ジジイとシたいっけ?
「きゃーーーー」
朝は悲鳴で目覚めました。
『今度は何かしら』
エレーヌとジジは、部屋から出、廊下にいる女性に何事かと尋ねました。
「あ、あの、昨日の、あ、あれが、廊下に撒かれていたんです」
昨日、夜伽用の浴場にいたタランチュラは、退治されて麻袋5個ほどに詰められたそうです。今朝、それが、旧寵姫の部屋の前にばら撒かれていました。なんとも気持ち悪い話です。
夜伽の準備をする浴場にあったのですから、昨日のタランチュラは、現寵姫を狙ったものでしょう。タランチュラに刺されると赤くなり、とても痛いそうです。意外にも死ぬことはほぼないそうです。
『今朝のは、仕返しだよね』
エレーヌにはそうとしか思えませんでした。昨晩の犯人は分かりませんが、今朝の犯人は現寵姫でしょう。いかにも、やられたらやり返しそうなタイプです。
急遽、朝食はハレムの外になりました。貴賓であるエレーヌは、ものすごい勢いで謝られました。ハレムのトップである国王の母に頭を下げられ、大勢の女性達に床にひれ伏され。その姿に申し訳なくなってしまいます。
「昨晩、王女様が見つけてくださったと聞きました。身の毛もよだつ光景だったでしょう。申し訳ない限りでございます」
カニだと思った無知は晒したくありません。ましてや、夜伽用の場所を見に行ったなどとは口に出せません。エレーヌの隣でジジは笑いを堪えて震えています。
「いえ、暗くてよく見えませんでした。ですから、お気になさらないでください。今日はとても良いお天気です。船を用意してくださってありがとうございます」
クルージングモーニング。突然のハプニングの埋め合わせでしょう。緊急だったはずなのに、大きな船に豪華な食事が用意されていました。手際の良さに、国王の絶対的な権力を感じます。
乗船したのは、現寵姫一行、旧寵姫一行、No.3寵姫一行、No.4寵姫一行。
国王の母親はいません。ハレムの責任者としてハレム内の掃除点検を見守るそうです。
自分達が疑われていると分かっている現寵姫一行の面々は、所在なげに顔を曇らせています。現寵姫は、仕えている女性達を鼓舞しました。
「こうゆーときこそ、目一杯明るく振る舞うのよ」
更に円陣を組んで皆で右手を中央に出します。
「エー、ハイ」
「「「ホー」」」
「ハイ」
「「「ホー」」」
「ハイ」
「「「GO!」」」
気合いを入れ終わると、現寵姫は率先して歌い始め、ハーモニーを促して盛り上げます。体育会系キャプテンさながらです。
食後、エレーヌとジジは風に当たっていました。No.3に話しかけられました。昨晩のことと今朝のことのお詫びから始まります。
「今朝の犯人は分かっています」
それはエレーヌも同じ意見でしたが、もちろんとぼけました。
No.3は、旧寵姫がどれだけ素晴らしい女性かをとうとうと語ります。周りに仕える女性達もにこにこしながら頷いています。相当な人望です。
いつの間にかNo.4も加わっていて「それにひきかえ」と現寵姫の話をしました。
現寵姫は、もともと特定の女性には仕えない雑用係でした。ハレム内で排泄物やゴミ処理の仕事をしていました。恐らくヒエラルキーの最底辺だったのでしょう。国王の目にとまるため、ハレム内、国王が歩く通路で不自然に掃除したり、レストルームや浴場にいたりしたそうです。
「私が脱いだ服を勝手に着て、国王陛下と話していたのですよ」
No.3は眉をひそめました。
「私なんて、夜伽の日に浴場で国王陛下を寝取られました」
No.4は目を剥きました。
『あんなおっさんと、そんなにシたいんだっけ』
エレーヌは、くせつよジジイがモテていることを不思議に思いました。
女性達にとって夜伽は、貴重なチャンスです。1度でも夜伽の相手をすれば、誰かに仕える立場から、仕えさせる立場に変わります。何度も夜伽があれば自分の部屋があてがわれます。子供ができれば周りに仕える女性が増え、部屋が大きくなります。男の子ができればハレム内の権力を得ます。自分の子供が国王になれば、アガリ。ハレムの頂点です。
話を聞いても、エレーヌにはさっぱり権力の魅力が理解できません。いくら豪華でもハレムの生活に自由はないからです。野山を馬で駆けたり、友達と気ままに出かけたりできません。旅などもってのほか。しかも男はあのくせつよジジイONLY。
エレーヌには質問があります。
「ハレムには若い女性しかいません。先代国王の女性達はどうなったのですか?」
「国王と共に墓に入りました」
『はああああ?!』
驚きです。




