ハレムは女の戦場です
「民のこと、考えてない気がする」
エレーヌは、釈然としません。
「西の国の国王陛下がおっしゃったことは正しい。国が安定しなければ民の幸せはないのだからな」
エレーヌはセカンドに反論。
「戦は安定じゃありません」
セカンドは愉します。
「戦を利用して、様々な均衡を保っているという話だった。エレーヌが心情的に理解できないのも分かる。状況が違う。央の国の国境付近は険しい山々が多い。敵にとって戦は大変だ。敵は、侵略したとしても、その辺りの土地に旨みはほぼない。だから央の国を狙う国は少ない。だが、西の国の周りに険しい山は少ないし、温暖で豊かな土地。海産物も豊富。いろんな国の交通の要。穏やかな海を隔てて列強諸国がひしめいている。常に強さをアピールしなければ攻め込まれる」
「理解できました」
理屈は分かりました。けれど、エレーヌの下唇は面白くなさそうにつき出てしまいます。
「ヌーちゃん、もちっとクールに」
「ポーカーフェイスだぜ。ブラックジャックは強くても、ポーカー弱そうだなー」
護衛と御者にまで言われてしまいました。
『戦は殺し合い。それを利用するのは承服できない。民は宝』
その言葉を、エレーヌは飲み込みました。
西の国の都は世界随一の都。繁栄を極めています。
壁の装飾の美しさ、絨毯の模様、ティーカップ。目にする物全てが芸術品です。エレーヌは、国王との食事の席でそのことに触れました。国王は冷たいだけだった顔を綻ばせました。
「我が国の最も贅を尽くした場所はハレムです。ぜひご覧を。王女は若い女性。安全のためにも、滞在中はハレムですごされてはいかがですか?」
というわけで、エレーヌとジジはハレムに宿泊することになりました。
「いーなー」
「ヌーちゃん、ジジ、後でしっかり教えてくれよ」
護衛と御者から羨望の眼差しで見つめられます。
セカンドからは「くれぐれも気をつけて」と。
エレーヌは「はっ」としました。
「もしかして、今までみたいに狙われる可能性があるのですか?「ない」
被せ気味にセカンドに否定されました。そこまではっきり言い切られると、自分に自信がなくなります。
「西の国の国王陛下は利で動く。央の国に仮に自分の子がいたところで力は及ばない。それが央の国の制度だから。そもそも、央の国に領土を広げようなどとは考えていないだろう。広すぎる。手間も費用もかかりすぎる。西の国にとっては、央の国は貿易相手で十分だ」
『確かに』
「そうですね」
「それに、国王陛下はハレムの中から選びたい放題」
『それって、私に女としての魅力がないって意味じゃん』
少しムッとしましたが、ハレムに行って納得です。
美女だらけ。建造物やインテリアもさることながら、中で暮らす女性達こそ芸術です。
婚姻を利用して治世を行うのはよくあること。その場合、有力者の娘は必ずしも美しいとは限りません。
ハレムは違います。美しい女性が集められています。西の国の貴族は美しい娘を見つけると、教育を施し、国王へ貢物として捧げるのです。
『それはそれですごいシステム。女を完全に物扱いしてるし』
北の国の妃も国王に差し出されたようですが、妃の場合は、偽りであっても、あくまでも一族の者として出会ったはずです。似て非なりです。
ハレムの大きな派閥は2つ。第1王子、第3王子の母である旧寵姫。そして現寵姫です。
国王がエレーヌのもてなしを申し付けたのは、現寵姫でした。年齢は17歳。歳が近いから話が合うだろうとのこと。
現寵姫はケタケタとよく笑う女の子でした。現寵姫に仕えている女性達もとても陽気です。歌を歌いハモリ、踊り、ノリノリです。エレーヌは、この女性がなぜ現寵姫になったのか分かりました。一緒にいると楽しいのです。
「エレーヌ様。旧寵姫に仕えている女達が怒っています。どうやら私達は派閥争いに利用されているみたいですね」
ジジが耳打ちしてきました。
「はばつあらそい?」
エレーヌが首を傾げたところに、旧寵姫がご来訪です。他にも国王のお気に入りが数名、そして仕えている女性達。大人数です。
「央の国から大切な貴賓がいらっしゃっていると聞きましたので、ご挨拶に参りました」
旧寵姫はとても優しそうな品のある女性です。共にいる他の女性達も落ち着いた雰囲気でした。挨拶の後、一緒に楽しむのかと思いきや、その人達は、現寵姫に仕えている女性達に部屋を追い出されてしまいました。
エレーヌは見ました。現寵姫は右手をひらひらさせて「締め出せ」という合図を送ったのです。
どうやら現寵姫派は少数派。旧寵姫派は5倍くらいの人数でした。
「さっきの人が、前のお気に入り。子供を2人産んだおばさん」
『……ぇ?』
現寵姫の「おばさん:という言葉に、エレーヌは耳を疑いました。
とりあえず当たり障りのない受け答えをしました。
「優しそうな方でした」
すると現寵姫は、ぷっと噴き出しました。
「あはははは。優しいわよー。すっごく」
『うっわー。含みのある言い方。これ、すっごく怖い人って意味かも』
実は現寵姫は、旧寵姫にめちゃくちゃいじめられているかもしれません。さきほどの発言にはびびりましたが、もしそうなら、「おばさん」呼ばわりも大目に見ようとエレーヌは思いました。




