空はどこまで見えるか
幾重にも重なる巨大なカーテンが空を覆い尽くしています。降り注ぐ緑色の光。教会のステンドグラスからの光に似ていなくもありません。ゆっくりと動く様は雲の速さでしょうか。
神々しいという言葉は似合います。ですが、これを神などにたとえず、狐のしっぽと雪のせいにした人々にセンスを感じます。
エレーヌは星を見ました。しっかりとあります。消えてもいなければ、生まれている様子もありません。
ファウストが「夜空のカーテン」と言い、この地の人々が「狐火」と呼ぶので。エレーヌは、これが別の地で「星宿る海」と呼ばれるようになった可能性が少しはあると考えました。違いました。何よりも風が奏でる音楽が聴こえません。がっかりはしていません。もともと「これじゃない」と思っていたからです。もっと旅を続けたいという思いもありませす。
『狐火。』
エレーヌは空の奥を見つめます。すると、カーテンのずーっと上の方の色が緑ではないことに気づきました。虹のように色があるのです。発光している緑の上は青、その上に紫の部分があるではありませんか。そして、更に上は暗い赤に見えます。
エレーヌは、まだ祈り続けるファウストに声をかけました。
「お兄様、目を開けないと、動いて消えてしまいます」
その言葉で、やっとファウストは立ち上がりました。
「すごいな」
ファウストは空を堪能しています。
エレーヌは案内人に尋ねました。
「狐火はなぜ出るのですか?」
「分かりません。偉い学者さんが言うには、地球が大きな磁石だからだそうです。寒いから見えるって学者さんもいるそうです」
「ここでしか見えないのですか? これだけ大きなものなら、どこからでも見えそうです」
「出るのは、北極に近い場所です。いろんなところから見えますよ。ここまではっきり真上に見えるのは、北極に近いとこですが。もうちょっと南の方からは、別の色に見えるそうです」
「別の色?」
「はい。どうも、下の方は緑だけど、上の方は別の色らしいんです。地球は丸いんで、上の方の別の色が見えるらしいです。これも、偉い学者さんが言ってた話です。私には、さっぱり分かりません。学者なんてのはちょっと変わってる。井戸の低いところから遠くの空を見るとか。井戸の底からは真上の空しか見えやしません」
それは井戸ではなく、緯度のことだとエレーヌは気づきました。
赤道の緯度は0度、北極の緯度は北緯90度。エレーヌがいる地球の北半球では、北極に近い場所、つまり北の方が緯度が高く、南の方は緯度が低いのです。
エレーヌは、北の国に入るときに見た、赤紫色の空を思い出しました。感動です。エレーヌはすでに狐火を見ていたのです。学者の説が正しければですが。
不思議な空の色は、老婆の話に繋がりました。しかし、老婆は「遠い南の空」と言いました。狐火は北極に近い場所で出るそうです。南の空ならば、狐火とは関係ありません。
エレーヌは考えました。
『地上の景色が見えるところは限られてるけど、空はずっと広い。とんでもなく遠くで、空が赤くなるようなことがあったのかも』




