イカサマサイコロ作り
「くそっ。なんだよこのサイコロ!」
護衛が地面にサイコロを投げつけました。エレーヌは目をぱちくりさせました。一瞬、おかしなものが見えたのです。
『6の裏側が6?』
気になったエレーヌはサイコロを拾い上げました。なんとそのサイコロは、2の裏に2、4の裏に4、6の裏に6の目がありました。
「すごーい。こんなの作れるんだね」
「おっと、ヌーちゃん」
護衛は、賭場に役人が来たとき、サイコロを持ってきたのでした。
「オレ、身ぐるみ剥がされたとき、なーんか変だったんだよなー。周りのヤツらがやたらにやにやしててさ」
護衛が賭けたのは、器の中にサイコロを2つ入れてふり、目の合計が偶数か奇数かを当てるゲームでした。央の国や北の国では、器をテーブルに置いた後にプレイヤーが偶数か奇数かを賭けるのが一般的だそうです。
「でもさ、あそこの賭場は器を振ってる間に賭けるってルールだったんだよなー」
「イカサマですね」
「お、ヌーちゃん、そんな言葉も知ってんだ?」
恐らくサイコロは3つあるのでしょう。2・4・6の目しかないサイコロが2つ。1・3・5の目しかないサイコロが1つ。或いは、2・4・6の目しかないサイコロが1つ。1・3・5の目しかないサイコロが2つ。奇数にしたいときは、2・4・6のサイコロと1・3・5のサイコロを器に入れる。偶数にしたいときは2・4・6のサイコロを2つか、1・3・5のサイコロを2つ器に入れる。
『イカサマサイコロ。おもしろーい』
エレーヌは、自分でも作ってみたくなりました。サイコロは動物の骨や鹿の角でできていました。切断するのは無理があり、同じものの再現は断念。その代わり、
特定の目が出るサイコロを作れそうだと気づきました。キリで穴を開け、オモリを仕込むのです。
「いったい何をしてるんだ?」
セカンドに不思議がられました。が、セカンドは大らかなタイプ。さして追求しようとしませんでした。
『できた!』
エレーヌは護衛に自信満々でお披露目しました。
「一発でバレる」
NGを喰らいました。既に存在するそうです。
エレーヌは別のサイコロを考えました。
『できた!』
お披露目です。護衛は「なるほど」と言ってくれました。
「じゃ、どーぞ。私は使わないから」
「ヌーちゃん、だったら、なんでこんなん作った」
「楽しーから」
またまたエレーヌの、ん? な部分が出てしまいました。
「じゃ、遠慮なく」
護衛は、イカサマサイコロを貰ってくれました。
小さなオレンジは、とても甘くてジューシーでした。
北の国の肌を刺すような風とは違い、西の国の風は、冬の冷たさであっても優しく柔らかです。エレーヌ達は、南の方から運ばれた小さなオレンジを味わい、西の国の都に近づいていることを感じました。
旅のほとんどは山や荒地です。変わり映えのしない景色の中、海が見えてきました。
「ナッツ海だ」
ナッツ海は小さな海です。南側にヘーゼルナッツが採れる地域が広がっています。海の名前はそれが由来でしょう。
ナッツ海の南西に西の国の都があります。とても栄えている大都市です。都は小さなナッツ海と大きなオレンジ海に挟まれています。
エレーヌは、ナッツ海とオレンジ海のどちらかが星宿る海の可能性があると思っています。ナッツ海もオレンジ海も波が穏やかです。
夜、エレーヌは、静かな波の端から星の雫が生まれ、空へ登るのを待ちました。満天の星空と波は静かなまま。目を凝らしても星は生まれません。風が奏でる音楽も聴こえません。
エレーヌがぼんやりと星宿る海のことを考えていると、セカンドが「寄りたい場所がある」と切り出しました。
「行きましょう。どこですか?」
エレーヌは尋ねます。
「父のところ。今、西の国にいるんだ」
セカンドの父親は、央の国では有名です。銅像まである英雄だからです。
セカンド父は勇者でした。要するに流しの兵士。央の国は広く、国境は複雑です。接しているのは北の国、西の国、南の国だけではありません。あるとき、北西の方から攻められました。鬼強く、央の国は参っていました。そんなとき、どこからともなくセカンド父が現れ、軍を束ね、敵をやっつけて領土を守りました。
央の国の都へ凱旋したセカンド父は、央の国の先代女王に「欲しい物をなんでも言いなさい」と言われました。現女王を所望しました。1ヶ月ほど共に暮らし、セカンド父は、再び遠い国の戦いの話を聞いて流れて行きました。
「お母様が追い払ったのですか?」
エレーヌは、自分の母親なら、ファウストの父親と同じようにセカンド父を疎みそうだと思いました。
「違うよ」
「だったらなぜ。騎士の称号でも爵位でも縦ではありませんか」
騎士の称号や爵位は女王が領地と共に与えるものです。領地を得れば、その場にとどまって豊かに暮らすことができます。そうしなくても王家の婿ならば王宮に暮らして然るべきです。
「父は、さすらい人なんだよ。勇者ってのは、そーゆーものなんだ」




