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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon
西の国

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お風呂は天然掛け流し

「あのおばさんはね、優しいの。国のために戦って命を落とした兵士に祈りを捧げています。それが正しいことだと信じて、国王にアピールしています」


言葉に細かい棘があります。


「はあ……戦死した兵士に祈りを捧げるのはご立派だと、思い、ます」


エレーヌはこの話題をフェイドアウトしたくてたまりません。苦手な空気になってきたからです。


「じゃ、想像してみて。自分が血みどろの殺し合いからへろへろになって帰ってきたところで『人がいっぱい亡くなったので祈ってます』なんて言われたら、どお?」

「……」

「おばさんはさ、美徳を追ってるの。その姿は正しい。もちろん、周りの人達は『立派ね』って寄ってくる。でも、血みどろになって人を殺してきた国王は近寄らない。おばさんの優しさは、そーゆー優しさです」

「難しいですね」

「ふふ。とってもいい人よー」


次の来訪は、国王の母親でした。

ぴりぴりとした空気を感じます。


『この方、なんか怖い』


挨拶が終わると、最後にシニカルな言葉。


「王女様、本来ならば、私達がおもてなしをすべきと思いますが、若い者同士という国王のご配慮。この者の出自は奴隷。通常ならば王女様が接することのない人間です。とても珍しい機会となるでしょう」

『怖っ』


国王の母親は部屋を出て行きました。


「私は嫌われてるの」


と現寵姫。それは、はっきりと分かりました。なのにエレーヌは心にもない下手なフォローをしました。


「それは思い過ごしでは」


すると現寵姫はさらり。


「同族嫌悪でしょうね」


同族ということは、国王の母親も奴隷出身ということでしょうか。もしそうなら、先程のような言葉はないと思います。そのときエレーヌは思い出しました。後継者候補は9人生まれ、即位のときまでに国王以外が亡くなったことを。何人かはハレムで不可解な事故死。

エレーヌはぞっとしました。数々の死、そして同族嫌悪という言葉。


『この人も殺人を厭わないってことじゃん』


華やかなハレムの怖さが、じわりじわりと、エレーヌの足元に迫ってきました。



夜になって来訪したのは国王です。夜伽のためです。エレーヌとジジは現寵姫の部屋から退出しました。


『来客中くらい我慢すればいーのに』


などとエレーヌは思ってしまいました。でもまあ、旅の疲れがあったので、おもてなしから解放され、ゆっくりできて嬉しい気持ちもあります。西の国の都の名物は温泉。ハレムの浴場は天然掛け流しです。


「ジジ、いーねー、これ。央の国にも造りたい」


お湯に浸かると、気持ちよさに「はぁぁぁ」と思わず声が出てしまいます。


「まず、温泉が出るところを探さなければなりませんね」

「そっか。央の国って温泉は山の方だもんね」

「ここは豪華ですね」


城の別棟が温泉になっています。タイルは美しい模様を描き、天井は高く、泳げるほどの湯船があります。


「広ーい。あっちは何があるんだろ」

「エレーヌ様、そちらは寵姫が夜伽の前や夜伽のときに使うので、行かないように言われています」

「夜伽のときって。え、一緒に入るってこと? きゃー♡」

「エレーヌ様」

「ちょっと見るだけ」

「はしたないですよ。エレーヌ様」


好奇心旺盛なエレーヌは、どれくらいの広さか、どんな内装かを見たかっただけです。もちろん、人がいたら覗く気などありません。聞くだけにするつもりでした。


狭い通路があります。浴場内なのでタイル張り。壁には灯りの蝋燭があります。通路の上の方には窓があり、寒さを感じました。5m程先に開けた場所があります。人の気配がないので、ひょいっと顔を出して見てみました。スペースはエレーヌが先ほどいた場所ほどではありません。獅子の彫刻の口から湯船にお湯が出ていました。湯気がほんわり立ち上り、篝火があっても暗く、見晴らしはよくありません。彫刻を施された柱に茶色い物が点々と見えました。洗い場のタイルの上には、たくさんの茶色い物が散らばっていました。もこもこと少し動いています。


「ねーねージジ。カニみたいなのがいた」

「そうですか。温泉に紛れてたのでしょうか」

「茶色くてこれくらいの大きさで、毛ガニみたい。すごくいっぱいだよ」


床には約30cm間隔、壁には約1m間隔でもこもこしたものがいました。


「踊り食いでもするんでしょうか。そんなはずはありませんよね。茹でガニになってしまいますから」


ジジも興味を持って、見てくれました。


「ね、いっぱいでしょ?」

「エレーヌ様、あれはタランチュラです」

「それって」


本で読んだことがあります。毒蜘蛛です。エレーヌがカニと見間違えたのも無理はありません。薄暗い場所ですし、央の国でエレーヌが見るクモはせいぜい2cmほど。タランチュラは(てのひら)サイズなのですから。今は冬。足をあまり広げず縮こまっていたせいもあります。


ジジはすぐさま、ハレムの人に報告しました。

ジジが行った先から悲鳴が聞こえました。バタバタと人が行き来し、大騒ぎです。


タランチュラのせいで、あまりゆっくりと温泉に浸かることはできませんでしたが、体は清潔になり疲れがとれました。おかげで、夜はぐっすり眠ることができました。




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