不治の病に罹った兄達
「え、いいんですか?!」
「いーんじゃない? 星宿る海が見つかるとは思えないけど。貴方は、いずれ、この央の国を治める身。いろんな国を見てくるのはいいんじゃないかしら。でもね、1人じゃ危ないわ」
北の国には1番目の兄、西の国には2番目の兄、南の国には3番目の兄、東の島国には4番目の兄が一緒に行くことになりました。兄達には勉学や公務があるので分担です。兄達の分担は、将来、それぞれがその国の外交を主に担当する、という見聞を深める意味もありました。
こうしてエレーヌは、星宿る海を探しに行くことになりました。
「旅先で恋してできちゃったら儲けもんだから! 頑張りなさい」
女王の見送りの言葉に辟易しながら、エレーヌは旅立ちました。
最初の旅のメンバーは5人です。エレーヌ、1番目の兄のファウスト、護衛、御者、侍女。
季節は秋。耕された小麦畑が広がり、遠くに黄金色のブドウ畑が見えます。
「今年は小麦もブドウも豊作だ。いいワインができるね」
車窓から景色を眺め、ファウストは眩しさに目を細めました。
エレーヌは大人になりたくはありませんが、お酒には興味があります。恋愛小説に「酒の上での過ち」という言葉があったからです。とても猥雑な響きでした。お酒によって、いったい体にどのような変化が起こるのか興味があります。
「ワインを飲んでみたいな」
そう言うエレーヌにファウストは微笑みます。
「あと何年かしたら、だね。ほら、そんな口を尖らせて。ああ、かわいい」
4人の兄達は、同じ不治の病に侵されていました。ファウストは、兄弟全員がその病だと知っています。なので、形式だけの挨拶しかできなかった他の兄弟達を思って、ゆっくり話す機会を設けてありました。
最初の宿は王家の別荘です。見慣れた建物に向かう馬車に、エレーヌは困ってしまいました。
「お兄様、これではお忍びになりません。せっかく変装までしてるのに」
「最初から藁のベッドに寝るつもりかい? これから厳しい旅が始まるんだ。まずは、星宿る海がどこにあるのか、情報を集めよう」
「はい。」
「それにエレーヌ、出発が急すぎて、別れを惜しむ時間もなかったんだ」
旅は突然でした。エレーヌの逃亡が失敗した3日後だったのです。逃亡の次の日には王立学園の友達や先生方、教会やお世話になっている方々に挨拶をし、その間に侍女が荷造りするという状態でした。2日後には友達とのお茶を飲みながらの送別会。その次の日、つまり今日の朝が出発でした。
別荘では、すでにパーティが始まっていました。
親しい友達は学園を休んで朝からこちらに向かいました。朝、見送りをしてくれた3人の兄達は、馬をとばして来ていました。
『だからか』
エレーヌはやっと、自分達の馬車がちんたら走っていた訳を知りました。
「エレーヌ!」
がばっ
『う”』
2番目の兄は馬車から降りたエレーヌを抱きしめました。容赦のないハグにエレーヌの骨が軋みます。
「君が危険な目に遭うんじゃないかと心配で、このまま連れ戻したいくらいだよ」
3番目の兄は、ほんのり涙を浮かべ、揺れる瞳でエレーヌを見つめます。
「な、この髪、おもしろいな」
4番目の兄は、エレーヌのポニーテールをくりんくりん触って遊びます。
4人の兄達が揃いも揃って患っているのは、シスターコンプレクスという病でした。本人達に自覚症状はありますが、誰も治す気はありません。
4人の兄達の麗しさと愛情深さに、その場にいる女の子達が「はぁぁぁ」とうっとりです。エレーヌの女友達は、兄達やその男友達に密かに色めき立っています。
食事をしながらの談話が始まりました。もちろんテーマは「星宿る海」。




