我々の賭け金は民の税
大勢の兵士が入ってきました。動くなと言われて従う者などいません。誰もが我先にと逃げます。そこらじゅうにカードやチップ、サイコロが散乱し、もみくちゃです。
「こっちへ」
エレーヌは不意に手首を掴まれました。セカンドでした。
『どーすればいい?』
男だらけの賭場。エレーヌの服は目立ちます。捕えられるのは時間の問題。いえ、次の瞬間にもお縄かもしれません。セカンドについて行けば、なんとかなる気がします。セカンドは昔から逃げ足がめちゃくちゃ速いのです。
『任せた』
エレーヌは手を引かれるままついて行きました。腕が千切れるかと思うほど速く走らされました。薄い生地のスカートの中で脚が大回転。静かな場所まで来て立ち止まった時には、エレーヌの仮面が外れていました。
「エレーヌ!?」
これはまずいことになりました。
「あ、えと。これは私が勝手にしたことで、えっと」
エレーヌはまず、ジジと護衛と御者のことを考えました。
「わがまま言ったのか?」
「はい」
「楽しかった?」
「とても」
怒られるかと思ったら、セカンドはにかっと悪戯っぽく笑いました。
「こんなときしかできないもんな」
なんと話が分かる兄でしょう。自分も同じ穴のムジナなので強く言えないだけなのでしょうか。
「お兄様。」
「ま、これでやめよう。お互いに。我々の賭け金は民の税なのだから」
「はい」
エレーヌが返事をすると、セカンドは少し離れた草むら、木、建物に視線をやりました。
「出てこい」
その一声で、草むらから護衛、木の上から御者、建物の影からジジが出てきました。3人は音もなく現れ、セカンドの足元にひれ伏しました。
「「「申し訳ありませんっ」」」
平謝りです。エレーヌの心がちくちくと痛みます。
「違うの。私が言ったから」
「分かってる。3人とも、ありがとう。エレーヌにとって貴重な体験だっただろう。じゃあ、明日、約束通りに会おう。夜道に気をつけて」
セカンドは去って行きました。平伏していた3人はやっと立ち上がります。
「クビかと思った」
と護衛。
「かっけー。オレ、あの人になら抱かれてもいい」
と御者。
「あら、女好きのくせに。エレーヌ様、ご無事で何よりです」
とジジ。
エレーヌには確認したいことがあります。
「気づいたらチップがなくなってたの」
チップはやはり無事でした。すでに換金済み。護衛が銀をどっさり懐から出しました。最初に換金に使ったイヤリングも身ぐるみ剥がされたときの自分の服も取り戻していました。
「よかったぁ。ありがとう」
4人で宿に戻りました。
「いや〜。ヤバかった。西の国で央の王女が捕まるなんてとんでもなかった」
「マジ助かった」
「職も首も吹っ飛ぶところでした」
実は、旅のお供に護衛と御者を選んだのは、セカンドなのだそうです。2人が属する軍のトップら辺にセカンドがいるのだとか。大抜擢とのこと。人選には、腕が立つことの他に基準がありました。
「忠誠心ですか?」
「ちっちっ。ヌーちゃん、違うぜ」
『主人を目の前に忠誠心を否定。舐められたもんだわ』
「世間を知ってるってとこ」
「「世間?」」
「ほーら、例えばいきなりトラブルになったとする。世間知らずのえーとこの坊ちゃんじゃ、金でカタつけるとか密輸船で逃げるとか思いつかねーじゃん」
「2人とも、いくら賭場で親みを覚えたからとは言え、エレーヌ様に慣れ慣れし過ぎです」
「ヌーちゃ、、、エレーヌ様。我々はどんな手を使っても貴方を守ります」
「なので、ギャンブルで増えに増えた銀で美味しいものでも食べましょう」
ちゃっかり者です。
「ところで、ヌーちゃん。どーしてあんなカードゲーム強いん?」
「カード透視できるとか?」
「出たカードを全部覚えたの」
「「は?」」「え?」
「だから、カードの山が新しくなると、確率が低くなっちゃう」
「「「……?……」」」
エレーヌの、ん? な部分が炸裂。3人は首を傾げました。
エレーヌは、出てくるカードを全部記憶します。出てこなかったのが残っているカードということになります。そして、相手のカードや次に出てくるカードを確率で推測。勝負に挑むのです。
夜遊びをしたので、深夜も過ぎ、朝が近い時刻です。とりあえず、眠りました。
翌日、セカンドの従者が宿を訪ねてきたとき、エレーヌはやっと目覚めました。
そして、宿の前でセカンドと再会しました。数時間ぶりです。が、セカンドの従者はそのことを知りません。
「エレーヌ、元気だったか」
がばっ
『う"っ』
いつものように、セカンドに骨が軋むハグをされました。その様子を見て「ご無事で何よりです」と従者は央の国へ帰って行きました。




