たぎってしまいますわ
「ブラックジャック」
正面のディーラーがポーカーフェイスを崩しかけています。エレーヌは仮面の下でにっこにこです。
「ヌーちゃん、すげー」
「どんどん強くなるじゃん」
「早く帰りましょう」
ここは賭場。とうとう憧れの場所です。エレーヌはカードゲームで勝っています。
護衛と御者はエレーヌのことを「ヌーちゃん」と呼んで応援します。「エレちゃん」ではバレる恐れがあるから「ヌーちゃん」です。
いったいなぜ、王女ともあろう者がこのような状態になっているのか説明しましょう。
北の国の旅は終わりました。エレーヌ達は第1王子へ手紙を渡し、狐火を見て、北西の端から南下。西の国への途中、早馬が手紙を持ってきました。2番目の兄は、すぐそばまで来ていて、2日もあれば合流できるとのことでした。それを知った場所は、ちょうど分岐点近く。央の国へ帰るファウストは、分岐点から央の国へ行く方が簡単です。一方、西の国は別方向。2番目の兄との合流は西の国の街でした。
「もうすっかり旅慣れたし、君達がいれば大丈夫だろう。エレーヌをお願いするよ」
「「「お任せください」」」
ということになり、ファウストは央の国への帰路を選びました。
2番目の兄と合流するまで2日。そんな1日目の夕食どき、冬なのに、ほぼ下着姿で護衛が宿へ帰ってきました。
「大丈夫か。追い剥ぎにやられたのか?!」
エレーヌとジジも驚きました。護衛はとても強く、追い剥ぎぐらいやっつけるはずだからです。
「すっちまった」
ぼそっと呟くと、護衛は、御者からグラスを奪い取り、お酒をぐびっと飲み干しました。
「ああー、オレの酒。出せ」
「じゃ口開けろ、吐く」
そんなげろげろな醜いやりとりに、ジジは眉をひそめました。
一方、嬉々としたのがエレーヌです。
「すったというのは、賭場で?」
「そーっす」
「連れて行きなさい。社会見学です」
エレーヌは強気に言ってみました。
「なに言ってんっすか。貴族の女が行くとこじゃありません」
「えーっと、えーっと。じゃ、ほら、リベンジに行くのはどう?」
「「「リベンジ?」」」
「私、高価なものならいっぱい持ってる。イヤリングとかネックレスとか」
「エレーヌ様! とんでもありません」
当然ジジは反対しました。
ところがです。護衛と御者はノったのです。
「よーっしゃ。行こうじゃないか」
「じゃ、エレーヌ様がオレのパトロンになってくれるっつーことっすか?」
「カードゲームやサイコロのやり方は勉強しました」
「「「勉強?」」」
「大人達が夜毎に脚を運ぶほど熱狂するので知りたくて」
「「「まさか」」」
「リベンジするのは、私。ブラックジャックは勝てる気がするの」
「「はーっはっははっは」」
エレーヌの言葉に護衛と御者は膝を叩いて笑いました。
「とにかく! 賭場へ連れて行きなさいっ」
仁王立ちし、精一杯の威厳を出動させて命じました。
というわけで、賭場です。顔バレ身バレは御法度。顔を仮面で隠しました。
エレーヌは真っ先にブラックジャックのテーブルを見学しました。本で学んだやり方でOKかどうかを確かめるためです。感じを掴めたので参戦です。
エレーヌは最初はチップを取られました。しかし徐々に勝つようになり、周りに人が集まってきました。
手元にチップが積み上がり、周りの人たちはエレーヌの勝敗に賭けてチップをやり取りする始末。大盛り上がりです。
そこへ1人、身なりのいい紳士がやってきました。
「お嬢さん、どこかでお会いしませんでしたか?」
『げっ。お兄様』
なんと、やってきたのは2番目の兄、セカンドです。
ひゅーひゅー
キザな言葉に周りは指笛を吹いて盛り上がります。
「ナンパだ」
「よーよーYO」
セカンドがこの街に到着するのは明日と聞いています。どうやら、ギャンブルのために前ノリした様子。気づけば、ジジと護衛と御者がいません。バレてはいけないので姿をくらましたのでしょう。
「ちょ、ちょ、ちょーど帰ろっかなって、思って。ごほっごほっ」
わざと低い声を出しました。慣れない声帯の使い方をしたせいか、咳が出てしまいました。
「少しだけ一緒に楽しみませんか?」
「いえ、そんなわけには、、、」
いつの間にかテーブルの上にあるはずのチップがありません。きっとジジか護衛か御者がちゃっかり持って行ったのでしょう。
『やばい。逃げなきゃ』
と、そのときです。
「動くな! 賭場の責任者を探せ!」
「脱税容疑で逮捕する」




