ですね」


とセカンド。


「誰もが、私の心は若い娘に移ったと思っています。それでいい。西の国が存続するなら。王は心を捨てなければなりません。自国の民や敵国の民の一人一人の人生の重さなど感じていては、戦などできません」


戦の経験があるセカンドは、辛そうに「そうですね」と言葉を絞り出しました。

エレーヌは確認します。


「では、安全な場所で、本当に愛する人にお会いできるようになるのですね」


それに対して、国王は首を横に振りました。


「そんなことをすれば、安全でなくなります」

「だったら、もうお会いにもならないのですか?」

「ええ。文一つ送らないつもりです。大丈夫ですよ。所詮私の片想いですから」


国王は自虐的に小さく笑いました。国王はアラサー。エレーヌは、いい歳をしたおっさんが「片想い」などという乙女な言葉を遣ったことに面喰らいました。


「国王を愛さない女性など、西の国におりません」


セカンドは即、社交辞令を繰り出します。

国王は、ナッツ海の水平線をを見つめました。


「私は彼女に夢中でした。毎日逢いたかった。なのに、相手をできない日だからと他の女性を勧められました。ショックでした。別に何もしなくても一緒にいたかっただけなのに。一緒にいると触りたくなる。気持ちがあるからしょうがない。だから、スルために会っていたと勘違いされていたのかもしれません」

『ちょっとこのおっさん、なに言ってんの』


セカンドは護衛と御者に合図を送り、エレーヌを強制退場させようとします。しかし、エレーヌは頑張りました。両腕を捉えようとされてかがみ、服を掴まれそうになって身をかわし、興味深い話を聞き続けます。


「心がズタズタになりました。戦で辛くても泣かなかったのに、大泣きしました。その後も結局、逢いたくて我慢できず、しばらく毎晩通ったのですが。相手の気持ちが分からなくて、辛い日々でした」

「「……」」


「相手の気持ちが分からなくて辛い」は、16歳のエレーヌの女友達と同じ悩みではありませんか。


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