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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon


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14/15

戦と政治は別物でした

廊下でファウストに出会いました。ファウストは、シーツにくるまった女性に自分の前を歩かせ、その背中に剣を構えていました。


「ああ、エレーヌ。無事だったんだね。今後、このようなもてなしを受けないよう、国王陛下にお願いに行くところなんだ。(おう)の国は堅物ばかりと示しておかなければ」


エレーヌも一緒に行くことにしました。こういうときは、次期女王という立場を利用させてもらいます。


当然のことながら、国王の寝室には簡単に入れません。まず、部屋の前に番をしている兵士が2人。その2人は素直に取り次いでくれました。出てきたのは妃です。


「なにごとです。場所と時間をわきまえてください」


妃に言われてもファウストは怯みません。


「国王陛下にお取り次ぎをお願いします。私の部屋に女がおりました。刺客かもしれません。国王陛下はご無事ですか」


妃は、シーツに(くる)まった女性を見て、ちっと舌打ちしました。


『怖っ』


失敗しやがって、という妃の心の声が聞こえます。裸の女性が妃の命令を受けたのは明らかです。


「国王陛下はお休みになられました」


妃は深夜であるにも関わらず、夜着ではありません。どうみても就寝前。


「城に刺客がいるなら、国王陛下が狙われる可能性があります」


ファウストは声を張り上げました。が、妃も引きません。


「城の守りは完璧です」

「では中へ」

「なりません」


エレーヌは、これだけごちゃごちゃ揉めているのに国王が顔を出さないことを不思議に思いました。妃が服を着ているなら、国王も起きていそうなものです。エレーヌは、ファウストと妃の脇を身を低くして突破。その部屋に国王はいませんでした。ベッドもありません。


『いない』


ならば寝室はもう1つ奥の部屋です。


「無礼です!」


なぜ妃はこれほど入室を拒んでいるのでしょう。エレーヌは寝室へ繋がるドアを見て驚きました。ドアの下や両開き部分の中央、蝶番(ちょうつがい)の辺りに布がぎっちり差し込んであります。


『一酸化炭素中毒!』


エレーヌは急いで布を取り除き、


どん


肩を思い切りぶつけてドアを開けました。


「国王陛下!」


その部屋には(おびただ)しい数の蝋燭(ろうそく)がありました。昼間のように煌々と輝く炎が無数に揺れています。エレーヌの横をファウストと護衛とジジが駆け抜けます。ファウストは叫びました。


「窓を開けろ! 蝋燭を消すんだ」


物々しい叫びに、大勢の兵士達が部屋に雪崩れ込んできました。


「「「「国王陛下!」」」」


兵士達は、国王を空気が綺麗な別室に移動させました。その場で妃を捕えました。


朦朧(もうろう)としていた国王は、数時間後、やっと意識がはっきりしました。


「「ご無事でなによりです」」


エレーヌとファウストはほっとしました。


医師や他の者を退席させた3人だけの部屋。国王は、ぽつりぽつりと話し始めます。


「私がいけなかったのだ。妃を甘やかし過ぎた。もっとも間違ったのは人事だ」


国王は即位前、武力によって侵略から北の国を守ってきました。まだ先代が国王だったころはそれでよかったのです。しかし、先代国王が崩御した後、政治を行うようになると、古くからいた忠臣を遠ざけました。既にできあがった場所に、自分だけが新人として入る状態。古株が(うと)ましかったのです。国王の3人の息子達は、忠臣を退かせることに大反対しました。政治は上手く回りませんでした。

そんな、国王にとって四面楚歌のときに現在の妃が現れました。


「あの一族の差金だろうということは分かっておったのだ。だが、妻を亡くして20年、共に生きる者が欲しかった」


ねだられるがまま、妃の一族を要職に就けました。


「政治は戦と違って複雑怪奇。面倒な言い回しや根回しなど、すぱっとはっきり分からんものは苦手だ」


国王は、自分が術中にはまっていることを知っていました。


「まさか、今夜殺そうとしたとは。最近は酒を飲む機会を減らしていたから、今夜がチャンスだったのだろう。私は体にいい紅茶を毎日飲まされる。妃にな。それには恐らく、体を弱らせる毒が入っている。死ぬのを待てなかったのか」

「お分かりになっていらっしゃるなら、なぜ」


ファウストは憤りを隠せません。


「いいのだ。私は草原を馬と駆ける男だ。城の中にいても役に立たん」

「そんなことはございません」

「愚かよのう。自分を殺そうとする妃のもとでしか、心を癒すことができんのだ」

「国王陛下……」


エレーヌはどんな言葉をかければいいのか分かりませんでした。

国王は、その場で手紙を1通書きました。


「これを長男に届けてほしい」

「「はい」」

「信用して手紙を託せる家臣すら、今はいないのだ」

「承知しました」


エレーヌは誓いました。


「必ずお渡しします」


国王は強い目でエレーヌに向けました。


「次の世代でも、この北の国との交流をよろしく頼みます。未来の央の国の女王」




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