恋するくせつよジジイ
「「危ない!」」
エレーヌとジジは咄嗟に現寵姫に走り寄ります。けれど、現寵姫は船から海の方へ。
!
落ちていく現寵姫の左手首をエレーヌ、右手首をジジが掴みます。間一髪。
「しっかり掴んでください」
そう言うエレーヌに現寵姫はほざきました。
「離して。私、泳げるからやってるの。余計なことしないで」
『はあああああ?!』
エレーヌは頭に来ました。
「絶対に助けます。ジジ」
「はい」
「「せーの」」
2人で思い切り現寵姫の腕を引っ張り上げて船上に戻しました。
「「「大丈夫ですかっ」」」
現寵姫に仕えている女性達は本当に心配しています。味方をも欺いているようです。
旧寵姫は、微動だにせず立ち尽くしています。彼女に仕えている女性達は口々に「勝手に飛び降りた」と責め立てます。
「央の国の王女よ、感謝する」
船を横付けして飛び移ってきた国王が現寵姫を抱き起こしました。
「ひどい。こんなことまでなさるのですか。あんまりです」
現寵姫は旧寵姫を睨み、派手に泣き喚き、国王にすがりつきました。
『なんなの、この人! あり得ないんだけど』
エレーヌは怒り浸透です。耐えるために握りしめていた拳で、
ぱしっ
現寵姫をぶん殴りそうになり、ジジに止められました。
旧寵姫は国王から謹慎を命じられました。
エレーヌはますますムカつきました。
穏やかな波に揺られ、船は着岸。港で働く人々が動きをとめてさっと地面に座ります。港なので下は濡れている場所もあるというのに、そんなことはおかまいなしに膝から下を地べたにつけ、皆が差し出すように首を垂れる光景は、奇妙なほどでした。
下船し、エレーヌはセカンド達と合流しました。大きな窓からナッツ海を臨む王宮の一室でくつろぎます。
頭にきていたエレーヌは、セカンドに、現寵姫が自分で落ちたのだと訴えました。
「私、国王陛下に報告した方がいいのでしょうか。このままではあまりに……」
突然背後から「その必要はありません」と声がしました。国王でした。
「自作自演ということは分かっています」
「だったらなぜ」
エレーヌは国王を睨みます。そのあからさまな表情を注意すべく、見えないところで、セカンドにつんつんと突かれました。
「私は『自分の目的のために手段を選ばない子』が欲しい。無情で、自分が手を汚すことをヘとも思わない男の子が。そうでなければ、この国を率いていけないのです」
「……」
「アレは私の母親に似ている。知謀をめぐらし容赦なく行手を阻む者を消す。私はそれによって守られ、それを見て育ち、今があります」
「……」
国王は9人兄弟。即位するときは1人になっていました。国王は屍の上に立っているのです。
「私は何よりも、守りたいのです」
「西の国をですか?」
「いえ。心優しい純粋な女性を。このままでは2人の息子の命も危ない」
「「!」」
それは旧寵姫のこどとしか考えられません。
「だから、息子と共にハレムから追放します」
理不尽です。正しい方が追放され、卑怯者がのうのうとのさばるなど。エレーヌの顔は歪んでしまいました。再度、隣から、セカンドがエレーヌを突きます。
「下賜なさるのですか?」
セカンドが尋ねました。エレーヌが感情に任せて発言しないようにでしょう。
「いえ。他の男には渡しません。別の地でひっそり暮らさせます」
「「え?」」
「国を存続させるためには、私情は禁物です」
「辛い立場ですね」
とセカンド。
「誰もが、私の心は若い娘に移ったと思っています。それでいい。西の国が存続するなら。王は心を捨てなければなりません。自国の民や敵国の民の一人一人の人生の重さなど感じていては、戦などできません」
戦の経験があるセカンドは、辛そうに「そうですね」と言葉を絞り出しました。
エレーヌは確認します。
「では、安全な場所で、本当に愛する人にお会いできるようになるのですね」
それに対して、国王は首を横に振りました。
「そんなことをすれば、安全でなくなります」
「だったら、もうお会いにもならないのですか?」
「ええ。文一つ送らないつもりです。大丈夫ですよ。所詮私の片想いですから」
国王は自虐的に小さく笑いました。国王はアラサー。エレーヌは、いい歳をしたおっさんが「片想い」などという乙女な言葉を遣ったことに面喰らいました。
「国王を愛さない女性など、西の国におりません」
セカンドは即、社交辞令を繰り出します。
国王は、ナッツ海の水平線をを見つめました。
「私は彼女に夢中でした。毎日逢いたかった。なのに、相手をできない日だからと他の女性を勧められました。ショックでした。別に何もしなくても一緒にいたかっただけなのに。一緒にいると触りたくなる。気持ちがあるからしょうがない。だから、スルために会っていたと勘違いされていたのかもしれません」
『ちょっとこのおっさん、なに言ってんの』
セカンドは護衛と御者に合図を送り、エレーヌを強制退場させようとします。しかし、エレーヌは頑張りました。両腕を捉えようとされてかがみ、服を掴まれそうになって身をかわし、興味深い話を聞き続けます。
「心がズタズタになりました。戦で辛くても泣かなかったのに、大泣きしました。その後も結局、逢いたくて我慢できず、しばらく毎晩通ったのですが。相手の気持ちが分からなくて、辛い日々でした」
「「……」」
「相手の気持ちが分からなくて辛い」は、16歳のエレーヌの女友達と同じ悩みではありませんか。




