神様なんて大っきらい
北の国の第1王子の城へ手紙を届けました。
「よくぞ届けてくださいました!」
手紙には、第1王子に王位を継承することが書かれていました。
エレーヌとファウストは、とても感謝されました。ことに3人の白髪の老人は、涙を流して跪きます。かつて、先代の国王のときの大臣でした。第1王子は、現国王にないがしろにされた政治家達を雇っていたのです。彼らのおかげで、第1王子の治めている領土はとても豊かでした。畑は耕され、街には多くの人々が行き交い、物資が行き来する道路は整備されていました。
第1王子は、王位継承のために都へ行くと決めました。
そんな忙しい中、エレーヌ達のことを気遣い、道に詳しい案内人をつけてくれたり、馬とソリを貸してくれたりしました。
「すてき! 初めて。なにこれなにれ。サンタクロースの乗り物ね」
エレーヌは大はしゃぎです。
「車輪がついていないのですね。そして、でかっ」
ジジは馬の大きさに驚いています。足腰がっしりの雪道タイプ。
馬車のときは、4頭立てでした。ソリは2頭立て2台です。1台目にエレーヌ、ファウスト、護衛、案内人。2台目にジジと御者と荷物です。荷物は貸して貰った防寒具が大半です。
宿はどこも現地仕様。部屋の中もそれほど暖かくなく、ジモティ以外には耐えられないとのこと。北の国の人間ですらそうなのです。央の国で育ったエレーヌ達は寒さで狐火を見るどころではなくなってしまうでしょう。
ソリは快適でした。揺れ方が全く違います。最初は快適さに喜んでいましたが、屋根も囲いもなく、吹雪に顔がぱきぱきに凍えました。そして、エレーヌはひたすらお腹が空きました。いつもの倍食べても足りません。
『太っちゃう』
エレーヌは心配しました。が、周りのみんなも、明らかにいつもより食べていました。エレーヌはジジのウエストが細いままなのを見て、自分のウエストを触ります。
『大丈夫っぽい』
エレーヌは秋より痩せていました。安心して暴食することができました。
丸太でできたログハウス調の宿には雪が降り積もり、夜の闇の中で幻想的に浮かび上がっていました。窓から黄色い光が漏れています。
「こんな天気じゃ、今夜は出ないでしょう」
案内人は、狐火は晴れた空にしか出ないと教えてくれました。
宿は、エレーヌ達を丁重にもてなしました。第1王子の家臣が早馬で貴賓を知らせ、様々な手配をしてくれたのです。いつもより豪華な食材、多くの薪や蝋燭が用意されたようです。掃除も完璧。ダニや南京虫の心配はないでしょう。清潔以前に極寒の地ですから。
次の夜、眠っていたエレーヌは起こされました。
「狐火が出たようです」
大急ぎでベッドから出ました。
『さっぶ』
部屋の中とは思えない寒さです。簡単に服を着て、第1王子が用意してくれた毛皮を羽織ります。
窓のある部屋には、皆が集まっていました。
「緑!」
初めて見る空でした。夕暮れや朝焼けとも違う不思議な光です。
「ご用意できました」
その合図で外に出ました。狼や熊がいるので、大量の篝火があり、兵士達が暗闇に向かって見張りをしています。
外に出、エレーヌは空を見上げて思わず両手を広げました。
「うっわー」
なんという巨大なカーテンでしょう。空一面、緑、緑、緑。夜空に巨大なカーテンが吊り下げられていて、それを下から眺めているみたいです。巨大なカーテンは何枚もあり、ゆっくりと動いています。エレーヌは空を見上げ、両腕を広げたままくるくる回りました。
「なんと。これは、神の仕業か……」
ファウストは雪の上に両膝をつき、手袋を外して両手を組み合わせます。ファウストの厳かな祈りを見て、エレーヌは騒ぐのをやめました。本当なら、同じように祈りを捧げるべきでしょう。けれど、それはしませんでした。エレーヌにとって神様は、とても冷酷なのです。
神様は、フォーという素敵な人の妹としてエレーヌを存在させました。神様は、エレーヌに未来の女王という重責を与えました。
この2つだけで、十分、エレーヌが神様を嫌いになる理由になります。
まだあります。
先々代の女王は、同時に5人を婿に迎えて心を病みました。神様はどうして助けてくれなかったのでしょう。先代女王は、結婚離婚を繰り返しました。庶民の誰もが喜び祝う婚礼の儀を、女王だけは行わないと決めるほど嫌悪しました。それほどの辛い思いをなぜ神様は放っておいたのでしょう。試練ならば行き過ぎです。そして、神様は母親を女として孤独にしました。
水害、干ばつ、地震、戦争、善良な人々が被害に遭ってきました。親が怪我で働けず、或いは死に、子が、辛い思いをして恵まれない環境で育ちます。
エレーヌは、神様をこの世で最も傍若無人で最悪で高慢ちきで冷酷だと思っています。全ての罵りの言葉を浴びせたいくらいです。




